目次

  1. インセンティブとは
    1. インセンティブをビジネスで用いる際の意味
    2. インセンティブをビジネスで用いる際の種類
  2. インセンティブをビジネスで利用した具体例
    1. 簡単に実施できる作業に対して支給する成果報酬
    2. 一定の要件を満たす社員や役職者に支給するストックオプション
    3. 売上目標や経営理念の達成度に応じて支給する成果報酬または表彰制度
  3. インセンティブをビジネスで導入する方法とポイント
    1. インセンティブを付与する目的を設定する
    2. 目的に合ったインセンティブの種類を選ぶ 給与・賞与の場合の目的は?
    3. インセンティブを付与する条件を決める
    4. インセンティブの内容を決める
    5. インセンティブの運用方法を決める
  4. インセンティブをビジネスで活用した事例
    1. 新人事評価制度導入に伴うインセンティブ:K社
    2. サステナビリティ方針を元にしたインセンティブ:オリックス銀行
  5. 非金銭的インセンティブの重要度がより高まる時代へ

 インセンティブ(incentive)とは、「刺激」「動機付け」という意味を持つ言葉です。

 インセンティブをビジネスで用いる際は「成功報酬」を意味し、「従業員のやる気や生産性を向上させるためにインセンティブを制度として導入する」「成績が優秀な社員へのインセンティブとして表彰し、ボーナスを支給する」などのように、従業員の仕事に対する意欲を引き出すものを呼ぶときに使われます。

 類語に「モチベーション」があり、どちらも「動機付け」の意味を持ちますが、「モチベーション」は将来の目標や人間関係などの内的要因に対して、「インセンティブ」は報奨金などの外的要因に対して用いられる傾向があります。

ビジネスにおけるインセンティブの意味
ビジネスにおけるインセンティブの意味(デザイン:吉田咲雪)

 ビジネスにおいてインセンティブという言葉は、従業員の仕事に対する意欲を引き出すものを呼ぶときに用いられますが、大きく金銭的なインセンティブと非金銭的なインセンティブの2種類に分けられます。

①金銭的インセンティブと非金銭的インセンティブ

 金銭的インセンティブは、お金やモノで得られる報酬を指します。現金だけでなく、物品、電子マネー、現金と同等に使える各種ポイントなど、オンライン上で受け取れるサービスも金銭的インセンティブの一種です。金銭的インセンティブは、その獲得を目指して頑張る行動を起こす動機付けとなります。 

 非金銭的インセンティブは、お金やモノ以外で得られる報酬を指します。何か特定の報酬の獲得を目指すことによって頑張る行動を起こすのではなく、周囲や環境から得られる刺激や経験によって行動を起こす動機付けになる点で金銭的インセンティブとは異なります。非金銭的インセンティブには、以下のようなものがあります。

  • 評価的インセンティブ
    組織内で周囲からの評価や表彰などによって動機付けとなる報酬
  • 人的インセンティブ
    組織内で周囲にいる人の人柄、人間性などの魅力が動機付けとなる報酬
  • 理念的インセンティブ
    会社や組織の理念や存在意義が動機付けとなる報酬
  • 自己実現的インセンティブ
    自身の目標や実現したい夢などが動機付けとなる報酬

②短期インセンティブと長期インセンティブ

 また、ビジネスでインセンティブを用いる場合、金銭的、非金銭的という分け方以外に短期と長期という2種類に分けることもできます。

 短期インセンティブとは、1カ月や3カ月など、比較的短い期間内で獲得可能なインセンティブです。長期インセンティブとは、6カ月以上、場合によっては1年以上の期間において獲得を目指すインセンティブを指します。

 ビジネスに利用されるインセンティブは年々多様化していますが、特に次のような場合によく利用されています。

 アンケートへの協力、友人・知人の紹介など、誰でも比較的気軽にできる作業を多くの人にやってもらうために、インセンティブがよく用いられます。具体的には、割引特典や会員限定の優遇措置などです。

 近年では多様な支給方法が見られるようになりましたが、金銭的かつ短期的なインセンティブとして支給されるケースが多く見られます。

 ストックオプションとは、株式会社の社員や役職者が、自社株を事前に決められた金額(権利行使価格)で購入できる権利を指します。社員や役職者は、自社が成長して株価が上昇したタイミングで権利を行使し、その後購入した株式をすぐに売却すれば、時価と権利行使価格の差額分を得ることができるため、実質的に社員や役職者のインセンティブとなります。

 ストックオプションは、かつては企業の役員クラスの特権と認識されていましたが、近年は一定の要件を満たせば一般社員にも支給されるようになりました。一部にはストックオプションをボーナスと同等に扱う企業もあり、金銭的インセンティブとして広く知られる典型的なインセンティブの一つです。

 営業部門では、売上目標の達成に応じて金銭がよく支給されますが、これも典型的な金銭的インセンティブです。

 また、最近では、ESG投資(企業に資金提供する投資家が、環境:Environment、社会:Social、企業統治:Governanceに配慮した企業に率先して投資をすること)への関心の高まりに応じて、経営理念にサステナブル目標を掲げる企業も出てきています。そこで、役員報酬のインセンティブをサステナブル目標の達成度や貢献度によって決定する仕組みも導入され始めています。

 実際にインセンティブを導入する場合の方法とポイントを紹介します。

 インセンティブを付与する際には、まず目的の設定を行います。よくある目的としては次のようなものが挙げられます。

  • 売上アップのため、営業チームに対して営業成績に応じて契約金額の〇%のなどの金銭的なインセンティブを与える
  • モチベーションアップまたは維持のため、勤続期間に応じて勤務スケジュールの自由度を上げる
  • 経営方針やビジョンの実現のため、SDGsやダイバーシティの目標達成への貢献に対するインセンティブを与える

 このようにインセンティブを付与することで何を達成または実現しようとするのか、最初の段階で人事も含めた経営陣がしっかりと議論し定義することで、導入後も目的意識を見失わずに運用できるでしょう。

付与する目的を設定する際のポイント
・インセンティブを付与することで何を達成・実現したいのかを決める
・定義するときは、人事を含めて経営陣でしっかり議論する

 付与の対象となるインセンティブの候補を挙げて目的に合う種類を決定します。

 インセンティブを選ぶ際には、どのような種類のインセンティブが目的に合っているか十分に検討してください。そのためにも、まず種類別の特長、利点、課題点などを明文化します。例えば次のような形です。

  • 金銭的インセンティブは、目的や目標の達成によって十分な営業利益が得られることが前提で設定されるインセンティブのこと。例えば、営業が獲得した契約金額の最大1%を上限としてインセンティブとして支給するとき、それを金銭的インセンティブと呼ぶ。
    金銭的インセンティブは、金銭という明確な報酬のため従業員のモチベーションを上げやすい。一方で、従業員に対して必要以上のプレッシャーを与えたり、部署の雰囲気にマイナスの影響をもたらしたりする可能性があるため注意が必要。

  • 非金銭的インセンティブは、達成の目的が金銭的な価値とは必ずしも直結しない、個人的または社会的な利便性や快適さなどを基準に設定されるインセンティブのこと。例えば、人事考課であらかじめ設定した評価項目に対する実績に応じて、勤務時間帯の自由度アップや希望するプロジェクト役割にチャレンジできる機会などをインセンティブとして支給するとき、それを非金銭的インセンティブと呼ぶ。
    非金銭的インセンティブは、ユニークな設計ができる一方で、恣意的なものになりがちで、不平等さを感じる従業員が出てきやすい側面があるため注意が必要。

 そのうえで、できるだけ客観的な評価軸(例えば、目標とする契約金額の達成に関する難易度や必要な経験と知識を持つ者が、評価基準を設定するなど)の元に選定作業を進めることで、目的に合わない種類を選んでしまうリスクを軽減できるでしょう。

種類を選ぶ際のポイント
・インセンティブの種類別の特長、利点、課題点などを明文化する
・客観的な評価軸で選定作業を進める

 どのような条件の元にインセンティブを付与するかを決定します。

 ここで言う条件とは、何をインセンティブとするのかではなく、何をした従業員に対してインセンティブを付与するのかを定めたものです。目的を前提にどんな内容なら適切かを検討します。

 なお、条件の難易度については、現実的に判断能力のある人(例えば、実際に該当の条件をクリアした、または取り組んだ経験のあるマネージャーや、条件をクリアするにあたっての課題に関する情報や専門知識を持つマネージャーや外部コンサルタントなど)からあらかじめ意見を聞いておくとよいでしょう。非現実的な難易度の条件を設定してしまうリスクを避け、より適切な条件を決めることができます。

条件を決める際のポイント
・設定した目的を前提に内容を検討する
・条件の難易度は現実的に判断能力のある人からあらかじめ意見を聞いておく

 インセンティブの具体的な内容を、インセンティブの種類に応じて決定します。

 ポイントは具体的に何(キャッシュ、ストックオプション、ポイントなど)を、どのくらい(金額、株数、ポイント数など)付与するのか、どの選択肢がより効果が高いかシミュレーションしてみることです。

 シミュレーションには、次のような方法があります。

  • アンケート調査を行い、対象者がどのインセンティブに強い興味を示すかをチェックする
  • 費用がそれほど掛からないインセンティブの場合は、対象者を限定したトライアルのインセンティブ適用を行い、その反応や効果をサンプリングする

 このシミュレーションの精度が高いほど、より適切な内容を決めることができるでしょう。

内容を決める際のポイント
何をどのくらい付与するのか、それをすることでどれくらいの効果が見込めるのか、シミュレーションをする

 インセンティブの運用方法を決めます。

 インセンティブの運用では、システムが必要になる場合があります。例えば、ある程度長期的な取り組みで細かい要件をクリアする必要があるといったインセンティブの場合、「要件一つひとつに対するクリアの記録とステータスの追跡ができるシステム」があるとスムーズです。

 このときに、自社の既存システム環境のなかで実装可能か、新規システムやアプリケーションの導入が必要かなどを確認しておくとコストの削減につながります。

 また、運用前に、実際にその方法でトラブルなく運用できるのかを検証する、トライアル期間を設けることも大切です。このひと手間を加えることで、投資を無駄にするリスクをより避けられます。

運用方法を決める際のポイント
・運用に必要なシステムを導入するときに何が必要・不必要なのか確認する
・うまく運用できるかを検証するトライアル期間を設ける

 インセンティブをビジネスで活用した事例を2つご紹介します。

 筆者が支援した従業員20名以下の自動車修理会社の例です。

 この企業では、従業員一人ひとりの人事評価を社長が一人で行っていましたが、今後の従業員の増加を見越して、社長の評価権限を人事部長や現場の工場長などの中間管理職に権限移譲を行いました。その際に上司からの評価に加えて、「従業員自身が日々の業務行動に対する自己評価を申告できる仕組み」をインセンティブとして導入し、新しい人事評価制度を構築しました。

 このインセンティブは、いわゆる金銭的インセンティブではありませんが、最終的には昇給にもつながる可能性があるパフォーマンス評価を自己申告でき、上司が同意すればそれが認められます。昇給昇格の候補にもなり、結果的に金銭的インセンティブとなる可能性があることから、モチベーションの向上と維持にも有効なインセンティブになっています。

 オリックス銀行は「誰もがのびのびと働ける職場づくり」を重要課題とし多様な働き方を推進するインセンティブとして以下のような制度を導入しています。

  • カジュアルデイを通年実施(1年を通してノーネクタイ、オフィスカジュアル)
  • テレワーク(在宅勤務)制度
  • スーパーフレックスタイム制度(月ごとの所定労働時間を満たしていれば6:00~22:00の間で自由に勤務時間を設定できる)
  • リフレッシュ休暇制度
    (参照:活躍できる環境丨オリックス銀行

 このように、多様な働き方の推進がインセンティブとして従業員一人ひとりの個別事情に柔軟に応えられるように設計されているため、モチベーションの向上と維持に大きく寄与していると考えられます。

 新型コロナウイルス感染症という未曾有の経験をしたことにより、毎日会社に出勤する、働く場所がある、ということが当たり前ではないのだと気づいた人は多く、仕事に対する価値観が大きく変わったという人も少なくありません。

 そんななかで、組織の一員として働くことのインセンティブも多様化が求められており、従来のように金銭的なインセンティブだけでは優秀な人材を確保することは難しくなっていくでしょう。今後は、サステナビリティへの投資と非金銭的インセンティブに対する価値がますます重要視されていくものと予想されます。

 本記事を参考に、貴社のインセンティブ制度を見直してさらなる従業員のモチベーション向上に取り組んでみてはいかがでしょうか。