目次

  1. Web3とは
    1. Web3の概要:ブロックチェーンの技術を使った新しいWeb
    2. ブロックチェーンとは
  2. Web3(Web3.0)の歴史
    1. Web1.0
    2. Web2.0
    3. Web3(Web3.0かweb3か)
    4. Web1.0・Web2.0・Web3の違いまとめ
  3. Web3の特徴3選
    1. 自律分散型と自己主権
    2. トラストレスなトラスト
    3. トークンがもたらす経済圏
  4. Web3、何ができる? 活用されているビジネスモデル
    1. NFT
    2. メタバース
    3. DAO
  5. Web3の問題点
  6. Web3の将来性
  7. Web3の可能性にかける

 Web3とは、ブロックチェーンの技術を使った新しいWebを指しています。Web3は、中央集権的な管理者がおらず、自律分散型組織であることが特徴です。自律分散型組織とは、社長などの代表者による意思決定が存在せず、目的達成のために各メンバーが自ら意思決定を行い実行に移す組織です。

 例えば、Twitterであれば、Twitter社が中央集権の管理者にあたります。Web3では中央集権の管理者がいないため、ブロックチェーン技術を活用してユーザー間でデータの管理などを行います。

Web3の概要
Web3の概要(デザイン:紀井佑輔)

 ブロックチェーンとは、サトシ・ナカモトという匿名の人物が2008年に発表した論文が基になっています。この論文は、銀行のような第3者機関を介さずにピアー・ツー・ピアー(P2P)といわれる人と人が直接取引できる仕組みを使い、当事者同士で直接資産を交換できるビットコインを提唱しました。

 これは、「信用を必要としないことで信用できる」を意味する、トラストレスなトラストにつながり、第三者機関を信用することなく(トラストレス)、P2Pの取引相手を信用(トラスト)できる仕組みです。暗号の仕組みを活用しており、この仕組みを活用しているビットコインは、暗号資産といわれています。

 また、ブロックチェーンには、暗号資産の取引履歴が書き込まれます。書き込まれた内容は誰でも確認でき改ざんできない仕組みであり、中央管理者がいない分散型のデータベースです。これまでのサーバークライアントとは異なり、すべてのノード(ネットワークを構成するコンピュータ)が対等に情報を交換するP2Pになっています。

 まず、これまでのWebの歴史を簡単に振り返ってみましょう。

 Web1.0とは、CERN(欧州原子核研究機構)にいた技術者ティム・バーナーズ=リー氏が、1990年に提案したWorld Wide Web(Web)を指しています。当初、Webは科学者のために作られていましたが、便利だったことから一般に広まりました。Webを使うことで世界中の人に情報を発信し、どこにいても世界中の情報を閲覧できるようになりました。

 Web2.0とは、SNSなどの双方型のコミュニケーションができるWebを指しています。Webが発展するにつれて、2000年代にAjax(Asynchronous JavaScript + XML)という技術が現れました。

 AjaxによってWebのユーザー体験が画期的に向上し、閲覧者がWebサイトにコメントを書き込むなどして、Web上で双方向にコミュニケーションできるようになったことで、SNSが繁栄したといえます。読者のみなさんが今まさに経験しているWebがWeb2.0です。

 2008年にブロックチェーン技術が発表されたことで、Twitter社やFacebook社(現Meta社)などの中央機関に頼らずにユーザー同士が直接コミュニケーションできるようになりました。2014年になると、イーサリアムの共同創設者であるギャビン・ウッド氏がこの技術をWeb3と提唱しました。

 なお、Web3.0はWebの創始者であるティムが次世代のWebを指す意味として使っているため、Web3が正しい表現です。また、Web3の概念が普及するにつれて最初の文字を「W」が固有名詞を表す大文字ではなく、「w」と普通名詞を表す小文字で表記されることもありますが、本記事ではWeb3としています。

 情報を発信するだけだったWeb1.0、双方向のコミュニケーションが可能になったWeb2.0、そしてその次に来る自律分散型の自己所有するWebがWeb3です。

 メイソン・ナイストロム氏は、「Webの歴史は価値ある情報をつなぐことに関する。Web1は関連した情報を(リンクで)関連づけた。Web2は人々の興味関心をSNSでつないだ。Web3はユーザが所有(Own)して価値がある情報を元に、オーナーシップのネットワークを構築した」とTwitterで述べています(参照:Mason Nystrom丨Twitter)。

Web1.0 Web2.0 Web3
年代 1990年〜 2000年〜 2020年〜
Web 静的 動的 分散型
技術基盤 HTML JavaScript (Ajax) ブロックチェーン
ユーザーの使い方 読む 読む・書く 所有する
アプリケーション ホームページ SNS DApps

 Web3はブロックチェーンに基づいています。そのため、Web3は以下のブロックチェーンの特徴を持っています。

 Web3は、中央集権的な管理者がいないP2Pの自律分散型組織です。そのため、自分の情報を自分で管理でき、正しく扱えば情報漏洩を防げます。

 例えばWeb2.0では、SNSに書き込んだユーザーの情報や検索履歴をそのSNS運営会社が所有しています。運営会社は、所有している情報を元にユーザーに広告を表示することで利益を得ています。また、運営会社がSNSなどのサービスを終了したら、利用していたSNSに書き込んだデータも消えてしまいます。つまり、Web2.0では中央機関となる会社が情報を管理していました。

 運営会社が個人情報を所有していると、セキュリティ面でも不安が生じます。実際、情報を管理している企業から情報漏洩が起きています。

 また、ゼロ知識証明などの技術を用いれば、自身の主張が正しいことを、自分の主張以外の情報を伝えずに証明できるのもWeb3の特徴です。例えば、「成人である」ことを、生年月日など詳細な個人情報を示さなくても証明できます。最小限の情報開示で済めば、情報漏洩のリスクをさらに避けられるようになります。

 Web3では、情報はブロックチェーンに書き込まれ、その所有権はユーザにあります。つまり、中央でデータを管理している管理者から自己主権を取り戻すことができるのです。

 自律分散型のWeb3は、中央機関を介さずに(トラストレス)当事者同士で信頼性がある(トラスト)取引が可能になります。例えば、銀行のような中央集権的な機関がいなくても、低い手数料で仮想通貨のやり取りができます。これはコスト削減に大いに役立ち、情報漏洩のリスクも下げます。

 Web3はブロックチェーンを基盤としており、暗号資産やNFTなどのトークンを活用できるのが特徴です。ビットコインなどの暗号資産は、日本銀行などの中央金融機関なしに暗号資産と呼ばれるトークンを発行できます。

 暗号資産は貨幣のように資産的価値のあるものと交換可能ですが、NFTなどの交換不可能なトークンもあります。これら、トークンを活用することで新しい経済圏をつくることが可能です。暗号資産やNFTに価値があると信じる人たちにより、新しい経済圏が作られます。

 Web3と並び、NFTやメタバースが人気になっていますので、紹介します。

 NFTはNon-Fungible Tokenの略で、世界にひとつだけの代替が効かないトークンです。一方、暗号資産は、Fungible Tokenといわれています。デジタルデータは、コピーすると元データと同じものを作れるため、何回コピーしてもデータの内容は変わりません。

 そのため、デジタルデータに唯一無二の価値を持たせることができませんでした。ところがNFTは、データの情報をブロックチェーンに書き込むため、デジタルデータが世界にひとつであることを証明でき、希少価値を持たせることが可能になりました。

具体例①ゲームでの利用

 NFTが有名になったのは、2017年に登場したCryptKittiesというゲームです。ゲームで使われる猫のキャラクターがNFTになっており、希少価値の高い猫は、高い値段で売買されています。CryptoKitties以外にも、NFTを使ったゲームがたくさんあります。

具体例②NFTを使った経済活動

 NFTはデジタルデータ全体に適用できるため、土地の所有証明書のNFT化や、アート作品のNFT化など日本のいろいろな企業がNFTを使ったビジネスを始めています。

 メタバースは、ネットワーク上の仮想空間を指しており、VR(Virtual Reality)とほぼ同じことを意味しています。

具体例①NFTの活用

 メタバース上の土地の所有権やゲームのアイテムをNFT化し、交換や売買などの取引が行えます。Web3を活用することで、メタバースで経済活動が行えるようになりました。

具体例②企業の活動例

 メタバースは日本の企業も力を入れており、2023年現在ではSonyを始め、多くの企業がサービスを提供しています。2023年3月にはKDDIがαU (アルファユー)というメタバースとWeb3のサービスを始めました。

 DAOとは、分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization)のことで、Web3の特性を活かした組織です。スマートコントラクトといわれる、ブロックチェーンに書き込まれた契約を用いて、DAOの意思決定や資金分配が自動的に実施されます。これにより、中央集権的な管理者を必要とせず自律分散的な組織運営が可能になります。

 しかし、日本ではDAOに関する法律が整備されておらず、DAOと自称している組織でも、実際は厳密な意味でのDAOではない活動も多くあります。

具体例①デジタル庁のDAO設立

 デジタル庁の「Web3.0研究会」では、まず自分たちがDAOのユーザ体験を通じて課題や可能性を認識する目的でDAOを設立しようとしています。トークンの配布や投票などを実施して、課題を把握する計画です。

具体例②MakerDAO

 MakerDAOは、暗号資産DaiとガバナンストークンMKRの2種類のトークンを用いて運営されているDAOです。ドルに対する価値が一定である、ステーブルコインDaiの運用を目的としており、ブロックチェーンを使うオンチェーンのガバナンスではMKRを使って、方針を決める投票が実施されます。

 Web3や暗号資産、DAOに関連する法律が整備されていない問題が挙げられます。そもそもWeb3は一般の人にとって使いやすい仕組みではなく、暗号資産の流出や不正送金、詐欺などの事件が起こっています。ほかにも、Web3自体がデジタルワールドなため、現実世界で戦争や気候変動によって電力危機になれば、コンピュータやネットワークが利用できなくなる可能性もあります。

 さらに、2023年時点では、まだWeb3が成功する保証がありません。2022年にはブロックチェーンで作られた暗号資産の大暴落や、高価な価格で取引されていたNFTの暴落も起きています。新しいものへの投機的な活動もあるため、ブームにのって踊るだけにはならないように注意しましょう。

 Web3は、経済活動による地球環境への負担を軽減できる可能性があります。世界経済の成長が停滞し、地球温暖化など人類の経済活動が地球環境に過剰な負荷をかけている問題が顕在化しています。こうした状況を踏まえ、斎藤幸平氏は『人新世の「資本論」』において脱成長を提唱しています。

 しかし、経済成長を追求しない場合、我々の生活は維持可能なのでしょうか? ここで著者が注目するのがWeb3の潜在力です。NFTなどの技術を活用することで、メタバース上で経済活動が可能となります。

 メタバースはサイバー世界であるため、そこでの経済活動は地球環境に対する負担を軽減できます。Web3やメタバースは電力消費の問題があるものの、低電力消費のブロックチェーン技術が開発されつつあります。

 また、Web2.0のSNSに代わるプロジェクトが注目されています。その一例として、「Cyber Connect」という分散型ソーシャルグラフプロトコルが開発され、分散型SNSの基盤として機能しています。このような分散型SNSの開発は、Web3の分野において熱いトピックとなっています。

 Web3には解決しなければならない問題も多いですが、大きな可能性があります。経済活動が閉塞している今の経営者にとって、イノベーションを生む可能性があるWeb3に注目して、Web3を活用した新しいサービスを考えることが大事だと筆者は考えています。