約款とは 契約や規約との違い 作成するケースやメリットを簡単に紹介
約款(やっかん)とは、事業者が不特定多数との間で取り交わす契約条項です。契約書の作成手続きが省ける、条件を満たせば相手方の同意なく内容を一方的に変更できるなどのメリットがあります。契約書や約款などを取り扱う弁護士が、約款の特徴や作成する際の留意点をわかりやすく説明します。
約款(やっかん)とは、事業者が不特定多数との間で取り交わす契約条項です。契約書の作成手続きが省ける、条件を満たせば相手方の同意なく内容を一方的に変更できるなどのメリットがあります。契約書や約款などを取り扱う弁護士が、約款の特徴や作成する際の留意点をわかりやすく説明します。
目次
約款(やっかん)の種類のなかには、定型約款と定義づけられているものがあります。また、約款に似た意味で利用される契約と規約について、それぞれの概要と違いを解説します。
約款とは、事業者(会社)が、顧客などといった不特定多数と同じ契約をする際に用いる、定型的な契約条項のことを指します。不特定多数と大量に契約する場合、定型的な契約条項を定めておくことで、個々に契約内容を定めて作成する手間を省きます。
定型約款とは、次の1.から3.の条件を全て満たすものをいい(民法548条の2第1項)、通常、約款と呼ばれているものは定型約款を指します。
上記からすると、現在の一般的に普及している約款は、ほとんどが定型約款に該当するでしょう。
例えば、宅配便契約における運送約款、インターネットサイトの利用取引における利用規約は、上記1.から3.の要件を満たすため定型約款に該当します。
約款と混同されやすいのが契約と規約です。これらには、以下のような違いがあります。
相手方 | 取り決め内容 | |
---|---|---|
約款 | 不特定多数 | 定型的な契約条項 |
契約 | 当事者間 | 個別具体的な条件 |
規約 | 不特定多数 | 提供するサービスのルール ※法律上定義はない |
約款は、事業者が顧客など、多くの人と同じ契約をする際の定型的な契約条項であるため、不特定多数との間で用いられます。また、契約は約款とは異なり、当事者間で個別具体的な条件を定めるものを指し、取引の内容の全部、または一部が画一的であることなどの条件がありません。
最後に、規約は、一般的に事業者が提供するサービスに関するルールを記載したものと言われていますが、法律上、明確な定義はありません。そのため、一般的に「利用規約」と呼ばれているものは、法的には「約款」と評価され、約款のルールが適用されることがありますので、注意が必要です。
約款は多くの場面で利用されておりますので、実際に約款を作成するケースを3つ紹介します。
不特定多数(顧客)と契約する場合に、約款が用いられます。取引が不特定多数を対象としている場合には、一人ずつと契約することが困難です。そのため、約款を作成し顧客から同意を得れば、法的な効力が生じますので、約款を作成することが有効であると考えられます。
不特定多数と条件が同一な場合、一般的には約款を作成します。条件が同一であれば、個々に契約条件を変更する必要がないため、約款を作成するのが通常です。
不特定多数(顧客)に対し、同一のサービスを提供している場合、約款の法的な効力が認められる傾向にあります。また、個々に条件を変更する必要がないため、多くの人に同一のサービスを提供する場合は、約款を作成するのが一般的です。
約款を作成するメリットとして、次の2つが挙げられます。主に作成側にとってのメリットになるため、紹介した同一ケースに当てはまる場合は約款を作成することで業務効率化につながるでしょう。
順に解説します。
約款を作成するメリットは、契約書作成などの事務手続きの手間が省けることです。不特定多数(顧客)に対して事業を行っている企業が、顧客ごとに契約書を作成していると、契約書の保管業務や仕分け業務といった事務手続きが大量に生じかねません。そのため、顧客ごとに作成していた契約書を約款とすることで業務効率化につながります。
約款の内容は、一方的に変更することが可能です。通常、契約を締結した場合、契約の効力を事業者の意思のみで一方的に変更することはできません。しかし、約款の場合、以下の条件を充足すれば、契約の内容を一方的に変更できます(民法548条の4第1項)。
約款を作成するときには、上記の条件を充足する文言を入れておきましょう。
約款を作成する際のポイントを3つ紹介します。
約款を作成し、業務効率化などのメリットを受けるには、法律に沿った内容であることが重要です。
2021年4月1日の民法改正により、約款に関する条文が新設され、約款の法的効力に関するルールが変更となりました。これにより、約款の内容が相手方の権利や利益を著しく制限する場合などは、法的効力が生じなくなる可能性があります。
例えば、約款の個別条項のうち、以下の2つを満たす場合には、当該条項については、合意しなかったものとみなされます。仮に顧客から同意を得られたとしても、法的効力が生じないこととなりますので、注意が必要です(民法548条の2第2項)。
作成した約款が、法律に反した内容でないかを確認しましょう。約款を使用する場合には、不特定多数の一般消費者との間で取引を行うことが多いという理由から、民法の規定や消費者契約法、特定商取引法などの法律が基本的には適用されます。
そのため、会社が作成した約款が法律に反していないか、必ず調査が必要です。
作成した約款は、誰でも閲覧できるホームページなどで公開しておきましょう。
約款は、取引の合意前または取引合意後の一定の期間内に顧客から請求があった場合には、相当な方法で定型約款の内容を示さなければなりません。
ここでいう「相当な方法」とは、定型約款を書面または電子メール等で送付する方法、ホームページ上に定型約款を掲載する方法が考えられます。閲覧の請求があった場合には、ホームページ上から閲覧をしてもらいます。
なお、事業者が顧客に対して定型約款を交付、またはインターネット等で事前に提供している場合には、上記の開示義務は発生しません(民法548条の3第1項ただし書き)。
約款を作成することにはメリットがありますが、民法が改正されたことにより、約款の法的効力が生じる条件が複雑になりました。また、他の消費者契約法や特定商取引法などの法律が適用される場合があり、約款が無効となることも十分あります。
したがって、約款を作成する際は、弁護士に相談し、事業内容などをしっかりと説明することをおすすめします。
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