目次

  1. 「パッキンなしでも水がこぼれない」動画が拡散
  2. すぐに販売の予定はなかった
  3. ほんとに買ってもらえる?生産数に悩み
  4. SNSの反応は「熱しやすく冷めやすい」
  5. 売り上げにつながったポイント
  6. 意匠の新規性は認められる?
  7. 町工場のものづくりにスポットをあてたい 

 きっかけとなったのは、2023年6月27日の正午に平岡さんが個人アカウントで投稿したツイート(現ポスト)です。自分で欲しくて試作したステンレス製の菜箸立てを紹介するという内容でした。

 菜箸立ては洗いやすいよう、筒状の本体から底板がすぐ外れるようになっています。筒と底板はパッキンもネジもないのにピタリとかみあい、上から水をいれてもこぼれません。この様子を映したデモンストレーション動画に注目が集まり、「パッキンなしで水がそそげるのはすごい」「面白いアイデア」「売ってたら買っちゃう」など多くのリプライが寄せられました。投稿は瞬く間に拡散。136万のインプレッション(表示回数)と、1.1万のいいねを記録しました。平岡さんも「ここまでになるとは思わなかった」と振り返ります。

 ステンレスジョイントは1975年創業、従業員数16人の町工場。密閉性が求められる配管や容器の製作を手掛けており、こうした精密加工は専門分野でした。「加工の精度が高ければパッキンがなくても流体を止められるというのは、ものづくりをしている人間にとってはそこまで不思議なことではないですし、めちゃくちゃに高度な技術、というわけではありません。しかし一般の人にとってはあまりなじみがない技術で、身近な水を使ってわかりやすく見せられたことで、バズにつながったのだと思います」

 菜箸立ての名前は「hazure(ハズレ)」といい、「底板がはずれる」「固定観念からはずれる」といった意味を込めました。平岡さんが最初に試作したのは2020年。想定よりコストがかかり、需要もわからなかったため、一度はお蔵入りとなっていたものです。2023年、別の商品の購入者から意見をもらう中で商品化の可能性を感じ、再び試作に取り組みました。

 今回の投稿の一番の目的は、「需要があるのか、欲しい人がいるのかを知ることだった」と平岡さんは話します。反響次第では商品化も検討しようとしていたものの、数カ月かけてゆっくり進めるつもりだったといいます。そのため投稿時はECでの販売準備もなく、価格も決まっていない状態でした。

リモート取材で「hazure」を手にする、平岡雄策さん

 しかし6月27日の正午の投稿から間もなく、予想を大きく超える反響が寄せられます。突然訪れたチャンスに、平岡さんは急きょ対応を迫られました。

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