目次

  1. ある電子機器製造会社の経営層が語る価格交渉
    1. 「取引先の内製化、もっとも心配」
    2. 「取引先と共闘するつもりで資料を作成」
  2. あるプラスチック加工会社の経営層が語る価格交渉
    1. 「マシンレートの根拠資料が社内のどこにもなかった」
    2. 3つの交渉ポイント
  3. ある廃棄物収集運搬会社の経営層が語る価格の現状
  4. 価格勝負にしないためには?

 コロナ禍と比べると、状況はかなり改善されてきましたが、半導体不足の影響がまだ残っており、半導体部品ベンダーとのパワーバランスが変わったように感じています。

 半導体部品の値上げ幅は大きく、1.3~3倍近くにもなりました。納品ごとに見積もりを変えているような状況です。

 雰囲気としては、半導体部品ベンダーからの供給が止まってしまうことをメーカーはもっとも恐れています。そのため、仕入れ値を下げることはできません。ベンダーとの間をつないでいる私たちも泣いて損をかぶりながら、お客様であるメーカーとも相談している状況です。

 それでも電子機器を作らざるを得ません。いま、もっとも心配しているのが、「そんなに値段が上がるんだったら自社でやる」と取引先が内製化の仕組みを整えてしまうことです。一度、内製化の態勢を整えてしまうと、もう注文は戻ってきませんから。

 国内の人件費が安い地域に流れてしまうことも危惧しています。工賃は安くても、本来、物流費の分だけ高くなってしまうはずなのですが「ほかのものも一緒に運ぶから」という理由で、物流コストは別勘定となっている企業もあります。

2023年度の地域別最低賃金

 材料も人件費も電気代も値上がりし、作れば作るほど赤字という状態に陥りました。そこで、私たちは値上げを認めてもらえるよう取引先に向けてレターを出しました。基本的には値上げの理由をしっかりと説明する内容で、懇切丁寧に説明し、加えて情にも訴えかけるというスタンスです。

 もちろん、私たちの取引先も、さらにその先の顧客がいるため、情だけではどうにもなりません。そのため、自社の取引先と共闘するつもりで、その先の顧客に納得いただけるような資料をつくっています。

 具体的には、レターに根拠となるデータはすべて掲載し、そのまま説明資料として使っていただけるような工夫をしました。

 もちろん、すべての交渉が成功しているわけではありません。業界歴が長い方ほど、半導体部品の価格は下がっていくという常識を持っているため、お叱りを受けることも少なくありません。

 正直なところ、数ヵ月おきにしか価格を改定できないと言われ、価格改定時期まで以前の価格のままで泣いている製品もあります。価格交渉して先方の機嫌を損ねてしまうと、注文分の出荷が遅れることもあります。

 そのため、繰り返しにはなりますが、ひたすら懇切丁寧に説明し、理解いただくしかありません。

 値上げの交渉に踏み切ったきっかけは、取引先の担当者から「電力・原材料高騰に関する値上げの希望があれば言ってください」と声を掛けて頂いたことでした。じゃあ、ちょっと相談してみようと社内で検討がスタートしました。

 半年ほど話し合い、電力高騰分が認められました。労務費は後ほど説明する事情で上乗せできませんでした。

 まず、プラスチック製品の内訳をおおまかに説明すると、材料費、加工費、運送費、管理費という構成になっており、材料費が半分以上です。

プラスチック製品のコスト内訳のイメージ
プラスチック製品のコスト内訳のイメージ

 加工費については、製品ごとに、生産時間(1個あたり何秒でつくれるか)とマシンレート(1秒あたりの機械の稼働費用)がメーカーとの取り決めで、メニュー表のように決まっています。

 今回、単価を上げるには、マシンレートを変えるしかないというのが交渉の肝でした。ただし、ここで困ったことになったのです。

 マシンレートは動力費、人件費、減価償却費、メンテナンス費、修理費用などが含まれています。長年マシンレートにもとづいて、受注金額を決めていたのですが、レートの根拠資料が社内を探してもどこにもないのです。すごく昔にメーカーと決めたらしいという情報しかないというのが出発点でした。

 そんななか、電気代や人件費の上昇分をどのようにレートに反映させればよいか、悩みました。

 そこで、実際にかかっている時間や費用をすべて計算することにしました。大きく分けて①動力費、②人件費、③そのほかに分類し、各機械の稼働時間から再計算しました。

 この数字をもとに、電力費が過去から現在まで何%上がったかを示せれば値上げ可能ではないかと考えました。交渉のポイントは3つです。

  • いつを基準に「電力費上昇率」を算出するか
  • その根拠を出せるか
  • 原価構造を取引先にどこまで公開するか

 電力費上昇分はレートの基準年が分からないので過去数年分の平均値と2022年を比較して算出。電力費用の各機械の稼働時間、1秒あたりの電力費を出せば算出できるだろうと考えました。

 マシンレートの中身については、原価構造を明かすことになるため、公開したくなかったのですが、値上げ交渉をするために、レートに含まれる費用それぞれの割合を提示しました。

 本当は、人件費も反映させたかったのです。なぜなら、マシンレートは人件費の割合も大きいからです。

最低賃金の全国平均の推移
最低賃金の全国平均の推移

 しかし、人件費上昇分を反映させると単価の上り幅が大きすぎて、「いくらなんでもこれでは交渉は難しいのではないか」と考えました。具体的には内製化や転注を心配しました。正直なところ、競合他社がどう交渉しているのかもよく見えなかったのです。

(編集部注:公正取引委員会が2023年11月に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表しており、状況は少しずつですが変わりつつあります)

 価格交渉について、取引先に聞いたところ「言ってきているところもあれば、言ってきていないところもある」という回答でした。本当に探り探りでした。動力費でさえ、他社より高いのかどうかびくびくしながら出すような感じでした。

 結局、価格交渉は電力費だけに絞り「人件費は我々の企業努力で吸収します」という形で交渉しました。その結果、電力高騰分を認めていただいたという形になります。

 プラスチック製品は、取り扱う種類がとても多いので、取引先にもご負担をかけました。

 弊社は廃棄物の収集と運搬を業務としています。

 普段から、取引先からは環境にやさしい処分方法について相談を受けたり、産業廃棄物の処理を委託する場合に必要となる電子マニフェストについて助言したりと価格交渉しやすい良好な関係は築けています。

家庭系と事業系の一般廃棄物の流れ
家庭系と事業系の一般廃棄物の流れ

 ただし、ごみの収集運搬費用と焼却処理・埋立費用を含む事業系一般廃棄物は、自治体が価格の上限を定めています。

 人件費などは上がる一方なのに、ごみ処理料金の上限はもう何年も変わっていません。何を根拠に単価が決められているかも不明瞭で、頭を悩ませています。

 業界団体として陳情していますが、地元議会の了承も必要となりそうで、簡単に認められる状況ではなく、ほかの企業も含めて、いつまで事業を続けられるのかという状況です。

 自治体は廃棄物処理法にもとづき、自治体ごとに一般廃棄物処理計画が定められています。国がイニシアチブを取りづらい分野でもあるので、自治体との話し合いが欠かせません。ほかの地域でも同じように頭を悩ませている事業者はいるのではないでしょうか。

 各社の取り組みについて紹介が終わったところで、価格交渉の話はさらに自社の価値をどう高めるかという議論へも発展していきます。

 ひとくくりに「中小企業」といっても、受注側の立場もありますし、二次、三次の外注先を抱えている企業もあります。

 ある参加者は「外注先でも後継者がいなかったりして、廃業が増えています。これまでと同じ価格では受けてくれる企業がいなくなる一方、どんどん価格が上がってしまうと、サプライチェーン全体が再び海外移管してしまい、国内に仕事が残らなくなるのではないかという危機感を持っています。だからこそ、付加価値を出さなければいけないと考えています」と話します。

 ただし、製造業でいえば、図面通りに作るだけでは、付加価値があるとは認められにくく、製品でしかお客さんとのつながりがみえない関係だと差別化が難しいという意見もあり「うちにしかできないことを探りたいです」という声も出ました。

 これに対し、ほかの参加者は「コミュニケーションのところで、差別化してはどうでしょうか。また、能登半島地震でも明らかになったように、今後は大きな災害に見舞われたときでも事業継続できることが付加価値になると思います。BCP(事業継続計画)づくりなどに取り組んで、取引先にもきちんと伝えることが大切かもしれません」と話しました。