目次

  1. 前払金とは
    1. 前払金の勘定科目
  2. 前払金の具体的な仕訳方法
    1. 前払金を支払い、サービスの提供を受けたとき
    2. 前払金を支払い、年度をまたいだとき
    3. 前払金を支払ったが、先方都合でキャンセルとなったとき
    4. 前払金を支払ったが、こちらの都合でキャンセルしたとき
  3. 前払金と迷いやすい用語と勘定科目
    1. 前受金とは
    2. 前払費用とは
    3. 仮払金とは
    4. 建設仮勘定とは
    5. 貸付金とは
    6. 頭金・内金・手付金とは
  4. 前払金を仕訳するときの注意点
    1. 消費税に気をつける
    2. 残高管理を行う
    3. 外貨で支払った場合の為替換算
  5. 前払金はたまに発生するので要注意

 前払金とは、事業関係の商品を受け取る前や、サービスの提供を受ける前に支払うお金のことです。それが、仕入れの前払いであれば、前渡金といわれることもあります。

 とくに、多額の取引を行うときに、仕入先から要求されることがあります。また、初めて取引を行う場合は、実績がないので、保証代わりに前払金が必要なことがあります。

 支払った前払金は、商品やサービスの代金に充当されます。

前払金の勘定科目・違い・仕訳例
前払金の勘定科目・違い・仕訳例(デザイン:紀井佑輔)

 前払金の勘定科目は、「前払金」です。勘定科目としては、資産になります。

 資産になる理由は、前払金を支払うことで物を購入したり、サービスを受けたりする権利をもっているといえるためです。

 次に、実際に前払金を支払ったときの仕訳方法を4パターン紹介します。

 サービスを受ける前に支払った前払金は流動資産になるため、借方に仕訳します。その後、サービスを受けたときに、内容に応じた勘定科目で残りの金額とあわせて、費用計上します。

【支払時】
 1カ月後に50,000円のコンサルティングを受ける契約をした。なお、前払金として10,000円支払った。

借方 貸方
前払金 10,000 現預金 10,000

【サービス提供時】
 1カ月後、コンサルティングを受けた。

借方 貸方
業務委託料 50,000 未払金 40,000
前払金 10,000

 前払金を支払って、物品の受領や役務の提供を受けずに年度をまたぐときはどうしたらよいのでしょうか。その場合、決算において特別な会計処理は必要ありません。ただし、前払金が残っていてよいかは、その前払金を支払った部署の担当者に確認しましょう。

【支払時】
 半年後に50,000円の物品を購入する契約をした。なお、前払金として10,000円を請求された。

借方 貸方
前払金 10,000 現預金 10,000

【決算時】
 特に仕訳は必要ありません。

【サービス提供時】
 半年後、商品が納品された。

借方 貸方
仕入 50,000 現預金 40,000
前払金 10,000

 前払金を支払ったものの、先方都合でキャンセルとなって前払金が返金されたら、返金されたタイミングで仕訳を行います。もし、その際に違約金を受け取った場合は、それも収入として計上します。なお、違約金の勘定科目は、使用する機会も少なく金額も少額になることが多いため、雑収入を使うのが一般的です。

【支払時】
 半年後に50,000円の物品を購入する契約をした。なお、前払金として10,000円を請求された。

借方 貸方
前払金 10,000 現預金 10,000

【キャンセル時】
 先方が商品を用意できなくなり、前払金の返金と違約金5,000円の合計15,000円が支払われた。

借方 貸方
現預金 15,000 前払金 10,000
雑収入 5,000

 前払金を支払ったものの、こちらの都合でキャンセルしたときに違約金が発生したり、前払金が返金されなかったりした場合は、雑損失など営業外損失の勘定科目を使って仕訳します。

【支払時】
 半年後に50,000円の物品を購入する契約をした。なお、前払金として10,000円を請求された。

借方 貸方
前払金 10,000 現預金 10,000

【キャンセル時】
 こちらの都合でキャンセルを行った。前払金は返金されず、違約金5,000円を請求されて支払った。

借方 貸方
雑損失 15,000 前払金 10,000
現預金 5,000

 前払金と似たような意味で用いられる用語と、それを仕訳するときの勘定科目の一覧です。

用語 意味 勘定科目
前渡金 仕入れに関する前払いに使われることがある 前渡金
前受金 商品やサービスの提供側として、得意先から事前にお金を受け取ること。前払金とは対になる 前受金
前払費用 経過勘定科目。期限が決まったサービス等に対して計上される 前払費用
仮払金 用途が定まっていない、金額が確定していない支払に対して使用する 仮払金
建設仮勘定 建設工事などの固定資産の取得に際して支払ったときに使用する。固定資産に計上される 建設仮勘定
貸付金 債務者と契約を締結して、お金を貸すこと。返済されるまで利息をもらうことができ、また貸し付けたお金は期限が来ると返済してもらうことができる 貸付金
頭金 土地・住宅など高額の取引を行う際に、分割払いで買主が最初に支払うべき金額のこと 前払金
内金 不動産取引などで売買金額の一部を事前に支払うこと 前払金
手付金 不動産取引などで、買主から売主に対して解約権を認める目的で支払われる。通常、購入価格とは別物。前払金の補助科目にあたる 前払金

 前受金とは、商品やサービスの提供の前に、受け取るお金のことです。たとえば、自社の商品を販売するにあたり、取引実績がなければ前払金を受け取って納品することがあります。その際に「前受金」として計上されます。前受金は流動負債であり、将来、収益になることがほとんどです。

 前受金と前払金は対になる存在です。前払金は支払ったときに用いますが、前受金は受け取ったときに用います。 

 前払費用とは、一定期間のサービスなどに対して前払いしたときに用いる勘定科目のことです。経過勘定といわれます。

 たとえば、1年間のコピー機の保守料を前払いしている場合があてはまります。この場合は、毎月、前払いした保守料を取り崩し、費用計上します。

 一方、前払金は、こういった定期的なものに対しての支払いではありません。

 ただし、両者とも同じ流動資産に計上されるため、差異も少なく、実務上では混同して使われている事例をよく見かけます。管理ができるのであれば、そこまで厳密に区別しなくてもよいでしょう。

 仮払金とは、使用用途が定まっていない場合や金額が定まっていない場合に用い、決算の時までに使用用途を確定させて、本来あるべき勘定科目に振り替えます。

 たとえば、出張をする際に、概算で10万円を従業員に支払うとします。この支払いを仮払金として計上し出張後、交通費や宿泊費が確定したら、それを本来の勘定に振り替えます。

 仮払金が多額に残っている決算書は、決算の正確性を疑われます。そのため、決算時にはなるべく仮払金の用途を確定させ、残ってしまう場合はどういった内容かを説明できるようにしましょう。

 建設仮勘定とは、建物や構築物など固定資産に計上されるものに対して、完成する前に支払った金額に用います。たとえば、巨大な建設工事の場合、完成まで数年かかりますが、その間工事代金が支払われないと、建設会社は経営が厳しくなります。そのため、完成までに複数回に分けて工事代金を支払った際の前払金額が建設仮勘定になります。

 前払金は流動資産に、建設仮勘定は固定資産に計上されますので、計上箇所も違う点は注意が必要です。 

 貸付金とは、他者へのお金の貸付です。貸付金は利息をもらい、最後は貸し付けた金額(元本)の返済を受けます。このように利息をもらったり、元本を回収する権利があります。前払金では利息をもらうことはありませんし、元本が返済されるということはなく、代金に充当されるだけです。

 貸付金の計上箇所は、返済される時期によって流動資産や固定資産に計上されます。

 頭金・内金・手付金とは、実際に契約書などで前払金のように使われる用語です。とくに不動産や土地の取引など高額な売買に用いられます。

・頭金:不動産売買など、契約時に買主から売主へまとめて支払うお金
・内金:代金や報酬などのうちで、前もって支払う部分のお金
・手付金:売買などの契約を結ぶときに、その履行を保証するものとして払うお金

 それぞれ共通の特徴は、契約時など前もって支払うことです。契約時では、まだ物品の受領やサービスを受けたりしませんので、費用などが計上されません。

 これらの用語での請求を支払った場合は、前払金として仕訳をしましょう。また、会計ソフトで補助科目を自由につけられる場合は、これらを前払金の補助科目として設定するのもよいでしょう。たとえば「勘定科目:前払金 補助科目:手付金」とします。

 前払金を仕訳するときの注意点を3つ紹介します。 

 消費税は、物品の受け渡しやサービスを受けたときに課税されます。そのため、前払金に消費税が含まれていたとしても、一旦全額を前払金として計上しましょう。

 そして、商品を受け取って全額支払った際に消費税を確認し、課税の対象であれば、その分を仕訳します。

【支払時】
 消費税込み55,000円の消耗品を購入する契約を結んだ。前払金として11,000円を請求されたため、支払った。

借方 貸方
前払金 11,000 現預金 11,000

【購入時】
 消耗品が実際に納品され、残金の44,000円を請求された。

借方 貸方
消耗品費 50,000 未払金 44,000
仮払消費税 5,000 前払金 11,000

 前払金を支払う取引が多くなると、前払金の残高が多額になります。前払金のままになっていると、本来計上すべき費用を漏らしてしまう可能性があります。また、すでに支払った前払金の分も、二重に支払ってしまうことにもなりかねません。

 前払金を誰に支払って、いつ仕入になるかなどは、法人税の申告をする際に作成する勘定科目明細書にも必要なので、しっかり把握しておきましょう。

 前払金を日本で支払うことはあまり多くありませんが、ビジネスの慣習が異なる海外ではよく発生します。特に中国は前払金での取引が主流です。

 海外と前払金で取引を行う際には、為替換算を行って仕訳をする必要があります。

 前払金は、支払った日の為替レートで計上します。その後、期末決算時や仕入時に為替換算し直す必要はありません。

 売掛金や買掛金などは期末に為替換算をしなければいけませんが、前払金はすでに支払っているため、そのままの為替レートになります。

【前払金支払時】
 200ドルの仕入れをするにあたり、100ドルの前払金を支払った。支払い時のレートは1ドル100円だった。

借方 貸方
前払金 10,000 現預金 10,000

【仕入時】
 仕入れ日の為替相場は1ドル105円で、残高を現金で支払った。

借方 貸方
仕入 20,500 前払金 10,000
現預金 10,500

 前払金は、初めて取引を行う場合など、たまに要求されることがあります。いつも発生するわけではないので、たまに発生すると混乱することがあります。

 支払ったものに関しては適切に管理をして、二重で払うことがないようにしたり、前払金の取り崩しを忘れて費用を過小計上しないように注意しましょう。