車を減価償却するときの耐用年数や償却率は?税理士が詳しく解説
地方では業務をするうえで車は必須であり、車の会計処理は重要です。その際には、車を買うことで発生する減価償却の仕組みや、計算方法を理解しておかなければなりません。個人事業主がプライベートと仕事と兼用で車を使っている場合の計算方法のほか、車の減価償却の仕組みや耐用年数、償却率、節税効果のある車の選び方について、税理士がわかりやすく解説します。
地方では業務をするうえで車は必須であり、車の会計処理は重要です。その際には、車を買うことで発生する減価償却の仕組みや、計算方法を理解しておかなければなりません。個人事業主がプライベートと仕事と兼用で車を使っている場合の計算方法のほか、車の減価償却の仕組みや耐用年数、償却率、節税効果のある車の選び方について、税理士がわかりやすく解説します。
目次
車の減価償却とは、車の購入価額のうち取得原価となる額を何年かにわたって、経費としていく会計処理のことです。
例えば、車の購入額が300万円である場合に、その全額が買ったときの経費になるわけではないということは、多くの方がご存じだと思います。車は固定資産に分類されます。固定資産というのは単純にいえば、1年を超えて使えるものです。
1年を超えて使えるわけですから、買った年に購入価額の全額を経費にするのは、さすがに不合理です。そこで、購入価額のうち資産として計上される部分である取得原価を、使えると見込まれる期間(耐用年数)にわたって、経費にしていくという会計処理が減価償却と呼ばれるものです。
減価償却とは、固定資産の取得原価を、耐用期間の各事業年度に適正な費用配分を行うことによって、毎期の損益計算を正確に行う会計処理のことです。
損益計算(儲かったかそうでないか)は、単にお金が増えた・減ったという意味とは異なります。固定資産を購入すればお金は減りますが、減ったお金(支出)すべてが購入した会計期間の経費にはなるわけではありません。
例えば、支出したのは300万円だけれども、当期の経費となる額は50万円と計算した額が減価償却費です。支出を各事業年度に割り当てるというのが大事な考え方です。
ちなみに、固定資産であればすべて減価償却をするわけではありません。減価償却をしない代表的な資産としては、土地があげられます。減価償却をする前提として「時の経過によりその価値が減少すること」という条件があります。土地は、地価の増減はあれど、価値が減少するものではないため減価償却をしません。このような資産を非償却資産と呼びます。そのような資産には他には例えば、一定の美術品があります。
また、減価償却は価値が減少し、なくなるまでの期間にわたって会計処理をするわけですが、その期間は本来、各々の見積もりによって決めるべきものです。同じプリウス(車)でも、A社は10年乗り切るつもりであれば10年、B社は5年で買い替える予定であれば5年とする必要があります。
ですが、そのように決めると課税上の公平性が保てないため、税法上では決まった年数が定められています。上場企業でもない限り、ほとんどの会社では税法上で決まった耐用年数(法定耐用年数と呼びます)を用いています。
次に、車を減価償却するときのポイントを解説していきます。
減価償却を計算するうえで第一に問題となってくるのは、取得原価がいくらになるかです。とりわけ支払った額のうち、取得原価となる範囲が重要です。特に車の場合、支払ったお金全額が取得原価になるわけではありません。なかには購入した事業年度に経費となる(できる)もの、固定資産であるけれど減価償却しないものがあります。
取得原価の範囲を車両の明細書の項目別にまとめると、下表のようになります。
車両現金販売価額 (車両本体価格+付属品価格+特別仕様価格) |
取得原価 |
税金・保険料 | 経費 |
課税販売諸費用 | 経費(納車費用は取得原価) |
預り法定費用 | 経費(リサイクル預託金部分は資産に計上する) |
その他 | ・メンテナンスパックは長期前払費用として資産に計上する ・JAFの会費は経費とする |
例えば、新車を購入した場合、購入した事業年度に経費となる(できる)ものは、以下が該当します。
①自動車重量税、自動車税種別割、自動車税環境性能割 ②検査登録関連費用(検査登録手数料、代行費用、車庫証明関連費用、ナンバープレート交付費用) |
このうち②は経費と“できる”ものですので、取得原価に含めても構いません。
また、自賠責保険は新車購入時であれば3年分を先に払っており、1年を超えるものなので、本来は3年にわたって費用処理をしていくものですが、金額的にも大きくなく、税金関係と同様の性格だということで、実務上は新車購入時には経費とするのが一般的です。
固定資産であるけれど減価償却しないものには、「リサイクル預託金」があります。譲渡や廃車にした場合、預託金が返還されるので、価値が減るわけではありません。有価証券と同じ扱いです。
最近はメンテナンスパック(サポート費用)を付けることが多いようですが、1年を超えるものであれば、本来は車の取得原価とは別に長期前払費用として計上して、サポート期間にわたって償却していくものです。
上記以外の車両本体価額はもちろん、オプションの付属品は車全体の取得原価となります。例えば、オプション品のカーナビが15万円だからといって、そこだけ取り出して別に減価償却するようなことはしません。
逆に言うと、車を購入する際の購入明細に諸経費とあるものは、新車の場合は多くの項目が取得原価とはなりません。ただし、納車費用は取得原価に含めます。
減価償却を計算するうえで第二の問題となるのが耐用年数です。実務上は法定耐用年数が定められているので、新車の場合はそれに従います。
「機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表」では、大分類として「車両及び運搬具」があり、その下に構造用途として「鉄道用又は軌道用車両」「特殊自動車」「運送事業用、貸自動車業用又は自動車教習所用の車両及び運搬具」「前掲のもの以外のもの」に分かれ、さらに細目に分類されていきます。
このうち、通常の会社で車(普通の乗用車)を購入した場合、以下の構造用途と細目が該当し、法定耐用年数は6年となります。例えばプリウスも6年です。
・構造用途:「前掲のもの以外のもの」 ・細目:「その他のもの」‐「その他のもの」 |
同じように、軽自動車は4年、ダンプ式ではない貨物自動車は5年となります。
中古車の場合、耐用年数は法定耐用年数ではなく、その事業の用に供したとき以後の使用可能期間として見積もられる年数で会計処理することができます。使用可能期間の見積もりが困難であるときは、簡便法により算定した年数によることができます。
実務上は、使用可能期間の見積もりが困難であることがほとんどであり、簡便法により算定した年数となります。
簡便法による耐用年数の算定方法は、次のとおりです。
①法定耐用年数の全部を経過した資産 | その法定耐用年数の20パーセントに相当する年数 |
②法定耐用年数の一部を経過した資産 | その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20パーセントに相当する年数を加えた年数 |
例えば、中古のプリウス(法定耐用年数6年)を買った場合、耐用年数の算定方法は以下のようになります。
①8年落ち→6×20%=1.2→2年 | 法定耐用年数の6年を経過しているため、法定耐用年数の6年の20%となる。年数は切り捨てだが、その結果2年に満たない場合は2年とする |
②4年落ち→(6-4)+4×20%=2.8→2年 | その法定耐用年数の6年から経過した年数4年を差し引いた年数2年に、経過年数4年の20%に相当する年数である0.8年を加える。この結果2.8年になるが、1年未満の年数は切り捨てとなり、2年となる |
かつて、減価償却には残存価額という概念がありました。いまはもう実質的にありませんが、減価償却が終わった場合、残存価値は1円になります。
一方、丁寧に乗れば売却する際に数十万円となることもあります。売却価額と残存価額1円の差額が売却益となります。
車に限らず固定資産を減価償却するときには、大きく2つの計算方法があります。定率法と定額法です。どちらも、1以下の数値を乗じますが、その1以下の数値を償却率と呼びます。
定率法とは、簿価(会計書類に記載された資産の価格)に定まった率を乗じて、減価償却費を計算する方法のことです。法人(法人税)での原則的な方法です。
計算式は以下のようになります。
取得原価×定率=減価償却費 取得原価‐減価償却費=期末簿価=期首簿価 期首簿価×定率=減価償却費 期首簿価‐減価償却費=期末簿価=期首簿価 |
例えば、取得原価300万円のプリウス(法定耐用年数6年)を期首に購入して、定率法で減価償却する場合の計算式は以下のようになります。
1年目:3,000,000×0.333=999,000円 3,000,000-999,000=2,001,000 2年目:2,001,000×0.333=666,333円 2,001,000-666,333=1,334,667 3年目:1,334,667×0.333=444,444円 4年目以降も同様の計算式で続く(※) |
耐用年数6年の定率法の償却率は0.333です。これは定額法の償却率0.167の2倍(200%)です。そのため、200%定率法とも呼びます。
(※)定率法は年数を経るに従い減価償却費が少なくなっていきますが、あるとき(償却保証額を下回るとき)になると、別の計算方法になります。
定額法とは、定まった額を減価償却費とする方法のことです。個人事業主(所得税)での原則的な方法です。3,000,000÷6=500,000が減価償却費となるかというと、そうではなく、ここでも定まった率を用います。
法定耐用年数6年の定額法の償却率は0.167(1÷6=0.1666…→0.167)です。
計算式は以下のようになります。
1年目:3,000,000×0.167=501,000円 2年目:3,000,000×0.167=501,000円 3年目:3,000,000×0.167=501,000円 4年目以降も同様の計算式で続く |
定率法と定額法を比べると、定率法のほうが最初のうちの減価償却費が大きくなりますが、年を経るごとに減価償却費が少なくなっていきます。
ここでは、車を減価償却するときの注意点について紹介します。
決算月に車を買えば、全額ではないにしても少しは経費にできると考えて購入したとしても、経費にできるのは1カ月分です。つまり、償却額の1/12です。
法人(定率法)で取得原価3,000,000円のプリウスを決算月に購入した場合、以下が決算月の減価償却費となります。
3,000,000×0.333×1/12=83,250円 |
取得時の諸経費が多少経費になるとしても、1カ月分しか減価償却できないため、決算月に車を購入することはあまり得策とは言えません。なお、個人も会社と同様に月割です。
車に限らず、減価償却資産は買って手許にあるだけでなく、実際の事業の用に供している必要があります。そのため、車を買って眺めているだけではダメで、実際に乗って使うことが必須です。まして、注文してお金を払ったら償却開始となるわけではありません。昨今は新車の場合、納車に時間がかかることもあるようなので、気をつけてください。
プライベートと仕事と兼用で車を使っている個人事業主も多いでしょう。そうすると、事業に用いている分のみが必要経費となります。
3,000,000円のプリウスを7月に購入して、うち40%はプライベート、60%を事業で使っている場合は、以下の計算方法となります。
3,000,000×0.167×6/12(6カ月分)=250,500円が減価償却費 そのうち、250,500×60%=150,300円が必要経費算入分 |
事業に用いている分をどのように算定するかですが、「業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合」が必要経費になるとされています。車の場合、年間走行距離のうち事業に使った距離で算出するのが最も合理的かと思います。
節税は、税率のギャップを突くことで達成します。個人の所得税は超過累進税率なので税率のギャップが顕著ですが、法人であっても、特に中小法人は実はゆるやかに累進税率となっていますので、税率のギャップはあります。そこで、個人、法人とも利益(所得)を平準化させたほうが真の意味で節税となりえます。
個人的には節税対策として、車(特に直接的に利益を生むわけではない社長の車)を買うことはあまり得策ではなく、Webの更新を始め、広告宣伝に力を入れることや、従業員の教育研修を行うほうが良いと考えています。
それでも当期は好調で思わぬ利益が出そうで、来期以降は厳しいことが予想されるという場合、車を買うことで節税をしようとすることに一考の余地はあります。
つまり、車を用いて当期に経費を出して、来期以降に売却益を出して利益(所得)を平準化させることで、トータルの税負担を少なくするわけです。
その場合、できるだけ耐用年数が短く、そして売却時に値崩れしない車を選ぶことになります。ここで、4年落ちの高級中古車であれば法定耐用年数が2年と計算されるため、定率法であれば償却率が1.00となって、多くの減価償却費を計上することができる一方、取得原価とそう変わらない高値で売却できることが期待でき、売却益が生まれます。そうなると、当期の所得をマイナスにしつつ来期をプラスとし、トータルの税負担を少なくすることが可能かもしれません。
また、いわゆる新古車と呼ばれる、登録後試乗車となっていて走行距離が短い車も、中古車であることに変わりありません。そのため新古車の場合、中古車の耐用年数となります。
車を買うことに限らず、広告宣伝に力を入れようが、従業員にボーナスを払おうが、お金を払えばいつかは経費となります。経費が増えれば利益(所得)が減って税金も減り、つまり節税になります。
しかし、その支出がムダであれば本末転倒です。ちなみに、税理士や会計士に相談して臨時に相談料を払っても、そういう意味では節税になるはずですが、そうしようとする経営者の方にはお目にかかれません。いち税理士・会計士としては残念ですが、ともかく、無駄遣いによって節税するというのは考え物です。車を購入して減価償却する際には、節税というキーワードに惑わされないように注意してください。
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