脱下請けで生まれたペット用羽毛布団 キムラ2代目は異業種コラボも続々
京都府八幡市のキムラは50年以上、羽毛布団の製造・販売を続けてきました。2代目の木村祥和さん(48)は、すし職人を経て30歳を過ぎて家業に入社。下請け依存を脱するため、羽毛布団のレンタルを始め、ペット用羽毛布団の開発・販売にも手を広げます。体形などにカスタマイズした商品が好評を博し、2020年にネットニュースで取り上げられたのを機に注文が激増。今ではペット用の雑貨や食品などのコラボ商品にも乗り出しています。
京都府八幡市のキムラは50年以上、羽毛布団の製造・販売を続けてきました。2代目の木村祥和さん(48)は、すし職人を経て30歳を過ぎて家業に入社。下請け依存を脱するため、羽毛布団のレンタルを始め、ペット用羽毛布団の開発・販売にも手を広げます。体形などにカスタマイズした商品が好評を博し、2020年にネットニュースで取り上げられたのを機に注文が激増。今ではペット用の雑貨や食品などのコラボ商品にも乗り出しています。
目次
キムラは1970年に創業し、業務用羽毛布団の製造を始めました。現在は「キムラ京都布団」などのブランドを持ち、羽毛布団の製造と縫製、羽毛布団のレンタル、そしてペット用羽毛布団の製造・販売という四つの業務を行っています。従業員数は5人です。
木村さんの父が1960年代半ばに立ち上げたキムラ縫製という縫製会社が前身で、やがてパートナー会社からホテルや旅館向けの羽毛布団の製造を依頼されます。
当時はまだ一般家庭に羽毛布団が普及しておらず、旅行時の特別感を演出するアイテムでした。そこで羽毛の仕入れや布団の縫製まで一貫して行う設備を工場に整え、「株式会社キムラ」と社名も改めました。
木村さんは小学校時代、帰宅してランドセルを置いた途端、父から「おい、手伝え」と声がかかるのが常で、荷物運びや布団生地の寸法を測る手伝いをしていました。
「大きな生地なので、長い定規で寸法を測り、線を引く作業は2人がかり。でも従業員はみんな忙しいので、軽作業は私の担当でした」
20代のころは、すし職人として8年間働いていました。料理人の親戚や料亭を経営する親戚が多く、幼いころから高級仕出し弁当を口にしたり、目の前ですしを握ってもらったりしたため、志したのです。
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しかし、木村さんが31歳のころ、父から「家業が忙し過ぎる。帰ってきてくれないか」と言われました。
「すし店の大将には感謝していたし、2号店の店長を打診された時期でもありました。でも、子どものころから何不自由なく育ててくれた父のことも尊敬していました。自分の原点を考えた時、戻るべきと決めたんです」
すし店の大将にも背中を押され、2005年、家業に入りました。
木村さんは家業で布団の製造や配達を任され、すぐに経営課題を認識しました。猫の手も借りたいほどの忙しさなのに、業績は「多少利益が出る程度」だったのです。
「業務用羽毛布団の下請け製造で、値段は言い値。一緒に働いていた親戚からは『なんでこんな値段でこれだけの仕事をやらなあかんねん』と不満が出ていました。でも父や古参の従業員は目の前の仕事で精いっぱい。不満に十分対処できませんでした」
木村さんが入社して1年たったある日、父にレンタル布団への参入を相談します。以前、遠方の友人宅に大勢で泊まりがけで遊びに行った時、人数分の布団をレンタルしてくれていました。ただ、それは薄い布団だったため「うちなら、工場で作った羽毛布団をレンタルできる」とアイデアを温めていました。父も「面白そうだからやってみろ」と背中を押してくれました。
レンタル布団は人口が多い地域ほどニーズが高くなります。観光地で大学も多く、季節や学校行事に合わせて需要が増える京都はうってつけでした。「客用の布団を入れる押し入れがない家も多く、レンタル布団の需要はありました」
「せっかく借りるのだから良いものを」という心理も働くため、羽毛布団は重宝されたといいます。
当初は自社のトラックで近隣を開拓し、やがて京都市にも進出。注文は月に5~10件程度でしたが、現在は東京や北海道、沖縄まで顧客を広げています。特に注文の多い年末には、40~60件程度の注文を受けているそうです。
それから1年後、木村さんはペット用羽毛布団の製造・販売に乗り出します。
アイデアの元は、キムラの布団を愛用する顧客からの相談でした。
「自宅で飼っているゴールデンレトリバーが、夜になると羽毛のかけ布団を自分の寝床に持っていってしまう。このままだと自分が風邪を引くから、愛犬の羽毛布団を作ってくれないか」
当時も今も自宅でシバイヌを飼っている木村さんにも、その発想は全くありませんでした。犬用の布団製造は未経験でしたが、人間用の半分の大きさで作り、納品しました。
「ワンちゃんが羽毛布団の上でクルクル回ってコテンと寝てしまう。その様子を見た飼い主さんが、これまで見たことのないくらい良い表情をするんです」
大きさや種類によって変わりますが、現在、ペット用羽毛布団はリーズナブルなもので1万円ほど。高いものだと4万円ほどになります。
以来、木村さんは口コミで依頼があればペット用羽毛布団を製作。当時はすべて、犬の体形や飼い主の要望に合わせたオーダーメイドでした。しかし、周囲の反応は冷ややかだったといいます。
「父もあまりピンときていないようで、従業員からも『自分たちは何を作っているのか?』と言われました。同業者にも『誰が買うの?』と小馬鹿にしてくる人はいましたね」
しかし、飼い主の喜ぶ顔を見ている木村さんは製造を継続します。ニッチな商品でも必要とする人がいたからです。
布団だけでなく寝袋タイプを作ったり、土台を作る際は羽毛の量で硬さを調整したり。木村さんはペットショップやドッグトレーナーのアドバイスを受けながら試行錯誤しました。自社で羽毛布団を作る工場を持っていたことも事業の推進力になりました。
「レンタル布団もペット用羽毛布団も自社で製造できるからこそ自由にやれます。特にペット用羽毛布団は、自社でこれだけ研究し、天然素材で作っている会社は限られており、その価値が愛犬家に認知されたと思っています」
海外から取り寄せる羽毛は、木村さんが最も信頼できるルートを使い、国内工場で丁寧に洗浄されたものを使います。そして生地は可能な限りコットン100%を使用。オーガニックコットンで作った商品もあります。
「ペットが羽毛布団でこまめに寝られるようになったので、家の中でイタズラすることが少なくなった」、「他のペット用布団だとすぐにかんで振り回すのに羽毛布団だとそれがない」。そんな声が多く寄せられたことも励みになりました。
「『かまない』というのは、恐らく当社の羽毛布団にポリエステル繊維を使っていないからと考えています。ワンちゃんの市販の玩具は、多くがポリエステルを使っており、そのにおいがするモノは全て玩具だと思っている。だからポリエステル繊維のペット布団を、玩具を思って思い切りかんで振り回すのでしょう」
11年、社長の父が病で亡くなり、木村さんが経営を引き継ぎました。地道にペット用羽毛布団を作り始めて10年以上経った2020年秋、大きな節目を迎えます。知人がメディアに紹介してくれたのをきっかけに、インターネットのニュースサイトでペット用羽毛布団が取り上げられ、話題になりました。
たった2日間で1年分の注文が舞い込み、その年は自社で受けた注文と代理店を通じた販売分を合わせて計500点ほどを製造しました。「1年ほどずっと忙しかったですが、コロナ禍を乗り切れたのは大きかったです」
コロナ禍はキムラの納入先だったホテルや旅館などを直撃し、業務用布団の受注はゼロになり、現在も受注は回復していません。昨今の物価高騰で布団の価格も上がり、決して楽観できません。
それでも、今は木村さんが発案したレンタル布団とペット用羽毛布団が売り上げの30~40%を占め、安定して家業を支えています。
創業50周年となった20年、木村さんはペット商品ブランド「KIMURA Kyoto Pedding」を立ち上げました。布団だけでなく、ペット用の雑貨や衣類、フードも扱っています。
ペット用羽毛布団の認知が広まったことで、犬好きのビジネス仲間とのコラボレーション企画や商品に携わる機会が飛躍的に増えました。
ある生地メーカーの代表からは冷たい感触の糸を提供してもらい、夏でも快適にペット用羽毛布団を使ってもらえるクッションカバーを作りました。家具職人ともコラボし、廃材を使った犬・ネコ用のハンモックも製作中です。
ペット用のビジネスは食品にも及んでいます。異業種交流会で知り合った、犬好きのフレンチシェフとコラボし、犬用のおせち料理の開発に奔走したり、お魚ジャーキーを作る九州の漁港とフリーズドライの食品開発にも挑戦したりしています。これはペットも人も食べられる商品にするそうです。
「ペットがいつまでも元気で快適に過ごすには、飼い主さんも健康でなければいけません。『この子が生きているうちは元気でいなければ』と切実に考える飼い主さんは多いんです」
最近はヴィーガンの飼い主とそのペットに向けたお菓子作りの企画も考え、ペットの内臓に負担のかからない食品開発に取り組んでいます。
「おかげで最近では『ペットの人』と勝手にブランディングされています」
ペット用羽毛布団は当初、3アイテムからスタートしましたが、現在はオーダーメイドのほかに30アイテムをそろえ、年間売上額は20倍に成長しました。
サービス開始当初は年間20組程度だったレンタル布団も、今は60組ほどに伸びました。
木村さんはペットと人とが健康で過ごすには、睡眠が一番だと考えています。そのため、父が作った羽毛布団ブランド「キムラ京都布団」と、木村さんが立ち上げたペット用羽毛布団ブランド「KIMURA Kyoto Pedding」の両輪を軸に動いていきたいと考えています。
「二つのブランドでペットと飼い主の健康な生活を支えることが、自分の使命と考えています」
木村さんは入社してすぐに家業への危機感を覚えたことで、レンタル布団やペット用羽毛布団を思い付き、軌道に乗せました。
同じような立場の後継ぎ候補に向けては、「危機感を持ったら動いてほしい」と強調します。
「キムラにはたまたま自社工場や機械という財産がありました。そうした資産も含め、自分が置かれた状況下で、どんな困りごとが解決できるのかを考えることが大事だと思います。今は、自分1人では難しいこともコラボレーションすればできる時代です。色々な業種と組んでみたら面白いでしょう」
様々な業界からコラボレーションの話が舞い込んでいるのも、「ペット用羽毛布団」という大きな軸があるから。当初は木村さん自身、羽毛布団という枠を超えた展開を予想していませんでしたが、これまで異業種の様々な経営者から声がかかることで、ペットと人間の健康をテーマにした新しい商品の可能性を感じています。
「何もないところからペット用羽毛布団を生み出した経験は大きかったです。お客様の要望を聞いて知恵を振り絞る。まさにゼロからイチを生み出す力は、これからの時代に最も強いと思っています」
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