目次

  1. スタッフを通わせて継いだ職人技
  2. 老舗絵の具メーカーを吸収合併
  3. アートファンが集う飲食店を経営
  4. ミュージシャンを目指したが…
  5. 芸術家に活躍の場も提供
  6. 月光荘ブランドのTシャツも販売
  7. 創業者の生きざまをなぞっていた
  8. 自前のファームを持つ構想も

 間口の狭い、うなぎの寝床のようなビルの一階に月光荘はあります。整然と並んだ画材道具に囲まれていると時が経つのを忘れてしまいそうです。

 絵の具(490円〜)、筆(1100円〜)、ペインティングナイフ(2900円〜)、スケッチブック(440円〜)……。ラインアップは数千点にのぼりますが、月光荘の顔となる絵の具はもちろん、そのすべてがオリジナルです。

 「月光荘は創業時より顧客とともに商品をつくりあげてきました。(画家の)猪熊弦一郎さんのリクエストをかたちにした『チタンホワイト(油彩絵の具)』や『筆洗器』、(パナソニック創業者の)松下幸之助さんの肝いりで考案された『ウス点(スケッチブック)』は好例です」

画材道具はすべて職人が一からつくりあげたオリジナルです(月光荘画材店提供)

 特筆すべきは、大量生産とは正反対のものづくりが行われている点です。たとえばペインティングナイフは鍜治屋が一本一本、鋼を研磨していって仕上げていますし、木炭は一から育てた柳の木を炭職人がじっくり焼いています。

 「この業界はデジタル化のあおりを受けて斜陽の一途。鍛冶屋さんや炭職人さんは例外的存在であり、職人さんは年々、減っています。筆の職人さんも80代を迎え、引退を決意されました。お子さんが3人いらっしゃいましたが、後は継がせたくないという。このままではその技はついえてしまいます。わたしはスタッフに2年、通ってもらいました。そうして工具もろもろを譲っていただき、工房機能をまるごと銀座に移管することができました」

ローラーで絵の具を練り込む工程(同社提供)

 画材道具業界の構造不況は待ったなしのところまできています。日比さんは事業を続けていくことが難しくなった会社の引き継ぎにも乗り出しました。

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