3店舗閉めたのに売上アップ 銀座英國屋は売上拡大やめて利益重視へ
高級オーダースーツブランド「銀座英國屋」3代目社長の小林英毅さんは2023年、全国9ヵ所にあった店舗のうち、3店舗を一気に閉鎖すること決めました。人口減少、脱スーツという社会トレンドのなかでの売り上げ拡大路線をやめて、中小企業の強みを生かしてサービスの質と利益率を高める戦略を選びました。その結果、既存顧客をほぼ失うことなく、2023年11月の利益率は23.2%と、前年よりも2倍近くに伸ばすことができました。
高級オーダースーツブランド「銀座英國屋」3代目社長の小林英毅さんは2023年、全国9ヵ所にあった店舗のうち、3店舗を一気に閉鎖すること決めました。人口減少、脱スーツという社会トレンドのなかでの売り上げ拡大路線をやめて、中小企業の強みを生かしてサービスの質と利益率を高める戦略を選びました。その結果、既存顧客をほぼ失うことなく、2023年11月の利益率は23.2%と、前年よりも2倍近くに伸ばすことができました。
オーダースーツブランド「銀座英國屋」を展開する英國屋は1940年創業。東京・銀座や大阪などに店舗を展開し、ここ数年の年間売上高は14億~16億円です。
2023年、店舗が入っている建物の建て直しなどのタイミングで東京・赤坂、奈良、名古屋にある3店舗を閉鎖することを決めました。
小林さんは「売上は多少下がると覚悟していました」といいますが、2023年11月~2024年1月の売上高は、新規顧客も増えて前年同期と比べて106.9%となりました。コロナ前の水準と比べても105%の伸び率です。
既存顧客だけ集計しても前年同期と比べて99.1%と、ほとんど離脱がなかったといいます。一方で、3店舗分の家賃・共益費で月300万円ほどの支出を減らせたこともあり、利益率は前年よりも2倍近く改善しました。
「フルオーダースーツは、それぞれの体型に合わせた型紙から一から作るため、そのフィット感を体験された方はなかなか離脱しないという商品の特徴があります。また、近くの店舗が閉鎖となっても、仕事で立ち寄った東京や大阪の店舗で注文いただいているようです」
閉店したところは、少人数で運営しており、拠点のある東京や大阪からサポートしづらい店舗もありました。そこで、スタッフの一部は、残る店舗に移ってもらうことで、スタッフを増員でき、手厚い接客ができるようになったほか、土日に休みやすくなり、勤務シフトも組みやすくなるという効果もあったといいます。
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店舗を一気に閉める決断ができたのは、コロナ禍での経験があったからでした。日本全体でコロナ禍の影響が残る2021年6月、銀座英國屋は銀座の中央通りに面した本店を閉じる決断をします。
当時、銀座英國屋は、銀座の大通りに面したビル1階に本店を構えており、売上の4割を占めていました。ただし、年間1.5億円近い賃料が負担となっていました。
「ベテラン社員が大切にしてきたお店だったので、悩んだのですが、現場のトップである副社長が閉めてもいいんじゃないですかと言ってくれたので決断できたのです」
閉店後「こわいな」と思いつつ、売上への影響を調べたところ、0.1%減にとどまっていました。既存顧客は、近くの銀座3丁目のビル3階にある店舗などを利用していました。
「オーダースーツはショッピングの合間に偶然立ち寄るというよりも、目的買いをする商品です。そのため、すでにリピートで購入いただいている方が多いため、必ずしも大通りの路面店である必要はなくなっていたのです」
2023年の3店舗閉鎖は、利益・サービス重視にシフトする過程です。
銀座英國屋では、埼玉県北本市にある工房で年間3700着をつくっています。年間売上高をさらに伸ばそうとすると、いまの工房では間に合わないため、工房の移転が必要になります。工房の新設費用もかかる上、今の職人が新しい工房に移ってくれるのか…。
「高級スーツは今後も底堅い需要はあると考えられますが、それでも人口減少、脱スーツ化が進むなかで、工房の移転コスト・離職リスクを背負ってまで売上拡大を目指す必要はないと判断しました」
そこで、生産できる年間3700着を販売するために、顧客の7割を占めるリピート客を大切にしつつ、残りの3割の新規顧客をWebなどで集客しつつ、固定費をなるべく抑える戦略をとることにしたのです。
「大企業は、株主らに向けて短期的な改善効果を示す必要があります。省人化でロボット・AIによる接客が人件費削減につながるので、有効な手段です。しかし、高価格・少量販売がメインとなる中小企業は、リピートしていただける顧客が大切です。株価・株主を気にせず、長期的な視点で人材の育成に取り組めるところに私たちのアドバンテージがあります」
小林さんは今後も、店舗を集約しつつ、1店舗あたりの人数を増やすことで働きやすい職場づくりとサービス向上を目指す方針です。
「さらに働きがいを高めていくなかで、スタッフそれぞれの個性も生かしやすくなってくるでしょう。そのなかで、スタッフからも新規事業の提案が出てくるかもしれません。今後の戦略はそのことも含めて考えていきたいと思います」
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