長年負担だった積み荷の仕分け 中長運送は荷主との協議で時間を削減
青森県七戸町の中長(なかちょう)運送は、青森県産の野菜を首都圏に運び続けている運送会社です。2代目代表の中村健さん(70)は、国のパイロット事業をきっかけに、ドライバーの長時間労働を減らす取り組みに本格的に着手。荷主に労働実態や法規制を丁寧に説明することで、ドライバーが担ってきた積み込み作業を一部荷主側で分担してもらい、1日の拘束時間を2時間減らすことに成功しました。
青森県七戸町の中長(なかちょう)運送は、青森県産の野菜を首都圏に運び続けている運送会社です。2代目代表の中村健さん(70)は、国のパイロット事業をきっかけに、ドライバーの長時間労働を減らす取り組みに本格的に着手。荷主に労働実態や法規制を丁寧に説明することで、ドライバーが担ってきた積み込み作業を一部荷主側で分担してもらい、1日の拘束時間を2時間減らすことに成功しました。
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中長運送は、中村さんの父の長一さんが、1961年に設立しました。中村さんは29歳で家業に入り、39歳のころに社長に就任。主な荷主は地元の農協で、青森県産の長いもや大根、ねぎなどを、東京の青果市場に運び続けてきました。従業員数は約35人、大型冷凍車など約37台のトラックを所有しています。
中村さんはかねて、ドライバーの労働実態に課題を感じていました。特に、炎天下や凍える寒さの中で、大量の荷物を一つひとつ抱えて荷台に上げ下ろしする作業を目の当たりにし、「この働き方のままでは長続きしない」と考えていたそうです。トラックの側面が開くことで荷下ろしの負担が減る「ウイング車」を導入するなど、少しずつ改善をはかってきました。
そうした中、中村さんは県のトラック協会に声をかけられ、国土交通省などが2016~17年に実施したパイロット事業に参加します。事業の目的は、荷主と運送事業者が協力する場を設けて、ドライバーの労働時間短縮を目指すものです。中長運送と、主要な荷主である十和田おいらせ農業協同組合、さらに青森労働局など国の職員が参加して、取り組みがスタートしました。
それまでの繁忙期の中長運送では、青森で野菜を積んで東京の市場で荷下ろしするまで、ドライバーの1日あたりの拘束時間が、17.7時間 ほどまで膨らんでいました。現行の労働基準法は、1日の拘束時間を最大16時間までと定めており、それを超過する水準です(2024年4月以降は最大15時間までとより規制が厳しくなります)。
「速度制限もあり、青森から東京までの走行時間はこれ以上短くできないのが実態でした。うちは小さな会社なので、途中でドライバーを交代する中継輸送を行う余裕もありません。拘束時間を短くするには、荷積みと荷下ろしの効率化をはかるしかありませんでした」
当時、ドライバーは午前8時に農協に向かい、野菜の荷積みを始めていました。しかし荷物は配送先ごとの仕分けができていなかったため、ドライバーが荷物の仕分けもしながら、トラックに積み込む必要がありました。負担が増え、荷積みにかかる時間は最大4時間ほどになっていました。
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荷積みに時間がかかって出発が遅れることで、荷下ろしの作業にも悪影響が出ていました。
荷下ろし先である東京の青果市場は、午後9~11時ごろが混雑のピーク。到着がこの時間帯になると、荷下ろしのフォークリフトの順番待ちなどで、市場での待機時間が発生し、拘束時間が伸びる要因となっていました。
そこで、十和田おいらせ農協にお願いし、これまでドライバーが担っていた荷物の仕分け作業を、農協側で済ませてもらうようにしました。さらに出発時間を早めるため、荷積みの開始時間を午前8時から7時に前倒し。そのため、仕分け作業を農協側で前日までに終わらせてもらう段取りとしました。
仕分け作業の負担がなくなったことで、ドライバーが荷積みにかかる時間は1時間減少。作業の前倒しで出発時間も早くなり、東京での荷下ろし時に混雑のピークを避けることにも成功しました。トータルの拘束時間は、従来の17.7時間から15.5時間になり、2.2時間の拘束時間削減につながることがわかりました。
パイロット事業自体は17年で終えましたが、この方向性で改善をはかろうと、農協とも合意。人繰りをどうするかなど、現場での試行錯誤を続けているといいます。
「これまでは当たり前のように、荷物の積み下ろし作業をすべてドライバーがボランティアでやってきたけれど、人手も減ってきて、長年の慣習を見直す時期にきていると思います」
「ここ最近は物流危機がニュースなどで知られるようになりました。手を打たなければ、そもそも青森の野菜が東京に運べなくなる。運送事業者だけの問題ではないと、農協や生産者の方も危機感を持ってくれるようになってきました」
国内の運送会社は、その大半を立場の弱い中小事業者が占めていることもあり、荷主への交渉は簡単ではないとされます。中長運送のケースは、国の関与という後押しもありましたが、中村さんの次のような取り組みも、荷主の理解を得る要因となりました。
そもそも荷主側は、荷積みをドライバーに担わせることに根拠がなく、それによって労働基準法の上限を超過する事態になっていることを認識していないケースも多いといいます。
「私たちは毎日の運送の仕事で色々な法律や規制を知っているけど、荷主側にはそれが見えません。『このままじゃ法律的にもだめですよ』というのをまず伝えていく必要があると思いました」と中村さん。労働局のパンフレットなどを持参して、課題の解決のために荷主の協力が必要であることを丁寧に説明していきました。
人手不足や労働時間の削減という点では、荷主側も運送会社と同じ課題を抱えています。「向こうも繁忙期などがあるなかで、一方的に負担が増えるお願いをするのは無理。『〇〇はできないけど××までならできる。だから協力してほしい』と、お互いにできることを話し合って、協力の仕方を模索することが必要だと思います」と中村さん。積み込み作業をいきなりすべて農協側にお願いするのではなく、仕分け作業をやってもらうという分担も、お互いの負担を協議したうえでの落としどころだったといいます。
農協の幹部の理解を得られても、その意識が現場の担当者一人ひとりに浸透するまでは時間がかかったといいます。パイロット事業の当初は、荷積みにいったら仕分けがされていなかったという事もしばしばありました。
「やはり長年の商習慣ですから、頭に描いたように急にはかわりません。その都度、現場のドライバーから説明してもらったり、私からも働きかけたりして、理解を求めていきました」
24年4月からトラック運転手らの時間外労働に年960時間の上限が適用され、1日あたりの拘束時間も最大15時間となります。労働時間が短くなることで輸送能力が不足する可能性があり、「物流の2024年問題」と言われています。
中長運送でも、拘束時間削減の取り組みは続けていますが、「まだまだ途上。しっかり法律を守ろうとしたら、どうしても稼働率を落とさないといけない。ある程度の売り上げ減少は覚悟するしかない」と中村さんは話します。
「だけど、規制の強化によって、これからいい意味での競争にはなると思います。『安くてなんでも運びます』というような会社では、ルールを守れず倒産していく。安全運転で法律を守って荷物を運ぶドライバーをそろえる会社が残る競争になっていくんじゃないかな。その分、商品にある程度の価格転嫁がされることは理解してほしい。安すぎる商品や送料の裏では、だれかが無理をしているということを、消費者にも知ってほしいと思います」
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