当初は「生かし解体」と、解体時に発生した骨董品や古材を販売する古物商が主事業でした。その後、大量生産・大量消費社会で再利用の需要が減る中、2代目の父は解体専門業者として業態転換。営業力を発揮し、北陸3県と滋賀県へと事業を拡大しました。
一人っ子だった宗守さんですが、当時家業を継ぐ気は全くなかったと振り返ります。「大学進学など人生の節目で父に相談しましたが『好きなことをすればいい』と言われていました」
しかし、3年が経ったころ、父が病に倒れ、宗守さんは急きょ家業に転職することになります。父は当時、滋賀県の事業に力を入れていましたが、取引先がらみの事業の詐称被害に遭い、ストレス過多で体調を崩してしまったといいます。
「自分の仕事もこれからというときでしたが、家業のおかげで何の不自由もなく育ててもらいました。家族を助けなければという使命感のようなものがありました」
デパートの経験を経営に
解体業の知識も経験もないまま飛び込んだ宗守さんを、多額の負債が待っていました。当時の社員は解体作業員5人のみで、経営は危機的でした。
「最初は自分も重機の免許を取って現場作業から入りました。でも現場はそんなことを求めていなかった。新しい仕事を取るため営業に奔走し、目の前のやるべきことに取り組む日々でした」
父の時代からのしがらみを断ち切って取引業者を再選定したり、事務作業の効率化を図ったりしましたが、再建には8年以上を要します。この間、宗守さんは、中小企業の経営者の集まりに参加して経営を学びました。
宗守さんは2007年に3代目社長に就任し、会社を法人化しました。「そこからやっと、会社としてのかじ取りができるようになりました」
就任後は解体業をサービス業として捉え、他社と差別化を図れないかと考えました。「(前職の)デパートは『お客様が第一』というサービス業です。その経験や視点は、社内改革で一番活かせると思いました」
解体業は騒音や振動、粉じんといったトラブルと切っても切り離せません。近隣への配慮の大切さなどの心構えを社員に説き、現場の要望に応じた設備投資など社員が働く環境整備にも力を入れました。
「現場にいるのは、職人と重機かダンプだけです。その部分のイメージアップを図ろうと、近隣の方にあいさつしたり、制服を新しくするなど身なりに気をつけたり……。“魅せる”現場を意識しました」
02年に、建物の解体時に出るコンクリートや木材の再資源化を義務付ける建設リサイクル法が施行されたのも追い風でした。「産業廃棄物の管理が厳しくなり、コンプライアンス順守を社内に浸透させやすくなりました」
当初は理想を押し付けていた
それでも就任当初はトップダウン型で改革を進めようとして、うまくいかないこともあったといいます。
「今思うと、理想を押し付けていました。職人さんはそもそもサービス業に就こうとして入ってきていません。現場で解体の仕事をやりたくて入っているのに、入ったばかりの若い社長からいきなり、サービス業だと言われても反発しますよね」
「どうしてそこを重視するのか、従来の解体業のイメージを変えたいという思いなどを繰り返して伝えたり、現場の要望を吸い上げたり、ひざをつきあわせて話を聞いたりするうち、理解者、共感者が増えていきました。今もすべてがうまくいくわけではないですけど、何より自分自身がブレなくなりました」
不要品回収や幼児教育事業に参入
宗重商店では、新規事業を次々と立ち上げています。その一つが2018年に立ち上げた不要品事業です。
卒業する学生向けに家電・家具などの不要品を回収する「ラクソツ」や、遺品や終活に備えて不要品を整理する「オモイデ×トトノエ」など、ライフステージに沿ったサービスを展開しています。
例えば「ラクソツ」は、大学入学時に購入した電化製品が、卒業時に放置されるケースが多く困っていると不動産会社から相談を受けたことがきっかけでした。
宗重さんは「解体事業はあくまでサービスチャンネルの一つ」と言います。「リサイクル、リユース、リボーン、リスペクト……。宗重商店の事業の共通点は『Re』になります。『Re』には再び、再生という意味もありますが、これは資源も人間も同じ。『Re』を通じて、新しいまちと時代をつくるのが、事業のコンセプトになります」
宗重商店は2016年から幼児教育事業として、モンテッソーリスクール「カサデバンビーニ」を運営しています。金沢にフルタイムのモンテッソーリスクールがなかったとき、ワークショップに呼ばれたのがきっかけでした。
「子どもの自主性を重んじるモンテッソーリ教育は、異年齢の中での助け合いの文化があり、宗重が目指す『大家族経営』という理念に通じるところです。教育事業をやることで、会社への信用が上がることを実感しています。今後、さらにモンテッソーリの教育理念を経営にも生かしていけたらと思っています」
「お客様のニーズは多種多様です。以前は解体を通じて困りごとを解決していましたが、今は幼児教育や学生さんの引っ越し、卒業の際のお手伝い、遺品整理までそろえ、『誕生してから亡くなるまで』人生の重要な節目に必要とされる企業体になりつつあります。地域の困りごとに対する相談窓口になれたらと思っています」
理念や社訓を明文化
宗守さんが成長要因として挙げるのが、社長になった年から策定した経営計画書の存在です。「お客様の未来と豊かな地球環境のために」という企業理念や「感動イノベーション。」というビジョンを全社員と共有してきました。
「それまで60年も続きながら、社訓も理念もない会社でした。もちろん思いはありましたが、明文化はしていなかった。戦前にどんな思いで立ち上げ、時代のニーズにあわせてどのように事業展開をしてきたのかを考えながら理念を策定しました。ワンマンの『鍋蓋型組織』から、『ピラミッド型組織』を目指し、変革しました」
全社員に配布しているオリジナルの社員手帳には、経営目標やSDGs(持続可能な開発目標)の取り組み、独自の人事評価制度も掲載。それぞれの社員が仕事での目標を書き込むことで、到達スピードが上がる効果も実感しています。
「社員手帳も会社の成長要因の一つです。手に職をつけたい社員を応援する資格取得支援制度がありますが、今では一人平均17種類以上の資格を取得しています」
現在、社員の約3割が女性で、責任ある仕事を次々と任せています。コンテンツが豊富なホームページや、愛らしいイメージキャラクターなどのブランディング、SNSの活用など、女性社員のアイデアによる新事業も多いといいます。
「企業理念の策定と社員教育、そして新卒採用の三つをうまく回すことが大事だと考えています。理念に共感してくれた社員を入れて、その社員を教育していく。若い社員がいるから、後輩も育ちます。そのサイクルは競合他社にはあまりない部分だと思います」
そうした取り組みが評価され、同社は石川県ワークライフバランス企業優良企業や健康経営優良法人の認定を受けています。
社員数も売り上げも急成長
法人化の時点で20人だった宗重商店の社員は80人にまで増え、売り上げも4億円弱から20億円へと伸びました。
「解体工事は形がなくなることに対価をいただくので、安ければいいと考える人も多いんです。物を買うときと違って、どうせなくなるのだからと真剣に業者を選ばない傾向もありました。しかし、自分が当時からかじを切ってきた取り組みが、コンプライアンスやSDGs、環境配慮の浸透といった時代の後押しを受け、成長できたと実感しています」
宗守さんは一方で、昔ながらの解体業のイメージも大切にしたいといいます。
「建設業界に25年くらいいますが、時代がどれだけ便利になっても泥んこになりながら働く仕事は必要です。縁の下の力持ちである解体業に自信とプライドを持ち、そういう人に光を当てて自信をもって働ける会社にしたいです」
社内のDXを加速
事業も社員も増えてきたことで、2020年から施工管理アプリを導入するなど、社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めてきました。2022年には本社や滋賀県にある事業所のリノベーションを行い、各拠点を常時オンラインでつないでいます。
解体現場に常時接続のカメラを設置することで、いつでも現場の様子を映像で見られるので、本社にいながら現場管理ができたり、モニターを通して離れた現場にいる社員同士のコミュニケーションがとりやすくなったりするメリットがありました。
宗守さんは、2030年には40億円企業に成長し、社員数は160人、13事業、10拠点を抱えるという明確なビジョンを掲げ、全社員と共有しています。
「地元の方々にとって唯一無二の企業を目指し、社員自身がハッピーでいられる会社にしたいです」
社長の仕事は「グラウンド整備」
宗守さんは「人づくりに5年、風土づくりに10年かかる」と考えています。
「一番大事にしているのはコミュニケーションです。社員と直接話す機会を大事にしており、要望を受けたときには、時間がかかってもなるべく実現させたいと思っています。またコロナ禍は難しい部分もありましたが、社員どうしの交流を深めるためにバーベキューを行ったりリレーマラソンに出たり。社員数は増えても、できるだけ社員に声をかけようと意識しています」
「風土をつくるのは簡単ではなく、努力と工夫が必要です。(2023年)4月には5年ぶりの社員旅行で海外事業所のあるタイに行きました。海外が初めてだという若い社員も少なくないんです。実際に自分たちの事業が海外の人とつながっていることも実感してもらえたらうれしいですね」
経営方針としては「大家族経営」を意識し、「一人で高い山に登るよりも、低い山にみんなで登りたい」と言います。
「目指すのは高さではありません。社員同士の人間関係が、会社の風土を作っていくと思います。社長の仕事は野球に例えるとグラウンド整備です。社員が元気に、思い切りプレーできる環境を創りたい。一人ひとりの個性や多様性を大事にして、社員にとって会社が居心地の良い場所であってほしいと願っています」