「分業しすぎ」の燕三条をつなぐ ドッツアンドラインズの新たなものづくり
金属加工のものづくりで名高い燕三条地域。三条市で生まれ育った齋藤和也さん(35)は、家業の金属加工会社「ストカ」の専務をつとめながら、ものづくりのプラットフォームとなる会社「ドッツアンドラインズ」を地元の仲間たちと立ち上げました。「家業を手伝ううちに見えてきた、燕三条の課題を解決する会社です」と語る齋藤さんに話を聞きました。
金属加工のものづくりで名高い燕三条地域。三条市で生まれ育った齋藤和也さん(35)は、家業の金属加工会社「ストカ」の専務をつとめながら、ものづくりのプラットフォームとなる会社「ドッツアンドラインズ」を地元の仲間たちと立ち上げました。「家業を手伝ううちに見えてきた、燕三条の課題を解決する会社です」と語る齋藤さんに話を聞きました。
目次
燕三条地域で生まれ育った齋藤さんは、仲間を大切にする少年でした。
「テレビ番組の影響で、『大人になったらヒーローになる』と本気で思っていました。仮面ライダーやドラゴンボールの孫悟空、直近ではワンピースのルフィのような存在です。困っている仲間をすぐに助けるところに憧れました」
「仲間を助けたい」という熱が高まるあまり、ケンカも多かったという齋藤さん。工業高校を2年で退学になるも、土木業やガソリンスタンドで働きながら定時制高校を卒業し、家業のストカに入社しました。
「ストカは、金属のプレス加工を主に手がける会社です。当時、家業に興味はありませんでしたが、社長である父から『欠員が出たのでしばらく手伝ってほしい』と言われ、2008年に入社しました」
入社後はプレスの現場に入りつつ、地元の造園会社でトラック運転の手伝いをしたり、溶接の会社でトレーニングを受けたりしたといいます。折しも時代はリーマン・ショック。自動車関連を中心とした発注が急激に減り、仕事の多くが、価格競争力のある中国へ流出しました。
「父は『これまでの大量生産、薄利多売のままでは立ち行かなくなる。プレスだけでなく、溶接や機械加工の技術を身につけて、付加価値を高めていかなければ』と、ストカの生産体制を大きく見直しました」と齋藤さんは振り返ります。
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「うちは、完成車メーカーの5次、6次ぐらいの取引先です。自動車のシートのブラケット(取付金具)といった部品を手がけていました。それが、プレスから溶接、機械加工、組み立てまでの技術を身につけたところ仕事の幅が広がりました。売り上げも、プレス加工単体で年間8千万円ほどだったのが、溶接を追加すると10%といった規模で増えていきました」
仕事の幅を広げたストカ。業績が伸びただけではなく、取引先からも「助かるよ」と言われることが多かったと齋藤さんは話します。
「組み立てまで一貫して製造することで、取引先の負担を減らすことができました。そこからさらに、『何かお困りのことはありませんか。うちにはめっきや塗装の協力会社もあります。めっきまで加工した製品を全部うちで検査して、梱包するところまでやりましょうか』などと取引先に聞いて回るなかで、燕三条地域の課題が見えてきました」
課題とは、ものづくり企業の「分業」が進みすぎていたことでした。ひとつの製品を作るのに、工程ごとに会社が分かれているような状態です。大量生産に対応するのは得意でも、いったん量が減ると事業が立ち行かなくなってしまいます。加えて、高齢化が進み後継者不足も深刻でした。
「取引先の品質改善会議に行くと、20代の出席者は私だけで、70代や80代の出席者も珍しくありませんでした。『後継ぎがいない』と廃業する会社も現れ、廃業した会社の仕事をストカで引き継ぐこともありました」
「分業しすぎ」「後継者不在」という地域の課題を感じていた齋藤さんは2013年、燕三条の青年会議所に入会しました。
「お世話になった人からのすすめで入会しましたが、最初は気乗りしませんでした。本業が忙しかったし、『青年会議所は、苦労を知らないお坊ちゃんたちの集まり』というイメージを持っていたからです。私自身がアルコールを受け付けない体質で、懇親会という名の飲み会が多いのもデメリットだと思っていました」
それが、ある先輩から「懇親会の場を、仕事のチャンスととらえてはどうか」と言われて見方が変わったといいます。
「懇親会は、相手の行動の先を読んで気遣いを学ぶ場だと意識を切り替えました。そうするうちに、仲間内だけでなく地元の飲食店からも一目置かれるようになったのです。青年会議所での勉強会や懇親会、ボランティア活動を通した新しい出会いが、本業の仕事につながることもありました」
設計、製造、印刷、デザイン、輸送など、ものづくりに関わる仲間との出会いと交流のなかで、齋藤さんはあるアイデアを温めていました。
「燕三条のものづくり企業を横串でまとめ、伴走しながら顧客につなぐ事業です。燕三条のものづくりのクオリティーの高さは広く知られるところですが、それぞれの得意領域がもっとまとまれば、燕三条発のプロダクトが広く届けられると考えました。加えて、『ものづくりに関心はあるけれど接点がない』という人にも、ものづくりと関われる『場』をつくりたいと思いました」
ちょうどそのころ齋藤さんは、JR東日本のプロジェクトで、新規事業の一般公募が行われると聞きました。2018年のことです。
「チャンスだと思いました。公募のテーマが『地域商品開発』と『無人駅の活用』だったからです。無人駅を、私たちがものづくりの発信と交流の拠点として活用できると考えて応募し、採択されました」
そこで生まれたのが、ものづくり交流拠点の「エキラボ」です。齋藤さんはエキラボの運営と燕三条のものづくりのプラットフォーム会社として「ドッツアンドラインズ」を立ち上げ、代表取締役に就任しました。
「ドッツアンドラインズは、青年会議所で出会った仲間9人と東京在住のデザイナーで出資し、シンガポール在住の起業家(アルビレックス新潟取締役の加藤順彦氏)を取締役に迎えて設立しました」
10人で出資した資本金800万円と、クラウドファンディングで集めた300万円あまりを元手に事業を始めました。
取締役会で、2020年の設立から3年間は役員報酬も配当金もなしと決めました。エキラボでのものづくりに、それぞれの本業のサービスを提供することで本業に売り上げと利益をもたらす、というビジネスモデルで運営してみることになりました。
こうして立ち上がったエキラボは、信越線の無人駅、帯織(おびおり)駅の隣にあります。目玉である「設計・工場エリア」には、CADシステムが使えるパソコンや作業工具、カッティングマシンや3Dプリンターなどを完備。このほか商談や作業ができる「シェアオフィスエリア」があります。
エキラボの会員であれば、こうした専門的な機械を自由に使うことができます(月会費は一般980円、法人1万円。一部機器は別途利用料が発生)。
「会員の方々の『こういうものが作りたい』というアイデアを形にできたり、燕三条地域のものづくり企業とつながるきっかけが生まれたりする場所でありたいと考えています」
一般会員は地元の学生や社会人が多く、学校の課題や趣味の作品づくり、親子での工作などにエキラボを活用しています。常駐するスタッフから機械の操作方法を聞くこともできます。「一般会員の方々には、ものづくりのタッチポイントとしてエキラボを使ってもらえれば」と齋藤さんは話します。
法人会員は、ものづくり企業だけでなく、サービス業やコンサルティング業など業種はさまざまです。
「試作品や、展示会用のサンプル作りのほかに、社員教育で使われることもありますね。『こういうものが作りたいので、どこか紹介してほしい』という法人会員に地元の企業を紹介することで、プラットフォームとしても機能しています」
2023年3月時点での会員数は、一般会員が約400人、法人会員が17社。毎月50万円あまりの会費収入があります。加えて、各地から寄せられるものづくりの相談や注文で、売り上げは順調に伸びているといいます。
「創業第1期の売り上げが3千万円、2期が6600万円です。今期は1億1千万円ほどの見通しで、毎年およそ2倍のペースで拡大しています。会員の方々は『こういうものが作りたいので、どこか紹介してほしい』とか、『この金属の成分について話が聞きたい』など気軽に相談してくれます。会員数が増えると、その分手間もかかりますが、燕三条のものづくりの役に立てればという思いです」
ドッツアンドラインズによって生まれたBtoCの商品もあります。エキラボに持ち込まれたアイデアをもとに試作して、地元の工場とマッチングして商品化されたものもあれば、エキラボ主催の「ものづくりアワード」受賞作が商品化されたものもあります。商品は地元駅の人気商品となったり、人気アニメ作品展とのコラボグッズに採用されたりしています。
「商談では、うちでデザインから納入まで一貫して手がけるか、燕三条の会社を紹介して手数料をもらうかなどのプランを提案して、お客さんに選んでもらっています。JR東日本との連携事業というバックボーンは大きく、お客さんからの信頼度の高さを感じます。実際の事業も売り上げは右肩上がりだし、借入金もない経営が続けられています」
メンバーそれぞれの本業にも仕事がもたらされたといいます。
「従来の取引だと、皆5~6次メーカーだったのが、エキラボの仕事はお客さんとの直接取引になるので話も早いし、利益率もかなり違います。もともとクオリティーの高い燕三条のものづくりに、プラットフォームがひとつあることで、お客さんと作り手の双方がハッピーになりました」
社名の「ドッツアンドラインズ」は、「点(dots)と線(lines)」を意味します。エキラボで、ものづくりに関わる人たちがつながり、メイド・イン・燕三条の製品が生み出されていく。帯織駅がものづくりの始発駅となり、燕三条の製品が旅立っていくのです。
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