目次

  1. 家族信託と事業承継
  2. 家族信託の仕組みとは
  3. 認知症対策での活用例
  4. 残余財産と帰属権利者
  5. 家族信託の運用事例
  6. 家族信託でできること

 「家族信託」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。親が高齢者であれば、認知症になった際の有効な財産管理対策としてご存じの方も多いと思います。

 家族信託は認知症対策だけではなく、事業承継にも有効です。詳細は後編で解説しますが、先に概要を伝えると、自社株を信託財産として受託者を後継者にすることで、税金をかけずに自社株を後継者に移転することができます。後継者は信託された株式を利用して議決権を行使できます。

 家族信託で自社株を信託していますので、経営者は後継者の経営を見守りつつ、いざとなれば、指図権を行使できる契約にしておくことで、軌道修正をすることも可能です。後継者の手腕が悪ければ、信託を解消することで、白紙に戻すことができます。つまり自社株は、現経営者の手元に戻ることになるのです。

図表はすべて筆者作成

 事業承継税制を使えば、税金がかからずに、後継者に自社株を引き継がせることはできます。しかし、後継者が不適任だと判断した場合に、撤回して株をもとの経営者に戻すことはできません。後継者に株式を渡して経営をさせてみるという「お試し」ができ、なおかつ税金がかからないというのが、家族信託を使った事業承継と事業承継税制を使った場合との大きな違いになります。

 自社株を信託財産にする家族信託のスキームは、現経営者にとって役に立つものですが、後継者にこそ活用してほしいものでもあります。

 全面的に経営を委ねるのをためらう現経営者に対し、後継者から「税金を払うことなく、自社株を使って自分に腕試しをさせてほしい」とプレゼンできるからです。双方にとっての「お試し」を実行することで、事業承継の一歩が踏み出せる可能性が大きく広がります。前編では、家族信託の基礎知識や仕組みについて事例などを交えて解説し、後編では家族信託の事業承継への活用方法について詳しく掘り下げます。

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