組織のひずみを取り除くには 成果を最大化する方法を事例で解説
年度が切り替わるタイミングで組織体制を刷新した会社も多いでしょう。ただ、中には「組織がしっかり機能しているとは思えない」と感じる経営者がいるかもしれません。対症療法に乗り出すのもいいですが、ひずみを根本から取り除くための方法、つまり成果を最大化するための組織づくりを学んでみてはいかがでしょうか。コンサルティング会社識学のシニアコンサルタント・奥田拓之さんが、中小企業で実際にあったケースを交えて解説します。
年度が切り替わるタイミングで組織体制を刷新した会社も多いでしょう。ただ、中には「組織がしっかり機能しているとは思えない」と感じる経営者がいるかもしれません。対症療法に乗り出すのもいいですが、ひずみを根本から取り除くための方法、つまり成果を最大化するための組織づくりを学んでみてはいかがでしょうか。コンサルティング会社識学のシニアコンサルタント・奥田拓之さんが、中小企業で実際にあったケースを交えて解説します。
組織づくりを進めるにあたって、経営者が最初に準備するものは計画です。過去の積み重ねによって理想の未来を描けると考える人もいますが、そうではありません。あるべき未来の姿を想像し、そこに向かうための道のりを逆算しなければ未来は変えられないのです。ざっくりしたものでもいいので、中長期的な計画を立ててください。
次に、その計画を実行するために欠かせない機能を洗い出しましょう。必要不可欠なのに内製化できていない領域や、自社で手がけているが外注してもよい仕事を整理します。これで組織図の完成です。
でき上がった組織図の各層にはKPIを設定します。このとき、他部署から異動してきたばかりの社員や入社間もない新人は、KPIを見てもそこにたどり着くイメージを持てないことがしばしばあるため、注意が必要です。
そういう社員には「来週の売り上げ目標は100万円だ」と告げるのではなく、それを達成するための手前の段階、例えば「火曜日までにアポイントを10件獲得する」や「月曜日に80件電話する」といった目標を用意してあげましょう。
このように、各種KPIを細かく定めておけば「最近、何となく会社がうまく回っていないな」という感覚を持ったとき、数字を追うことで違和感の正体を見極められるようになります。
本来、社内の各部門がそれぞれの目標を達成することによって会社全体が大きく成長していく状態が理想的です。しかし、設けたKPIが実際には何の役にも立っていないことも往々にしてあります。ここからは、筆者が実際にコンサルティングを担当した、あるサブスクリプションサービスを提供する会社のケースを紹介します。
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その会社のマーケティング部では、KPIをリードの獲得数で設定していました。割り振られた月間広告費5千万円に対して獲得できるリード数が5千件前後、このうち約5分の1が成約に至ります。したがって、リード1件の獲得に1万円、成約1件に対し約5万円を要している計算になります。
ところが、そのサブスクの平均顧客単価は1カ月あたり5万円で、その8割が給与を含めた諸経費になります。そのため、会社には顧客一人につき1万円の利益しか残りません。ということは、最低5カ月サービスを継続してくれない限り赤字になるわけです。
それなのにサービスの性質上、短期間しか利用しない顧客も大勢いました。この状態では、いくらリード数を増やしても会社の利益にはなりません。顧客の特性によって広告予算が細かく設定されていたわけでもなく、リードの獲得数だけを追いかけていたがゆえのミスでした。
部門に課せられた目標の達成に集中すること自体は問題ありません、しかし、それが会社の利益に結び付かなければ無意味です。部下に集中させるべきKPIの設定を誤ってしまうと、悲惨な結果を招きかねません。
もちろん、経営者の悩みは数字に表れるものばかりではないでしょう。ファミリービジネスであれば、親から子へ社長が代わり、若い後継ぎが年配の古参社員との関係に悩んでいるという相談を最も多く受けます。
「自分には先代ほどのカリスマ性がないから組織をうまく引っ張れない。古参社員が自分を認めてくれないのも仕方がない」
後継ぎ経営者のなかには、そんなふうに考える人もいます。しかし、これは大きな誤解です。というより、この誤解が組織にひずみを生んでいる可能性さえあります。人格によってマネジメントしようとしているわけですから。
筆者がある企業に伺い、若い2代目経営者と打ち合わせしたとき、こんなことがありました。私が組織マネジメント上の改善点について2代目とお話ししている最中に、隣に座っていた古参社員が突然「こんなことやる意味があるんですか」と言い立ててきたのです。
この古参社員は管理部の所属でした。責任も権限もないのに、日々プロフィット部門へアドバイスという名の口出しをして、社内で確固たる地位を築いていたのです。とはいえ、先代の下で長年会社を支えてきた功労者なので、2代目もいさめられませんでした。
そこで、筆者は2代目経営者に三つの選択肢を提示しました。
一つ目は「この社員と同格のポジションを用意し、そこに別の社員を当てはめ、競争させる」という手段です。これには、特別扱いは許されないと気付いてもらう狙いがあります。
二つ目は「経営層に引き上げ責任も与える」、そして三つ目は「新規事業部をつくり、そこへ異動させる」という選択肢です。
この選択肢は、同じような状況にある経営者にとって参考になると思います。どれを選ぶかは経営者次第です。
その会社の2代目は三つ目の選択肢を採用し、責任範囲をきっちり定めた上で古参社員に新しい課の課長を任せることにしました。古参社員は今、その課で存分に実力を発揮してくれています。
「管理職がなかなか成長してくれず、困っている」
これは、ワンマン社長や社員にとことん寄り添うタイプの経営者からよく聞く悩みです。ワンマン社長のいる会社だと、社長の言動に振り回されることに嫌気が差した社員が会社を離れていくさまを簡単にイメージできるでしょう。しかし、寄り添い型の経営者の下で管理職が育たないのはなぜでしょうか。
社員に寄り添うことこそが社長の仕事だと思い込んでいる経営者は、それに時間を取られ過ぎ、会社の業績を伸ばすためにすべき他の仕事に時間を割けません。そして、管理職にも当然のように自分と同じ姿勢を求めます。「管理職たるもの、部下に手取り足取り仕事を教えてあげるべきだ」という考えです。
しかし、このようなマネジメントをしていると、部下は「何でも上司に教えてもらえる」と勘違いし、自分で仕事を覚えようとせず、成長につながりません。そのため、管理職はどんどん疲弊していきます。
社員を思うからこそ寄り添う姿勢を大事にしているのに、そのせいで社員が離職していくとはなんとも皮肉な話です。
「中間管理職が成長しない」と感じているのであれば、成長した状態を言語化し、そこに向かうまでのステップと給与が上がっていく仕組みを整えましょう。その上で、社員に寄り添うのではなく、経営者と社員の位置関係を明確にし、プロセスではなく結果だけを管理するようにしてください。
筆者がコンサルティングを請け負った美容業界の会社では、経営者の下に各店の店長がいて、その店長がメンバーをマネジメントしていました。
部下に辞められたら自分が現場に立たなければならないため、経営者はモチベーションマネジメントに終始し、言いたいことが言えず、やりたいこともできませんでした。それどころか、社員に「モチベーションを上げてほしい」とせがまれていました。
筆者は経営者と店長に寄り添い型マネジメントの弊害について伝え、成果が可視化できる評価制度の作成を後押ししました。同時に教育体制も構築し、中長期のキャリアを前提とする会社にしたのです。
それまでは繁忙期を過ぎた途端に、社員が続々と辞めていきましたが、今は結果を残せばその分給料が上がるため、離職が少なくなりました。店長の「寄り添い疲れ」もなくなり、楽になったとお聞きしています。それだけでなく、明確な評価制度があることによって、人材の獲得にも苦労しなくなりました。
識学シニアコンサルタント・営業部係長
東京都出身。早稲田大学商学部在学中にプロモーション系のベンチャー企業に入社し、国内最大手の広告会社AE、全国紙新聞社関連企業の営業企画部長も経験。日々マネジメントに四苦八苦する中で識学に出会い、入社した。
(※構成・平沢元嗣)
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