目次

  1. 意思決定とは
    1. トップダウンでの意思決定
    2. ボトムアップでの意思決定
  2. 意思決定で重要な三つのモデルと具体例
    1. 合理的意思決定モデル
    2. 直感的意思決定モデル
    3. 創造的意思決定モデル
  3. 意思決定における七つのプロセス
    1. 課題や問題を定義する
    2. 情報を収集する
    3. 解決策の検討
    4. エビデンスを検討する
    5. 選択肢のなかから選ぶ
    6. 行動に移す
    7. 意思決定を見直す
  4. 【ビジネスシーン別】意思決定をする際のポイント
    1. 組織内で対立が起きたときの意思決定
    2. 営業戦略の策定
  5. 意思決定とは「捨てる」こと

 意思決定とは、複数の選択肢のなかから、自身の経験や知識、外部有識者からの助言などをもとに、もっともよいと思われるものを責任をもって決めることです。中小企業の経営者の仕事は、この意思決定がすべてといっても過言ではないでしょう。

 意思決定には「トップダウンでの意思決定」と「ボトムアップでの意思決定」の二つの「型」があります。型の特徴やメリット・デメリットを知っていれば、適切な意思決定にたどり着きやすくなります。ここでは、それぞれの型について解説します。

 トップダウンでの意思決定は、経営者を始めとした上層部が意思決定をおこない、それにもとづいて下部組織が行動するという意思決定のスタイルです。

 社風を示す言葉としてよく使われる「上意下達」をイメージするとわかりやすいのではないでしょうか。

 トップダウンでの意思決定によるメリット・デメリットは次のとおりです。

メリット デメリット
・意思決定から行動までが早い
・トップが決めるので、組織として一体となった行動がとれる
・経営の方向性を大きく変えられる
・下部組織の社員から反発がある
・意思決定がトップの能力に左右される
・トップの人望がないと機能しないことも

 トップダウンでの意思決定のメリットは、トップ自身に決定権があるので、意思決定から行動に移行するまでが早いことです。また、組織として一体となった行動がとれます。

 したがって、経営の方向性を大幅に変えるなど、大胆で大きな変化をすべきときには、トップダウンでの意思決定にメリットがあります。

 例えば、新型コロナウイルス感染症拡大の局面では、これまでやったことがないような事業転換を図る必要に迫られた中小企業が多くありました。

 このように「すぐに経営判断を下さないといけない」「これまでと大きく違う方向性に舵を切る必要がある」場合には、トップダウンによる経営判断が有効です。

 一方で、トップダウンにはデメリットもあります。「うちの会社はトップダウンだから」といったぼやきに代表されるように、経営者が決めた判断に反発を抱く社員もいるかもしれません。したがって、下部組織の社員からトップへの人望がないと、この意思決定は成り立たないでしょう。

 また、意思決定にはトップの能力も左右することになります。意思決定をする経営者がしっかりと複数の選択肢を比較検討しなければ、誤った意思決定をする可能性があります。

 もう一つは「ボトムアップでの意思決定」です。これは、社員など企業の下部組織に属するメンバーの提案を、経営トップら上層部が吸いあげることで意思決定をするスタイルです。

 中小企業は大企業と比較して社員数が少なく、経営者と距離が近いという特徴があります。この特徴を生かし、社員が経営トップに意見を言えるような組織づくりを積極的にしている企業も増えています。

 例えば神奈川県横浜市本社がある、産業用ヒーターメーカーの「株式会社スリーハイ」では、代表取締役の男澤誠さんが「社員一人ひとりが主役となれる組織づくり」に取り組んでいます。

 男澤さんは「社長は『従業員が安心して仕事ができる環境』を作ることが役割である」として、挨拶をはじめとして、社員に自ら積極的に声がけをしています。筆者も何度かスリーハイに伺いましたが、社員と社長の笑顔で行われる会話が途絶えないことに毎回驚かされています。

 日常的なコミュニケーションが円滑におこなわれているからこそ、インシデントとなりうる課題や問題も含め、社員が社長に意見を言いやすくなる雰囲気がつくられています。

 男澤さんについては、以下の記事でも紹介しているのであわせてご参照ください。

 フラットな組織づくりでよく見受けられるボトムアップでの意思決定ですが、こちらにもメリット・デメリットがあります。

メリット デメリット
・現場の声が経営判断に反映されやすい
・現場の社員が自発的に意見をあげるようになる
・下部組織メンバーの成長につながることも
・意思決定から行動までのスピードはトップダウンと比較して遅い
・意思決定が現場社員の能力に左右される
・仕事を「自分ごと」と自律的に捉えられる社員がいないと機能しない

 ボトムアップでの意思決定のメリットは、現場の声が意思決定に反映されやすくなることです。

 また、意思決定に社員の声が重視されることで、社員が自発的に意見を言いやすくなり、社員の成長につながります。

 しかし、意思決定から行動までのスピードはトップダウンと比較すると遅くなります。さらに、現場社員の能力により、あがってくる意見の質が左右されます。

 そもそも仕事を「自分ごと」と自律的に捉えられる社員が育っていないと、ボトムアップ型の意思決定は機能しないでしょう。

 意思決定をする際には、三つのモデルと七つのプロセスを押さえることが大切です。まずは、三つのモデルについて詳しく紹介します。

 「合理的意思決定モデル」とは、過去のデータや情報をもとにして、論理的に選択肢を決める方法です。

 この方法は過去のデータや情報をもとに論理的に意思決定をするため、社員みんなが納得できる結果を出しやすくなります。

 ただしこのモデルは、信頼できるデータと情報の選択が意思決定の成否を決めます。信頼性が低いデータや情報を使ってしまうと間違った判断をするリスクが高まるため、データ選びには特に注意が必要です。

 この意思決定のための過去データについては、中小企業診断士のような経営コンサルタントが豊富な事例をもっています。そのため、外部の頼れるコンサルタントに聞いてみるのも有効です。

 例えば、筆者はある起業支援施設で、起業したばかりの方の経営相談に対応しています。筆者らのような起業支援コンサルタントは「起業したほかの人がどのような施策を取ったのか」という事例をたくさん知っています。

 筆者であれば起業家の1on1を年間100時間以上実施しており、そこで成功例や失敗例も聞いています。その際、ほかの人の行動事例をいくつか紹介しながら、その相談者にも有効と思われる意思決定は何かを一緒に考えていきます。

 これも、過去のデータや情報をもとにして意思決定をする「合理的意思決定モデル」の形といえます。

 「直感的意思決定モデル」とは、データや論理だけに頼らず、意思決定者の経験や直感を重視して決定を下す方法です。

 データや情報がある場合でも、それが自社にとって最適かどうか、またはすべての状況に適用できるかどうかは必ずしも明確ではありません。直感的意思決定モデルは「長年の経験を積んだ人であれば、直感で適切な判断を下せるのでは」という考えが土台にあります。

 この「長年の経験を積んだ人」は、いわゆる「熟練職人」と呼ばれる人がイメージしやすいでしょう。

 例えば、顧客からの難しい要望に対して、どのように対応すればよいか、下部組織の技術者がノウハウを持ち合わせていないとします。熟練職人であれば、これまでたくさんの製品を作ってきた経験があります。

 その豊富な経験から「過去にやったことがある、似たような対応事例」を瞬時に思い出し、まさに「長年の経験と直感」で適切に対応できるでしょう。

 「創造的意思決定モデル」とは、新しい問題や未知の課題に対して、創造力を生かして意思決定をおこなう方法です。

 このモデルでは、まず情報を集めていくつかの代替案を出します。そして、その案が実現可能かどうか、時間をかけてじっくりと検討する点が特徴です。

 この検討のステップに時間をかけることで、今までにない斬新なアイデアを生み出せます。つまり、創造的意思決定モデルは、従来の枠を超えた新しい解決策を見つけるのに役立ちます。

 例えば筆者は、行政の中小企業支援機関に勤務していたとき、下請け型ビジネスモデルから脱却を目指す中小企業の、自社製品開発を支援するプログラムを運営していました。

 このプログラムでは、約1年間かけて経営戦略からマーケティング、製品コンセプトの考え方を講義しました。受講者は、製品開発の経験を豊富に持つプロダクトデザイナーからの個別支援も受けられます。

 下請け型ビジネスモデルの町工場にとって、自社製品開発は初めての試みです。講義で製品開発の基本的なノウハウを学んだあと、自社で何ができるか案を出し、専門家であるプロダクトデザイナーの助言も受けながら、1年間かけてじっくりと検討していました。

 この一連の流れを身に付けた企業は、そのあとも第2・第3の自社製品を生み出し、かつ生み出すサイクルも段々と短期化していくことで、新たな事業の柱を築けていました。

 では、意思決定はどのように進めていけばよいのでしょうか。意思決定には七つのプロセスがあり、このプロセスに従って検討を進めていくことで、適切な意思決定に近付けられます。

 まず、意思決定をする前に、どのような課題や問題を解決するのか定義します。意思決定は何かしらの目的を達成するためにおこなわれます。しかし、そもそもの目的があやふやでは、何が必要で何が足りないかを判断できません。

 例えば、これからの新事業開発に向けて意思決定をする場合、以下のようなゴールを定める必要があります。

  • 新事業開発がそもそもなぜ必要なのか
  • 新事業開発ができたらどのように会社が変わるのか
  • 新事業開発で社員にどのように成長してほしいか

 最初の段階で課題や問題を定義しておくことで、その後の意思決定がぶれずに進められます。

 課題や問題を定義したら、次におこなうのは情報の収集です。

 社内だけでなく社外事例も集めるなど、幅広い視野で情報を収集しましょう。集める情報は信ぴょう性も重要です。信頼できるデータや実績にもとづいたものを集めてください。

 ただし自社だけではどうしても視野が狭まってしまいます。情報収集のパートナーとして、経営コンサルタントや各種士業など、外部専門家にアドバイスを求めることも有効です。

 情報を収集するなかで、課題に対する解決策も集まってきます。この解決策は一つだけでなく複数用意して、選択肢を広げましょう。複数の解決策を組み合わせるといった方法も有効です。

 この解決策の検討でよい選択肢を複数あげられるかどうかは、前段の情報収集の質に左右されます。

 解決策に対する判断も、同様に外部専門家からアドバイスを受けることで、よりフラットな視点で検討できるでしょう。

 代替案をいくつか出したら、その案が本当に有効なのか、エビデンスの分析・検討をおこないます。

 例えば、新製品開発を進めており、情報収集と解決策の検討の結果、新製品の案がいくつかでてきたとしましょう。それぞれの新製品の案について、メリット・デメリットや実現可能性、想定しうるリスク等について比較検討するプロセスが、この「エビデンスを検討する」にあたります。

 特に新製品開発の場合、いい案だと思った新製品のアイデアが「すでに他社が特許を取っていた仕組みであった」と判明することもよくあります。

 ここでも外部専門家を頼りながら、潰せる問題点をすべて洗い出していくことが、後々のリスク回避につながります。

 メリット・デメリットや実現可能性、想定しうるリスクなどを比較検討したら、複数の選択肢からもっとも実現可能性が高く、企業にとってよい方法を選びます。

 ここでは前段で解説した「意思決定の三つのモデル」や、「トップダウン」または「ボトムアップ」での意思決定がされることになります。

 意思決定をおこなったら、あとは行動に移すのみです。社員を中心に、行動をタスクベースに落とし込みましょう。各タスクはそれぞれ、いつまでに誰がおこなうかを決めます。

 プロジェクトマネジメントをする社員または経営者は、タスクの進捗(しんちょく)状況を定期的にチェックしましょう。

 意思決定プロセスで決めた期間が終了したら、おこなった意思決定を振り返りましょう。以下のポイントを振り返り、今後の意思決定につなげることが大事です。

  • 当初立てた目標と結果にズレはなかったか
  • ズレがあった場合、そのズレはなぜ起こったのか
  • 良かった点と悪かった点の振り返り

 この振り返りにおいても、外部専門家を交えて多様な視点から振り返ることは効果的です。

 意思決定の質をあげるためには、注意すべきポイントがいくつかあります。ここでは、特に意識すべきことをビジネスシーンごとに解説します。

 会社にとって初めてのチャレンジをする場合、組織内で対立が起こることがあります。

 例えば、新規事業に取り組もうとした際、営業部門・製造部門・品質保証部門との間で対立が起こるといったものです。これは、下部組織の社員の視点が、部門単位以上に広がっていないことが要因の一つです。

 組織内で対立が起きた場合の意思決定のポイントは、経営者が「企業のミッション・ビジョン」といった、これから目指したい方向性を言語化し、下部組織に伝えることです。

 そうすることで、会社という船の進むべき道に社員も迷うことなく、意思決定された解決策に向けて進めるでしょう。

 営業戦略の策定では、顧客情報の管理と分析が意思決定の成否を分けます。営業戦略の策定は、意思決定で重要な三つのモデルのうち「合理的意思決定モデル」に則るパターンが多いでしょう。

 ここで重要になるのは、顧客情報の管理です。中小企業では顧客情報が社内で一元管理できていないケースも多く見受けられます。顧客ニーズの把握が不十分であったり、営業活動の進捗状況をリアルタイムに把握できていなかったりするといった課題があります。

 営業戦略の策定では、まずCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)ツールなどを導入して、顧客情報を一元管理することが大切です。CRMツールの導入にはIT補助金も活用できます。

 ですがツールを導入しても、分析ができなければ十分に活用できているとはいえません。

 筆者が支援しているある企業では、顧客に積極的にアンケートをとっています。満足度の低い回答があった場合は、社員が顧客にヒアリングするといったアナログなコミュニケーションも併用しながら、顧客ニーズの正確な把握に努めています。

 人数が少ない中小企業では、経営者もプレイングマネージャーとして、現場の仕事をしていることがあります。しかし、本記事で解説した意思決定は、経営者にしかできない仕事です。

 現場の仕事に時間が取られがちですが、現場だけを見ていると、広い視野で会社全体を見れず、結果的に意思決定を誤ってしまう可能性もあります。

 何かを選ぶということは、選んだ選択肢以外を「捨てる」ことであり、これはとても勇気がいる行動です。しかし、不要な選択肢を「捨てる」からこそ、会社という船を迷わずに目標まで最短で進む道を見つけられます。このことを、経営者にはぜひご理解いただきたいと思います。