目次

  1. ハーズバーグの二要因理論とは フレデリック・ハーズバーグが提唱
  2. 衛生要因と動機付け要因は互いを補う関係
    1. 衛生要因は不満を引き起こす
    2. 動機付け要因は満足度につながる
    3. 衛生要因と動機付け要因の関係
  3. ハーズバーグの二要因理論が注目されている理由
    1. 人手不足による採用難
    2. ワーク・エンゲージメントや心理的安全性への注目の高まり
  4. ハーズバーグの二要因理論を組織で活用する手順
    1. 【ステップ①】現状を把握する
    2. 【ステップ②】取り組む施策を決める
  5. ハーズバーグの二要因理論を組織で活用した事例
    1. 人事評価制度の導入や見直し
    2. コミュニケーション活性化施策の導入
  6. 「働きやすさ」と「働きがい」を向上させるために

 ハーズバーグの二要因理論とは、人の仕事に対する欲求を「衛生要因」と「動機付け要因」の2つの要因に整理した理論です。

 この理論は、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグがモチベーションの研究を行うなかで導き出しました。約200人のエンジニアと経理担当事務員に対して、「仕事上で幸福を感じたり不満足を感じたりしたときに、どのようなことが起きていたのか」について質問を行い、集めた結果を分析して導き出された理論です。

 分析では、人の欲求には2種類あり、それぞれ異なる反応を及ぼすことがわかりました。欲求のひとつが給与や人間関係などの衛生要因、もうひとつは成長実感や達成感などの動機付け要因です。

 衛生要因と動機付け要因は、両方をバランスよく充実させることが重要です。それぞれの特徴と関係性について解説します。

 衛生要因とは、仕事における働きやすさを作る環境要因であり、以下のような事柄が挙げられます。

  • 職場の方針、管理方法
  • 給与
  • 人間関係
  • 職場環境

 これら衛生要因は、「満たされないと不満足になる」項目のため、不満足要因ともいわれます。衛生要因が満たされてもやる気になるわけではなく、あくまでも不満足の解消にとどまることに注意が必要です。

 動機付け要因とは、仕事における働きがいを作る意欲要因であり、以下のような事柄が挙げられます。

  • 仕事における達成感
  • 承認、評価
  • 責任(権限委譲)
  • 成長実感

 動機付け要因は、「満たされなくてもただちに不満足にはならないが、満たされるとやる気になる」項目です。人は誰しも「成長したい、評価されたい、任されたい」などの気持ちを少なからず持っているため、やる気を引き出すためには動機付け要因が重要です。

 衛生要因と動機付け要因は、一方だけを充実させるのではなく、両方のバランスを取って充実させることが重要です。

衛生要因と動機付け要因の特徴
衛生要因と動機付け要因の特徴・筆者作成

 やる気を引き出すためには動機付け要因が大切ですが、仕事環境の不満が大きい状況では働く人の関心が自身の環境を改善したいという衛生要因の方向に向きがちです。そのため、動機付け要因のやる気を出すという前向きなモチベーションに向かいにくい傾向があります。

 衛生要因と動機付け要因はそれぞれ別の要因であることから、マイナスの状況をゼロにするのと、ゼロからプラスへと転じていくモチベーションは別物ということです。

 したがって、衛生要因と動機付け要因のどちらかに特化した施策を講じるだけではいけません。なぜなら、働きやすさだけでは、ぬるま湯体質を作るだけであり、働きがいだけでは、やりがいを悪用して労働を強いる体質になってしまうからです。

 例えば、給与は高く、人間関係も良い仲良し企業でも、仕事を通じた成長が実現できなければ、個人も組織も弱体化していくのは目に見えているでしょう。また、馬車馬のように社員を働かせる職場では、達成感と成長実感を感じられるものの、利己的な行動を取る人たちが出てきやすく、ギスギスするばかりで疲弊します。

 これらの事例からもわかるように、衛生要因と動機付け要因はどちらも充実させるようにバランスよく考えることが重要です。

 昨今、ハーズバーグの二要因理論が注目されている理由には、以下の2つがあります。

  • 人手不足による採用難
  • ワーク・エンゲージメントや心理的安全性への注目の高まり

 順に紹介します。

 少子高齢化が進むにつれて、人手不足による採用難が深刻な状況であるため、企業は働きがいと働きやすさをどのように創出するか、ハーズバーグの二要因理論からヒントを得ようとしています。

 また、単純に人が少ないというだけでなく、人材の流動化が進む時代になってきました。副業や複業、兼業、テレワークなど、キャリアや働き方の多様化が進み、個人個人が自分の人生と職業人生をしっかり考える時代が訪れています。新卒一括採用で入社すれば、終身雇用で働き続けられる安泰だった時代は終わりかけています。時代の変遷や自身のキャリア感にしたがって、主体的に職業や働き方を選び取る時代になれば、ますます流動化は進むことになるでしょう。

 流動化が進むにつれて、企業が人材流出を防ごうとするのは当然の流れです。離職は、採用コストや教育コストだけでなく、ノウハウの流出や生産性の低下にもつながりますので、企業が成長するためにもハーズバーグの二要因理論を取り入れた仕組みが注目されています。

 ワーク・エンゲージメントや心理的安全性を高める環境を作るためには、ハーズバーグの二要因理論を理解する必要があります。

 ワーク・エンゲージメントとは、仕事に対する前向きな心理状態を指しており、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った状態のことを意味しています。

 仕事に対してポジティブな向き合い方ができれば、メンタルヘルスの問題が発生するリスクも低くなります。さらに、働きがいの創出は離職防止にもつながることから、ワーク・エンゲージメントへの注目が高まりました。

 また、心理的安全性とは、職場の中で非難や拒絶の不安がなく、安心して自分の意見を言える環境のことを指します。心理的安全性が高い組織ほど、生産性が高く安心して働けることがわかっており、トップダウンのマネジメントを見直し、働きやすい環境作りが注目されています。

 ハーズバーグの二要因理論を組織で活用するための施策や、活用する手順を説明します。

 ハーズバーグの二要因理論を活用し、組織内のモチベーションを向上させるためには、まず現状のモチベーションの状況を把握しましょう。

 闇雲に施策を講じて、誤った要因にアプローチするとモチベーションダウンにつながるかもしれません。適切な施策を講じるために、組織内の問題が衛生要因(働きやすさ)に起因するのか、動機付け要因(働きがい)に起因するのかを確認する必要があります。

 現状のモチベーションを確認する方法は主に2パターンあります。

 ①モラールサーベイなどを利用して、アンケート形式で確認する
 ②社員に直接ヒアリングして確認する

 モラールサーベイはアンケート形式のため、直接話しにくいことに答えてくれる可能性が高く、社員の生の声が拾いやすい特徴があります。また、全社員が同じ質問に回答するため、組織内の全体傾向を容易に把握できます。

 社員への直接ヒアリングは、モラールサーベイで出された傾向の詳細を確認するために使用するとよいでしょう。例えば、休暇に対する不満足傾向が出ていた場合、なぜ休暇が取りにくいのかなどの意見を集め、その実態の裏付けを取る際に利用します。

 現状のモチベーションを確認後、衛生要因(働きやすさ)と動機付け要因(働きがい)に適切に働きかけられる施策を検討します。

 ハーズバーグの二要因理論では、衛生要因だけをケアしても仕事のやる気が出ないことがわかっています。しかし、動機付け要因だけをケアしても不満足要因は解消されないため、衛生要因と動機付け要因にどのように働きかければよいか、施策を検討しましょう。

 衛生要因の施策例は以下のとおりです。
 ・経営方針、経営理念の再確認と浸透
 ・休暇取得促進
 ・勤務時間や働き方の見直し
 ・賃金や手当の見直し

 動機付け要因の施策例は以下のとおりです。
 ・上司と部下の1on1によるコミュニケーション
 ・正しいOJTの実施(仕事の振り返りを適切に実施)
 ・社内新規プロジェクトの発足(改善活動や新製品開発など)

 衛生要因と動機付け要因の両方に影響を与える施策例は以下のとおりです。
 ・経営者と従業員の対話
 ・人事評価制度の見直し

 施策を実施したあとは、再度ステップ①と②を繰り返し、社員のモチベーションと企業が成長する仕組みを構築していきましょう。

 ハーズバーグの二要因理論を、実際に組織で活用した事例を紹介します。

 衛生要因と動機付け要因に対する施策として、人事評価制度の導入や見直しが行われています。

 人事評価制度は組織文化のひとつで、組織のなかで評価する行動や能力、価値観をルールブックとして示しています。だからこそ、衛生要因のひとつである職場の方針を示すものであり、動機付け要因としては評価による承認や成長実感の創出につながります。

 また、組織として望ましい行動や成果を上げた人のモチベーションを上げることが可能で、成果が望ましくない人に対しても、振り返りをしっかり行うことで組織から脱落しないよう支援し、モチベーションの維持に寄与することができます。

 衛生要因と動機付け要因を高めるために、コミュニケーション活性化施策を導入した事例があります。

 一見、組織運営上問題がないように見えても、組織内での話し合いや討議などのコミュニケーションが少ない場合、不安を感じている社員がいるかもしれません。社員と経営者、または部下と上司による個別面談やチームミーティングなど意見交換をすることで、心配事や悩みを相談できるため社員の不安が解消し安心して働きやすくなります。

 また、困ったときに相談しやすい雰囲気を作れるため、これまでより問題解決のスピードも上がります。

 ハーズバーグの二要因理論を理解すると、人事施策が場当たり的になったり、不満足要因になったりすることを避け、効果の高い人事施策にアプローチできます。

 効果の高い人事施策とは、「取り組み内容に社員の納得感があること」「社員のモチベーションが高まること」、そして「生産性向上、イノベーション創出、社員の定着率向上」などが成果として生まれることです。ぜひ、一層の理解を深めて社員のモチベーションを高め、企業がさらに成長できる組織づくりのために、ハーズバーグの二要因理論を活用してみてください。