取締役の任期とは?変更・登記の方法を会社法をもとに解説
株式会社の取締役には任期があります。株式会社の設立を司法書士に依頼したときや、設立手続きが終わったときに「2年後、10年後に役員改選・登記が必要」と説明を受けた経験がある人もいるでしょう。この記事では、取締役の任期について認定司法書士・行政書士がわかりやすく解説します。
株式会社の取締役には任期があります。株式会社の設立を司法書士に依頼したときや、設立手続きが終わったときに「2年後、10年後に役員改選・登記が必要」と説明を受けた経験がある人もいるでしょう。この記事では、取締役の任期について認定司法書士・行政書士がわかりやすく解説します。
目次
取締役の任期とは、株式会社の取締役がその役職に就いている期間のことで、選任後2年以内が基本です。株式会社の取締役は一度就任しても、何の手続きもしないで一生続けることはできません。一定期間ごとに、取締役を選任(改選)する必要があります。ここでは、取締役の任期について具体的な仕組みを紹介しましょう。
会社法(平成十七年法律第八十六号)の規定では、基本的に株式会社の任期は「選任後2年以内」と定められています。
(取締役の任期)
会社法丨e-Gov法令検索
第三百三十二条 取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
一部、会社法で取締役の任期は1年以内としている会社や10年まで伸長できる会社もありますが、特に定めがない限り2年に1度役員の変更手続きが必要になります。
任期については、会社の基本的なルールを示した定款で定めます。この定款を変更することで、取締役の任期を2年以内に短縮が可能です。2年以内であれば、例えば1年や1週間、1日でも問題ありません。
定款の変更には、株主総会を開催し、定款変更の決議が必要です。詳しくは『取締役の任期を変更する方法とは?』で解説します。
2005年の会社法改正により、一部の会社は取締役の任期を最大10年まで延長できるようになりました。会社によっては役員を交代せず、2年ごとに手続きするのがわずらわしく感じるケースもあるためです。
ただし、この取締役の任期を10年までに延ばせるのは、会社法の332条2項にあてはまる株式会社のみとなります。
(取締役の任期)
会社法丨e-Gov法令検索
第三百三十二条
2 前項の規定は、公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)において、定款によって、同項の任期を選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
※非公開会社とは、株式会社がその発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について、当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている株式会社のこと
任期の計算ですが、会社法332条では「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」とされています。ただし、実際は2年にこだわる必要もないため、正確には「選任後◯年以内に終了する〜」と書き換えられます(任期例①②)。
事業年度と定時株式総会の関係によっては、任期2年の取締役が残り数カ月の時点で役員の変更手続きが必要になる場合もあります(任期例③)。
また、一般的に取締役の任期は就任時から起算します。定款を変更したタイミングが起算点となるわけではないため、計算する際には注意が必要です。
取締役の任期を変更する方法としては、会社内の基本法である定款の規定変更があります。定款を変更するには、株主総会の開催が必須です。この一連の流れは、以下の会社法の条文で定められています。
第四百六十六条 株式会社は、その成立後、株主総会の決議によって、定款を変更することができる。
会社法丨e-Gov法令検索
(株主総会の決議)
第三百九条 2 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。
定款の変更については、議決権の過半数をもつ株主(1人でも複数でも議決権数が過半数に達すれば可)が出席し、議決権の3分の2以上の賛成を受けて可決する必要があります(特別決議)。株主総会の決議要件をわかりやすく図でまとめたので、こちらも参照してください。
任期の変更手続きに関する定款の変更は、特に適用時期などの指定がない限り、現在就任している取締役にも適用されます。
仮に取締役の任期を2年としている株式会社が定時株主総会で、取締役の任期を10年に伸ばす決議をおこなったとしましょう。可決承認された場合は、現在就任している取締役の任期が10年以内に変更となります(任期例④)。
任期の変更後、現取締役の任期が満了しているときは、登記の申請が必要です。
「株式会社の取締役の任期は何年がいいか?」と疑問を持つ人もいるかもしれませんが、特に正解はありません。企業のスタイルに応じて、適している期間は異なります。1〜10年の範囲で、企業のスタイルに合った任期を紹介しましょう。
「任期を1年にしたい」など法律上の任期よりも短く設定する企業に多いのは、比較的大規模な会社の子会社であるケースです。
事業計画における人員配置の一つとして、子会社の役員(取締役)を位置付けている会社が挙げられます。スピーディーな事業執行をおこなうために、取締役の任期を1年にして毎年役員を変更するケースも少なくありません。
取締役の任期を1年にすることを推奨するのは、株主と経営者が同一人物でないケースです。株主が他人であると早く結果を出すことが求められるため、任期を短くして次々と交代しやすくする環境を整える企業も存在します。
なお、会社法上、取締役の任期を1年以内と定める必要があるのは、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社です。
監査等委員会設置会社とは、3人以上の取締役(過半数は社外取締役)で構成される監査等委員会が、取締役の業務執行を監査する株式会社のことです。
指名委員会等設置会社とは、取締役会のなかに指名委員会・監査委員会・報酬委員会の3つの委員会を設置した株式会社です。経営の監督については取締役会が委員会を通じておこない、実際の業務については別の役員(執行役)が取り組むといった形で、監督と業務執行を分離させているところに特徴があります。
この両者は、取締役会の設置と会計監査人の設置が義務化されているため、比較的大規模な会社となります。
取締役の任期として推奨している期間が2〜6年です。10年と長く設定すると、登記の手続きを忘れてしまう恐れがあります。
そのため、登記の存在を思い出せるように期間を定めれば、不備も防ぎやすくなります。 具体例として挙げられるのが、許認可の更新です。
行政から受ける許可・認可には定期的な更新が必要なケースもあります。更新の際には、その法人の登記事項証明書を添付することも少なくありません。そのタイミングで任期を設定すれば、許認可の更新に合わせて登記の手続きもおこなえます。
一般的な許認可の更新時期は、以下のとおりです。
4年に1度のペースで登記して、オリンピックイヤーに合わせるのも更新漏れの対策方法の一つです。
7年以上の任期(主に10年任期)を推奨している会社は、出資者と経営者が同じか、または家族で経営している会社です。主に、許認可を受けない(受ける予定がない)会社が該当します。このように任期を定めると、法人成りや相続税対策のための資産管理会社を設立させるうえでも役立ちます。
もちろん、任期変更にかかる定期的な取締役の選任と登記は必要です。しかし、会社のガバナンス的に取締役の選任、登記が遅れても影響がないケースもあります。その場合は、登記費用や手続き費用の節約のために取締役の任期を10年とすることも推奨しています。
定義が似ている用語である、再任と重任の違いを解説しましょう。
再任とは、任期満了後に役員の選任を登記する際に、もともと取締役として就任していた人をあらためて選任することです。一方で、再任のなかでも任期満了となる定時株主総会終結の時までに選任され、就任を承諾した取締役の就任を重任と呼びます。
いずれも、もともと取締役として登記されていた人を再度選任させる制度であるものの、主な違いとして空白期間の有無が挙げられます。再任の場合は、定時株主総会を終結したあとで選任もしくは就任する仕組みです。そのため、一時的に取締役ではない期間が発生します。
重任の場合は、定時株主総会終結のときまでに次の取締役として選任します。このタイミングで就任承諾をするため、取締役でない空白期間が発生しません。
また、再任の場合は登記申請時の添付書類として印鑑証明書または本人確認証明書が必要になりますが、重任の場合は必要ありません。登記上の違いについては、下図(取締約の再任と重任の違い)の「登記事項」をご覧ください。
取締役の任期について、変更登記が煩わしく感じる人も少なからずいるでしょう。しかし、登記のし忘れは罰則の対象になるので絶対に怠ってはなりません。申請をしなかった場合、どのような手続きがおこなわれるかを具体的に解説します。
会社法上、取締役の変更登記を怠ると、取締役の選任懈怠(けたい)と登記懈怠の罰則を受ける可能性があります。
具体的には「取締役を選任しなかった」または「選任したものの登記の申請を忘れていた」ときに100万円以下の罰金(※)が科せられる制度です。
(※)過料は正確には行政罰であり、刑事罰〈科料、罰金〉ではないもののわかりやすく罰金と表現しています。
(過料に処すべき行為)
会社法丨e-Gov法令検索
第九百七十六条 (省略)、取締役、(省略)は、次のいずれかに該当する場合には、百万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
一 この法律の規定による登記をすることを怠ったとき。
二十二 取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)、(省略)がこの法律又は定款で定めたその員数を欠くこととなった場合において、その選任(一時会計監査人の職務を行うべき者の選任を含む。)の手続をすることを怠ったとき。
満額の100万円を請求されたケースは聞いたことがないものの、依頼者のなかには4~22万円を過料として支払った人もいます。過料の基準は公開されておらず、司法書士でも詳しくは把握できません。しかし、少なからず負担がかかるため忘れずに登記を申請してください。
一定期間登記を申請していないと、休眠会社になる点も注意が必要です。登記を申請してから12年経過すると、法務大臣による「官報公告(国が発行している情報誌「官報」に掲載すること)」がおこなわれ、管轄登記所から休眠会社の整理作業の通知が本店所在地に郵送されます。
この公告から、2カ月以内に登記または「事業を廃止していない」旨の届出をしなければなりません。これを怠った場合、事業を継続していたとしても、みなし解散の登記がされます(会社法第472条)。
この一連の手続きを「休眠会社・休眠一般法人の整理作業」といいます。
(休眠会社のみなし解散) 第四百七十二条 休眠会社(株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から十二年を経過したものをいう。以下この条において同じ。)は、法務大臣が休眠会社に対し二箇月以内に法務省令で定めるところによりその本店の所在地を管轄する登記所に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告した場合において、その届出をしないときは、その二箇月の期間の満了の時に、解散したものとみなす。ただし、当該期間内に当該休眠会社に関する登記がされたときは、この限りでない。 2 登記所は、前項の規定による公告があったときは、休眠会社に対し、その旨の通知を発しなければならない。
会社法丨e-Gov法令検索
(株式会社の継続) 第四百七十三条 株式会社は、第四百七十一条第一号から第三号までに掲げる事由によって解散した場合(前条第一項の規定により解散したものとみなされた場合を含む。)には、次章の規定による清算が結了するまで(同項の規定により解散したものとみなされた場合にあっては、解散したものとみなされた後三年以内に限る。)、株主総会の決議によって、株式会社を継続することができる。
会社法丨e-Gov法令検索
この通知を受けて、「まだ会社で事業を続けていますよ」とその旨を法務局に届け出または登記を申請すると、みなし解散の登記がされない代わりに裁判所から100万円以下の過料の通知が届きます。
取締役の選任や変更は、株主総会の決議を経ておこなわれますが、その決議内容を登記所に届け出ることが必要です。取締役の権限や責任が明確になり、第三者に対しても信頼性が高まります。また、登記や選任を怠った場合は、罰則の対象となる可能性もあるので注意が必要です。
株式会社の取締役の任期や登記については、複雑な手続きや法律知識が必要な場合もあります。1人で抱え込まず、プロである司法書士の力を借りるとよいでしょう。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。