経営革新計画は未達でも…富田製畳所4代目が取り組むアナログな新規開拓
埼玉県西部に位置する横瀬町の「富田製畳(せいじょう)所」4代目、富田宣保さんは将来への危機感から経営革新計画を作り、再び事業を伸ばそうと決意します。国から認定を受けて取り組んだのですが、自ら設定した経常利益の伸び率の目標には届きませんでした。しかし、富田さんはそこで終わらず、原因を分析することで、従来のローカルCMや、アナログ的な人のつながりから新たな顧客との接点づくりに成功しています。
埼玉県西部に位置する横瀬町の「富田製畳(せいじょう)所」4代目、富田宣保さんは将来への危機感から経営革新計画を作り、再び事業を伸ばそうと決意します。国から認定を受けて取り組んだのですが、自ら設定した経常利益の伸び率の目標には届きませんでした。しかし、富田さんはそこで終わらず、原因を分析することで、従来のローカルCMや、アナログ的な人のつながりから新たな顧客との接点づくりに成功しています。
目次
最近では新しい住宅から和室が少なくなっています。また、畳は経年劣化すれば修理が必要ですが、それをしないで和室を洋室にリノベーションすることも多くなりました。このように畳の需要が以前ほどないので、畳店は経営的に苦戦を強いられています。
埼玉県横瀬町在住の「富田製畳所」の4代目、富田宣保さんも苦戦している一人です。富田さんは職業訓練校を卒業後、先代の父のもとで働き、伝統の製畳技術を習得。2011年には技能グランプリで2位になるほどの腕前となり、30歳で父から家業を受け継ぎました。
横瀬町は秩父市に隣接するのんびりとした静かな町です。高度成長期からバブル時期には、大手セメント採掘会社の社宅がたくさんあり、新しい畳や、畳の修理といったオーダーがひっきりなしにありました。しかしセメント業の衰退とともに需要が減少、少子高齢化で町から若者がいなくなり空き家が増加、安価な材料で畳を作る施工業者の参入など数々の原因が重なり、畳屋の商いは縮小傾向に。
「現在家族が問題なく食べていける収入はありますが、将来的に家業を継続できるか否かは不透明です」と富田さんは言います。
将来への危機感を打破すべく、富田さんが所属していた秩父商工会議所のサポートのもと、7年前に経営革新計画に着手しました。
経営革新計画とは、中小企業が「新事業活動」に取り組み、「経営の相当程度の向上」を図ることを目的に策定する中期的な経営計画書です。国や都道府県(富田さんの場合は埼玉県)に計画が承認されると様々な支援の対象になります。
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横瀬町の隣・飯能市吾野(あがの)地区のお寺からオファーがきたことがきっかけで経営革新計画に取り組んだのだといいます。
「吾野とその周囲の町の畳店が廃業したので、うちに連絡が入ったのです。今まで隣の飯能市は商圏として考えていなかったのですが、競合がいないのならば、お客さんを呼び込めるはず。だからそれらの地域の方々に、畳の表替えや修理などを喚起するマーケティング戦略を考えたのです」
ホームページ、折り込みチラシ、ノベルティグッズの制作や活用、キャッシュレス決済の検討や導入、自動研磨機器の導入による生産性向上などといった取り組みを新事業とし、2019年から2021年にかけて3年計画で設定し、付加価値額は10.7%、一人当たりの付加価値額は10.7%、経常利益は12.2%の伸び率を目標に設定しました。
しかし、結果として目標の伸び率を達成することはできなかったのです。
というのも、畳の表替えや修理を希望する方は年配層が多いので、インターネットを駆使してホームページから情報を拾い、メールで問い合わせる、さらには代金をPayPayなどで決済するといったITに詳しい層がそもそも少なかったのです。
新聞の折り込みチラシは、畳店がない吾野地区を中心に入れたかったけれどそこまで細かく設定ができませんでした。
さらに飯能市は電話の市外局番が3桁ですが、横瀬町は4桁。年配者にとってその心理的なハードルが高かったのでは、と目標を達成できなかった理由を富田さんは分析します。
それでも、収穫は大きかったようです。
「今まで感覚的にやっていたことをドキュメントにまとめ、利益率は具体的な数字にすることで経営目標が“見える化”できたのはとても勉強になりました。私が不得意な分野なので、違った目線で経営を俯瞰することができました。自分ができないことは外部の知恵に頼るのが一番でしょう」
それにと、富田さんは続けます。
「マーケティングなんて言葉もその時初めて知ったぐらいで(苦笑)。でも、要するに、今までのお客さんの要望を汲み取って、さらに新しいお客さんを開拓するってことだなと。そういう意味では、従来のCMでの宣伝広告や、アナログ的な人のつながりから受注することは大切だと再認識しました」
CMでいえば、地元秩父インターネットFMを活用。FM開局の3年前から現在まで、1日1回必ずスポットCMを流してもらっています。
「これはホームページやチラシよりも有効でした。人間は耳から聞く情報は結構覚えているようで、うちの名前を連呼してもらう内容にすることで認知度は以前よりも確実に高まりました。実際そこからオーダーも少なからず入っています」
また、大工さんからの新築や改築の情報が重要です。
大工さんと懇意にしていれば、仕事を紹介してくれる可能性が高くなります。前述の経営革新計画をサポートしてくれた秩父商工会議所のメンバーもそう。メンバーが家を新築、または改築する際「じゃあ、富田さんのところに畳を任せようか」といった話にもなりやすいのです。
さらには同業者の信頼を得ることも重要だと言います。
「ITの導入はもちろん大事ですが、依然として紹介や口コミの方が商売になりやすい。特に横瀬や秩父のような田舎はなおさらです。横のつながりを大事にし、何かあれば取り立ててもらうのが重要でしょう。でも、ギブアンドテイクの関係でないといけないから、こちら側もそれに応えないといけません。例えば年配の同業者は重い畳を運ぶのは体力的に厳しい。そんな時は、二階に畳を搬入するきつい仕事を率先して担当します。そこで丁寧な仕事をしていれば、同業者の廃業後に顧客を引き継ぐこともできます」
最先端のビジネスはともかく、職人仕事を増やすには飛び道具はありません。しかし、競合がどんどん少なくなっていること、昨今の空き家活用や古民家ブームで和室が見直されており、大工さん経由で仕事の依頼も来ているといいます。
IT導入などできないことは外部に頼りつつも、周囲の人との絆を大事にした口コミや紹介からの仕事をしっかりカバーする。この両輪で家業を守っていきたい、と富田さんは決意を語ります。
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