目次

  1. BANTとは
    1. Budget(予算)
    2. Authority(決裁権)
    3. Needs(ニーズ)
    4. Time frame(導入時期)
  2. BANTを活用するメリット
    1. 商談の進行が早くなる
    2. 案件の消失や先延ばしを避けられる
    3. 案件の進捗度や受注確度に展開できる
  3. BANTの聞き出し方
    1. Budget(予算)
    2. Authority(決裁権)
    3. Needs(ニーズ)
    4. Timeframe(導入時期)
  4. BANTを活用する注意点
    1. 予算額は正しいとは限らない
    2. ニーズは複数存在する
    3. 導入時期の調整が厳しいことが多い
  5. 顧客側担当者と一緒にBANTに取り組もう

 BANTとは、「Budget(予算)」「Authority(決裁権)」「Needs(ニーズ)」「Timeframe(導入時期)」の4つの頭文字をとった略語であり、法人営業において、顧客と成約するために押さえておくべき必須項目です。

 BANTを活用することで営業成績は向上すると言えます。

  • Budget(予算):顧客が商品を購入するための予算を確保しているか。確保の時期と予算額
  • Authority(決裁権):顧客企業内で購入を決定する決裁者は誰か。決裁の手順
  • Needs(ニーズ):顧客ニーズは明確か。顧客企業内で合意できているか
  • Timeframe(導入時期):商品の導入時期が決まっているか。具体的な導入時期

 BANTのBであるBudget(予算)では、「顧客が商品を購入するための予算を確保しているか」を確認します。予算がある場合には、営業側の提示する見積もり金額が予算額に収まるか、予算を使用できる時期はいつなのかを詰めていきます。

 法人営業では、顧客が予算を確保できてないと、話を進めても購入を決裁するための社内稟議が通らないことも多くあります。

 また、顧客が確保している予算が営業側が提示する見積もり金額より少なければ、提案内容を変える(例:仕様を変えて予算額の範囲に収める)対応をしないといけないので、商談の早い段階で予算を確認する必要があります。

 後述するTimeframe(導入時期)と関係しますが、予算に計上する時期には「今期の予算なので(期末である)◯月末までに導入してください」と顧客に言われることがあります。

 例えば、決算日を3月末にしている企業であれば、今期の3月から来期の4月に予算を移動させることは、1カ月の違いであったとしてもできません。予算の枠をとっている決算期の導入となるため、要望通りの対応が必要です。

 BANTのAであるAuthority(決裁権)とは、顧客企業内でいくつかの選択肢から仕様が適している商品を決めて、購入を決裁する権限です。

  商談のときに、取引にかかわる顧客側の関係者で、誰が決裁権を持っているかを把握します。商談相手が担当者レベルであれば、決裁者が別にいる場合が通常です。

 多くの企業では「課長決裁:10万円まで」「部長決裁:100万円まで」のように、決裁権にかかわる社内規定があります。見積もり金額の提示やクロージングの段階に進んだときに、担当者に決裁者を紹介してもらって、直接アプローチをかける方法を取り入れると成功の確率が上がります。

 また、決裁の手順は、「担当者→直属の上司へ説明・決裁」のケースから、「担当者が稟議書を起案→部長承認→本部長決裁」「取締役会で審議して承認」まで、さまざまです。

 仮に、月に1回取締役会が開催される顧客企業において、取締役会承認が必要な案件の場合、最長で1カ月待たなければなりません。そうならないためにも、早めに顧客の行事予定を把握しましょう。

 BANTのNであるNeeds(ニーズ)とは、顧客からの要望です。具体的には、顧客が抱えている困りごとを解決するための商品を提案することです。

 商談では、顧客側担当者が言うニーズは、個人的な考えなのか、それとも会社全体で共有されたニーズなのかを判断します。

 部署の立場によってもニーズは異なるため、顧客側担当者の上司や決裁者、関連部署の人たちにも会わせてもらって、直接提案をしたり、困りごとを確認したりすることで、ニーズを見極めていきます。

 顧客のニーズの強さは、「絶対に欲しい。これがないと今後のビジネスに支障が出る」から「あればいいけど、なくてもなんとかなる」まで、さまざまです。

 営業商品はニーズを満たすために提案しているため、顧客側のニーズが強くなければ、商品の必要度合いは低いと言えます。

 ニーズが弱い場合でも、商談では顧客側の困りごとを明確にして、「この問題により、毎日〇円分のロスが発生している」のように損失金額を換算すると、ニーズを強く認識してもらえるようになります。

 BANTのTであるTime frame(導入時期)とは、商品の具体的な導入時期であり、商談ではその時期が決まっているかを確認します。具体的に決まっている場合は、顧客は優先して動いてくれることが多くあります。

 導入時期は、予算の都合と現場の都合の二つから決まっていきます。

 顧客が「今期の予算なので(期末である)◯月末までに導入しなければならない」と答えるのは予算の都合であり、また「工場の稼働が止まる年末年始の休暇中の導入になる」は現場の都合と言えます。

 顧客の要望に沿うことを考えて両方の都合を教えてもらい、バランスを取りながら導入時期を確定させましょう。

 BANTを活用することで生まれるメリットを紹介します。

 Authority(決裁権)として、商談の早い段階で決裁者が誰かを聞いておくと、決裁者と直接会話をする機会を得られる場合があります。それによって、決裁者よりニーズを詳しく聞き出し、どのような仕様が良いのかを確認、最適な商品の提案を直接することができます。

 決裁者としても、自分の意向が反映された提案であったら、周囲に同調を働きかけてくれる場合も多く、商談の進行が早くなります。

 逆に、決裁者の考えを聞かずに、担当者と商談を進めていると、最終局面で別の担当者より「私の部署の要望が反映されてない」と言われる事態が起こり、せっかく詰めた稟議内容が覆される可能性が出てきます。

 法人営業では「案件が急に1年延期になった」「案件がキャンセルになった」という事態がよく発生します。

 その背景として、顧客側担当者からヒアリングしたニーズが個人のニーズにとどまっていて、会社全体で認められていなかったり、予算を確保できていなかったりなどの原因があります。

 そのようなヒアリングの不足を減らすためにも、BANTは有効です。

 SFA(営業支援システム)を導入して案件を管理している会社では、案件の進捗度や受注確度の管理に、BANT情報を活用しています。

 例えば、顧客からニーズを入手できたら進捗度ランク2、予算と導入時期がわかれば進捗度ランク3、のように社内で共有ができます。

 もし、予算も導入時期も聞き出せていないならば、上司が同行訪問をして、受注確度を見極めることも選択肢の一つとして考えましょう。

 BANTは売り手にとって重要な情報ですが、顧客はどの売り手に対しても平等に明らかにするわけではありません。特に、新規開拓先は信頼関係が構築できていないので、答えてくれることは稀です。

 そのようななかで、BANT情報はどのように聞き出せば良いのか、具体例を紹介します。

 経験の浅い営業社員には、まずはBANT情報の入手を意識させることで、商談の成功確率を高められます。

 顧客に予算を尋ねても、正確な金額を教えてもらえるとは限りません。「○百万円以内に抑えてほしい」というように、予算額であるのか値下げ要求であるのか判断ができない回答が返ってくることもあります。

 顧客側から具体的な予算額を聞き出せない場合は、「この仕様だと○百万円くらいになりますが、御社の予算に収まりそうでしょうか」と営業側から問いかけることも有効です。

 Budget(予算)では、正確な金額を教えてもらう必要はありません。○十万円なのか、○百万円なのか予算額の桁感だけでもわかれば商談として十分ですので、「ご予算の額によって提案内容が変わりますので、50万円や100万円のように、大雑把で良いので概算の予算を教えていただけないでしょうか」というように質問をすると、答えてもらいやすくなります。

 しかし、顧客側担当者としては、「ベンダーに漏らした(リークした)」と社内で疑われるのを懸念しています。無理強いはせず、彼らが答えやすいシーンで尋ねるようにしましょう。

 決裁者を知りたいときには「せっかく商品の仕様を詰めても、後で異なる意見が出てくると(担当者が)調整に苦労なさると思います。どなたの意見を早めに聞いた方が良いでしょうか」と尋ねてみてください。

 顧客側担当者としては、稟議を進めるなかでどんでん返しになるパターンを最も恐れています。「そのような事態を回避するために」と、匂わせる手法が効果的です。

 また、「今回くらいの金額になりますと、御社では本部長クラスの方が決裁なさるのでしょうか」とストレートな聞き方でも、決裁ルールを教えてもらえることがあります。

 Needs(ニーズ)では、「今回ご提案した商品の導入については、御社のどの部署が関係しておられますか」と尋ねると、部署名を教えてもらえます。

 さらに「関係者のニーズやご意見をお聞きしたいので、会合をセッティングしていただけないでしょうか」と畳みかけてみましょう。

 ニーズが強いのであれば話は進みやすく、より具体的なニーズを聞き出せるメリットと併せて、ヒアリングによって関係者の購買意欲をかき立てることにもつながります。

 商談が進んできてTimeframe(導入時期)を確定させたい場合は、ズバリこのように聞いてみましょう。

 「この商品は注文をいただいてから納品するまでに◯カ月かかります。ご希望の導入時期に確実に間に合うように事前準備をするため、だいたいで結構ですので、導入時期を教えていただけますか」

 ストレートな質問ではありますが、売り手側の事情も伝えながら相手の都合も聞くことができるため、今後のスケジュール調整が双方でスムーズにいくようになります。

 BANTの4つを聞き出しても、商談は終了ではありません。

 下記のような注意点もあるため、頭に入れて、顧客との商談に臨むようにしましょう。

 顧客としては当然ながら、できるだけ安く商品を購入したいため、正しい予算額を教えてくれるとは限りません。予算オーバーは社内で認められないので、社内予算は多めにとる傾向があり、ベンダーには安めの金額を提示することが多くあります。

 法人営業をする際、買い手のニーズは複数の部署が関与していることを把握しておきましょう。

 例えば、工場であれば安定稼働する高性能な設備を求めるので、価格が少々高くても構いません。しかし、購買部は安く購入することが仕事なので、価格や取引条件を優先する傾向があります。技術部、営業部、それぞれの部署のニーズがあり、一方のニーズのみに偏ると成約には至りません。

 このようにニーズはさまざまであり、各部署と調整して納得を得ることが必要不可欠です。

 顧客に導入時期の要望があっても、顧客企業内での調整が長引いて間に合わなくなる場合があります。

 仮に、顧客側では取締役会における購入承認が必要であった場合、営業側では確定注文をもらった後の生産リードタイムが3カ月かかるとすると、導入時期の4、5カ月前くらいには購入の稟議を回し始めないと間に合いません。

 しかし、顧客は商品の導入について自身の希望的に考える傾向があり、意思決定も営業側の要望よりも遅れ気味になります。

 このような後ろ倒しになることも視野に入れて、早め早めに動くようにしましょう。

 営業相手となる顧客側担当者は、スムーズな商品の導入を希望していますし、それは営業側も同様であるため、買い手・売り手で利害が一致している状況です。

 そのため、商談では交渉相手だと思わず「お互いに協力して、関係者と調整を図って稟議を通していきましょう」という雰囲気を作るようにすれば、信頼関係も築けて、BANT情報を教えてもらいやすくなります。