目次

  1. コーポレートガバナンスとは 「ガバナンス」の意味から解説
    1. コンプライアンスとの違い
    2. リスクマネジメントとの違い
    3. 内部統制との違い
    4. ESG投資としてのガバナンス
  2. コーポレートガバナンス・コードとは
  3. ガバナンスはなぜ重視される?
    1. 不祥事の発生や経営者の暴走の抑止
    2. 企業の健全で長期的な成長
  4. ガバナンスを強化する方法
    1. 経営者の意識改革
    2. 牽制機能を備えた経営体制の整備
    3. 内部統制の整備
    4. 役員・従業員への教育
  5. ガバナンスで得られる効果とは
    1. 収益力の持続的な向上
    2. 企業価値の向上
    3. 人材確保の促進
  6. ガバナンスが引き起こすデメリット
    1. 経営のスピード感が低下する可能性がある
    2. 業務効率が低下する可能性がある
  7. ガバナンスは身近なテーマ

 ガバナンスとは「統治、管理、支配」を意味する用語です。企業経営においてはコーポレートガバナンス、いわゆる「企業統治」として扱われます。

 コーポレートガバナンスにはさまざまな定義があります。一例ですが、38カ国の先進国が加盟しているOECD(経済協力開発機構)では以下のように定義されています。

コーポレート・ガバナンスは、会社経営陣、取締役会及び株主その 他のステークホルダー間の一連の関係にかかわるものである。

G20/OECDコーポレート・ ガバナンス原則 p.9丨OECD

 企業経営では営利を目的として事業活動が展開されています。そのなかで、株主だけでなく従業員や取引先、企業に関わるさまざまな利害関係者(ステークホルダー)と健全で良好な関係を維持・発展させる仕組みがコーポレートガバナンスです。

 ここでは、類似の意味を持つ専門用語との違いについて解説します。

 コンプライアンスは多くの場合「法令順守」という意味で使用されていますが、もともとは「要求などに応じること、応諾」を意味します。広義のコンプライアンスには、法律のみでなく「社会常識や倫理」なども含まれます。

 ステークホルダーとの関係を維持・発展させるコーポレートガバナンスを実現させるには、前提としてコンプライアンスを強化することが重要です。

 リスクマネジメントとは、企業経営において発生する可能性がある事象(問題)をあらかじめ把握し、適切に管理するプロセスです。

 リスクは不利な事態が生じる危険性を意味しますが、社内・社外に無数に存在する経営のリスクのすべてに対処することは不可能です。そのなかで、特に重大なリスクに対しては、発生を予防するための対策や発生した場合の対応策を事前に準備しなければなりません。

 企業を取り巻く環境が複雑化するとともにリスクも多様化しています。そのため、リスクマネジメントは健全なガバナンスを実現するうえでも重要性が高まっています。

 内部統制とは、経営者が自社の事業活動を健全かつ効率的に展開するために、従業員を監視する仕組みです。内部統制を整備することで、社内でのミスや不正をあらかじめ防ぎ、効率的な業務遂行や資産の適切な管理を図ります。

 経営者を含めた企業全体の統治を指すコーポレートガバナンスとは、「誰に対して監視の目を向けているか」という点で違いがあります。

 内部統制が有効に機能するための仕組みとして、内部監査があります。内部監査は、経営者の下で企業内部の人材が社内の規程や規程にもとづき遂行される業務活動の適切性をチェックすることです。

 ESGとは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)を考慮した投資活動や事業活動を指します。従来は投資家による株式などへの投資において、収益性やキャッシュフローなどの財務情報が主な判断材料でした。ESG投資では財務情報のみにとどまらず、環境や社会への配慮、さらに企業統治の向上なども非財務情報として考慮されます。

 営利を追求する企業活動には、気候変動や環境破壊、途上国での児童労働、企業による不祥事などの問題を引き起こす負の側面があることは否定できません。ESG投資は、環境問題や社会問題に配慮した事業活動を促すとともに、健全なガバナンスの実現にも寄与します。

 コーポレートガバナンス・コードは、上場企業に対して実効性があるコーポレートガバナンスの実現を促す主要な原則として東京証券取引所が取りまとめたものです(参照:コーポレートガバナンス・コード〈2021年6月版〉丨東京証券取引所)。

 プライム市場・スタンダード市場に上場する企業はコードのすべての原則について(グロース市場に上場する企業はコードの基本原則について)、実施しないものがある場合には、その理由を説明することが求められます。

基本原則 内容
株主の権利・平等性の確保 株主が本来持つべき権利を確保し、その権利を適切に行使できる環境の整備が求められています。
少数株主や外国人株主にも配慮し、株主に平等性に対応することが必要です。
株主以外のステークホルダーとの適切な協働 持続的な成長と中長期的な企業価値の創出を実現するために、株主以外のステークホルダー(従業員、顧客、債権者、地域社会など)との適切な相互連携を促しています。
そのために、株主以外のステークホルダーの権利や立場、事業活動で倫理を尊重する企業文化・風土を醸成するよう、取締役会・経営陣はリーダーシップの発揮が求められています。
適切な情報開示と透明性の確保 財務情報にとどまらず、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る非財務情報についても主体的に開示するように求めています。また法令にもとづく開示か否かにかかわらず情報提供への対応も促しています。
株主とのコミュニケーションの基盤となる開示情報(特に非財務情報)を正確でわかりやすく、有用なものとするように求めています。
取締役会等の責務 株主に対する責任を果たすべく、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を図り、収益力・資本効率など改善するための役割・責務が求められています。
そのために監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、適切な機関設計を独自におこなう必要があります。
株主との対話 株主総会の場以外でも株主と建設的なコミュニケーションを図り、株主の意見や関心・懸念に留意することを求めています。
経営方針を株主にわかりやすく説明し、理解を促進することが必要です。

 ガバナンスが日本において一層重視されています。ガバナンスの意義をより深く理解するためには、重視されている背景を知ることが大切です。ここでは、その理由について説明します。

 企業の不祥事が後を絶ちませんが、その原因の多くがガバナンスの欠落です。企業として必要なコンプライアンスや内部統制が有効に機能しないことで、法令や社会規範に反する行為が見過ごされてしまいます。また「風通しが悪い組織」の中では、言うべきことが言えない企業風土が醸成されます。

 社会的な信用をいったん失うと、その回復は容易ではなく、企業の存続が危ぶまれる状況に陥ります。

 昨今の企業経営では、自社の利益だけを優先するのは望ましくありません。株主や顧客、社会などのステークホルダーと良好な関係を築くことが求められています。ガバナンスの強化により、企業はさまざまなステークホルダーの支持や賛同が得られ、長期的な発展につながります。

 ガバナンスを強化するには、さまざまな取り組みに着手したほうが賢明です。ただし具体的な方法に関するイメージが持てない人もいるでしょう。実際にガバナンスを強化するための方法について説明します。

 ガバナンスを強化するには、経営者の意識改革が必要です。ガバナンスが重視されているなかで企業経営の持続性を高めるために、まず経営者自身のこれまでの姿勢や行動について振り返ってみる必要があります。

 ガバナンスの強化には、社長や一部役員の独断専行を抑止するための仕組みが必要です。つまり、第三者の目線で企業とかかわる人間が、公正な判断を下せるように環境を整えなければなりません。たとえば「社長にものが言える」立場にある監査役や社外取締役を配置することが有効です。

 ガバナンスの強化において、内部統制の整備も求められます。社内で業務が適切に遂行されているかのチェック機能を発揮させるために、部署ごとの業務の範囲や責任を明確にする業務分掌や、定期的な内部監査の実施などが有効です。

 経営体制や内部統制の仕組みが有効に機能するためには、役員・従業員への適切な教育が不可欠です。その際、経営トップがリーダーシップを発揮して、ガバナンスの意義やコンプライアンスについて理解させるための研修も継続させましょう。経営者がどこまで本気を出して教育に力を入れるかによって、従業員の意識改革にも影響を与えます。

 ガバナンスを強化すると、経営面でどのようなメリットが得られるかを説明します。実際に企業で導入する際の参考にしてください。

 ガバナンスの強化は、ステークホルダーである従業員や顧客との関係を良好にします。従業員が高いモチベーションを維持し、顧客との取引関係が円滑になれば、業績の継続的な良化や、収益力の向上も狙えるでしょう。収益性の向上は競争力を高めるための前向きな投資を促し、業績がさらに拡大する好循環につながります。

 ガバナンスの強化がもたらす効果として、業績の拡大を取り上げました。業績が好調であれば、株主にもより多くの利益を還元できます。また株主に対する適切な情報開示や平等性確保の取り組みは、企業に対する評価を高めることにつながり、新たな出資の可能性が高まります。

 ガバナンスの強化は、適切な業務遂行体制の整備や従業員同士の関係良化を通して、良好な労働環境の実現につながります。働きやすく、働きがいがある職場では離職率が低下し、人材の定着率が向上します。また求職者に職場環境の良さが評価されれば、優秀な人材の採用にもつながります。

 ガバナンス強化にはさまざまなメリットがありますが、強化の方法を誤るとデメリットが生じる可能性があります。ここで紹介する内容を注意点として押さえてください。

 株主の意向を考慮したり、社外取締役の意見を取り入れたりすると、経営者の意思決定のスピードが遅くなることが考えられます。環境の変化が激しいなかで経営のスピード感が低下すれば、有望なビジネスチャンスを逃がし、他社との競争に遅れをとる可能性が生じます。

 社内ルールやコンプライアンスへの意識が強くなると、業務効率の低下を招く恐れがあります。業務において無駄な作業や手続きが増えたり、従業員が委縮することで挑戦的な取り組みが減ったりするケースがあるためです。内部統制やコンプライアンスの徹底が、生産性の低下やコストの増加につながってしまっては本末転倒です。

 業務効率の低下を防ぐためにも、ガバナンスを強化する本来の目的に留意するようにしましょう。

 ガバナンスは企業経営において身近なテーマです。ステークホルダーとの良好な関係を築くための規則や取り組みは、上場企業に限らず、中小企業にとっても重要です。不祥事を防ぐというだけでなく、企業の長期的な発展に向けて、より多くの企業がガバナンスの強化に取り組むことが期待されます。