目次

  1. 「ホット専用水出しコーヒー」どう売り出す?
  2. 焙煎工房の「逆転の発想」からイノベーション
  3. 「タグづけ思考」でターゲットをピボットせよ
  4. 「事業アイデアを量産できる”ひらめき”プログラム」開講します
オカビズでの相談風景

 「水出しコーヒーって、アイスじゃないんですか?」

 「いえ、ホットなんです。ホット専用の、水出しコーヒーでして」

 オカビズには、大企業から中小企業や町工場、そして町で愛される小規模店まで、さまざまな相談が毎日持ち込まれています。なかには新規事業をどうつくればいいかの相談もあれば、すでにある商品について「どうにかなりませんか?」という相談もありますが、この日持ち込まれたのは後者でした。

 しかし、数多の迷える商品を見てきたオカビズでも、その商品の「謎さ」は、過去の相談のなかでも群を抜いていました。商品名は、

 「ホット専用水出しコーヒー」。

 もしあなたが、こんな商品についての相談を受けたとしたら、どう回答しますか?

 もっといえば、「誰」にアプローチすればいいと思うでしょうか。

 まずはこの不思議な商品の説明をするところから、始めます。ぜひ、「強み」は何なのかをイメージしながら読み進めてください。

水出しコーヒー

 商品の相談を受けた日の帰宅後、「ホット専用水出しコーヒー」をつくってみました。商品自体の見た目はよくあるコーヒーのパウダーパック。ただし、教えてもらった手順は、まるで暗号のよう。

  1. パックを水に入れ、ひと晩冷蔵庫で冷やす
  2. 翌朝、完成した「水出しコーヒー」をマグカップに注いでレンジでチン

 なぜこんな手順を踏むのでしょうか。開発者である、岡崎でコーヒー豆の焙煎工房「樹の香(このか)」を営む小野賢次さん、千夏さんのご夫婦によると、「美味しいコーヒーを、誰もが簡単に飲めるようにしたかったんです」。

岡崎でコーヒー豆の焙煎工房「樹の香」を営む小野さん夫妻

 そのためには、この手順しかなかったのだといいます。理由は2つ。

  1. ハンドドリップは、確かに美味しいけれど上手い下手で味が変わる。水出し+レンチンは手順が明確で、誰でもできる
  2. ハンドドリップは、時間がかかる。手軽に美味しいコーヒーをすぐ飲んでほしいので、レンチンをチョイス

 この手順でつくったときに美味しくなるような商品として、「ホット専用水出しコーヒー」を生み出したのです。

 実際に自宅で出来上がったコーヒーは、たしかに美味しく、淹れ立てのように香りが広がりました。手軽なうえに、インスタントではこの深みは出ません。

 この美味しさが誰でも手軽に再現できる、というのは確かに強みといえます。一方で、やや高価であること、トンチのような商品ゆえの伝えにくさが足を引っ張っているという状況でした。

 強みと弱みが出そろいました。さあ、あなたなら「誰に」どう売り出しますか。

 画期的だけど売れていない。そんな商品やサービスがあるとき、私は抽出された「強み」をベースに、「タグづけ」してみましょう。インスタグラムでよく見かけるあの「#(ハッシュタグ)」を、頭の中で手当たり次第につけていく手法です。

 ホット専用水出しコーヒーの強みは、「忙しい朝でも、本格的で美味しいコーヒーが簡単につくれる」。

 ここから、たとえば「#本格コーヒー #手軽 #手間なし #誰でもできる #忙しい朝 #時短……」と展開していけばOK。

 こうしたハッシュタグを思い浮かべられれば思い浮かべられるほど、頭の中で連想ゲームが進みます。そうなれば、ひらめきまではあと一歩です。

 実際このときも、「#時短」が決め手になりました。たとえば、オイシックスの人気商品であるそのまま使える「カット野菜セット」。たとえば、マ・マーの時短パスタである「早ゆでシリーズ」。「時短家電三種の神器」なんて言葉も思い浮かびます。

 こうした同じタグ、つまり「#時短」がついた商品やトレンドが浮かんでくれば、さらに次へと進みます。

 「こうした時短商品って誰が買ってるんだっけ?」

 「どういう人が、限られた時間で本格的なモノを楽しみたいって思ってる?」

 こうした問いからひらめいたターゲットは、「#共働き」「#パワーカップル」でした。ある程度収入があるものの、共働きのために朝ゆっくりコーヒーを入れる余裕がありません。

 そんな人に向けて「忙しい朝でも、手軽に本格コーヒーが飲める」と打ち出すことができれば、どうでしょうか。ターゲットの暮らしまでが浮かび上がってきませんか?

「年間50時間節約できる水出しコーヒーGet!50」

 こうして、「ホット専用水出しコーヒー」は、「年間50時間節約できる水出しコーヒーGet!50」として生まれ変わりました。ハンドドリップに1日10分かけていたのが1分で済むことから、1日9分の時短×7日×4週×12か月=年間50時間の時短になると読み解いたのです。

 結果は大当たり。「ホット専用水出しコーヒー」と名乗っていた頃に比べて、売上はなんと6倍になりました。

 2.2万件を超える相談を受けてきたなかで、適切なターゲットに強みが刺さりさえすれば、と思うことは本当に多くあります。同じ商品であっても、タグづけ次第では認知を変えて売上を伸ばす余地はいくらでもあります。たとえそれが「ホット専用水出しコーヒー」という謎の商品であっても。

★やってみよう★

・あなたが売上を伸ばしたいと思っている商品・サービスの強みを書き出し、ハッシュタグ化してみよう。
・同じハッシュタグで検索したとき、どんなトレンドが世の中にあるのか探してみよう。
・見つかったトレンドと商品・サービスの強みを掛け算したときに、どんなターゲットが見えてくるのか、検討してみよう。

 本連載で秋元氏が述べた「強み」に気づいてリフレーミングする手法や、トレンドと紐付けるための8つの「ちいさな習慣」について、2024年4月から体系立てて学べるスクールをオンラインで開講する予定です。

 全5回で20万円 (税込22万円)。

 ご関心のある方は、ツギノジダイの問い合わせフォームからご連絡ください。登録いただいたアドレスに講座詳細やお支払いについてのご案内を差し上げます。