発注元が注力する中小企業との関係構築 価格交渉は「算出根拠示して」
中小企業が価格交渉をするときの窓口となる発注元企業の担当者は、取引先との関係構築や価格交渉についてどのように考えているのでしょうか。中小企業庁のパートナーシップ構築宣言をして、取引先と共存共栄の関係構築に取り組んでいる企業のなかから、素材メーカー「ADEKA」(本社:東京都荒川区)と自動車大手「SUBARU」(本社:東京都渋谷区)の担当者に聞きました。
中小企業が価格交渉をするときの窓口となる発注元企業の担当者は、取引先との関係構築や価格交渉についてどのように考えているのでしょうか。中小企業庁のパートナーシップ構築宣言をして、取引先と共存共栄の関係構築に取り組んでいる企業のなかから、素材メーカー「ADEKA」(本社:東京都荒川区)と自動車大手「SUBARU」(本社:東京都渋谷区)の担当者に聞きました。
ADEKAでは、取引先と定期的に製造を委託する取引先と業務上の安全について学び合う「安全交流会」を少しずつ始めています。
自社の課題や安全に向けての対応策についてお互いに発表し合うほか、ADEKAの工場を取引先に公開し、トラブルが起きにくい仕組みを実際に見てもらう「プラントツアー」も好評だといいます。
ADEKAが製造する製品の原材料・サービス・設備などの調達を担っている購買・物流部の製品グループリーダー池田さんは「見せられるところはすべて公開しています。単なる受発注だけではない、信頼関係を築くうえで大切な取り組みとなっています」と話しています。
取引先に対し、発注元という立場で無理な値引きを強く迫る企業は、今なお課題となっています。公正取引委員会や経済産業省は、下請法に違反する行為をする企業や、取引先との価格交渉に後ろ向きな企業の公表を続けています。
これに対し、ADEKAは2019年から購買基本方針と購買ガイドラインを公式サイト上で公表しており「発注者としての優越的地位を濫用して、お取引先に不当に不利益を与える行為を行いません」などと宣言しています。
ADEKAが取引先との関係づくりに注力しているきっかけの一つに、取引先の経営者から急に「取引を停止させてもらえないか」と告げられたことがありました。
購買・物流部の製品グループ専任課長、八森さんたちがすぐに説得に向かいました。
ADEKAは、この会社しか作れない製品の製造を委託していたのですが、この経営者はそのことを知りませんでした。
普段からコミュニケーションが取れている取引先だと受け止めていたのに、このとき初めて「うちが作らなくなっても、ほかの会社に簡単に切り替えられるだろう」と思われていたことを知ります。八森さんたちは大切な取引先であることを説明し、納得してもらった上で、いまも取引を継続しているといいます。
こうした経験を踏まえて、どんな課題を抱えているのか、普段から小さなことでも話しやすい雰囲気づくりに努めているといいます。池田さんは「私たちの仕事は、良いモノ(原材料、素材等)を、安定的に、安く入手することですが、このなかでとくに大切なことは、安定的に入手することなのです」と話します。
ただし、ADEKAとしては、自社の顧客に対して、少しでも良いものを安く提供する必要もあります。そのため、物流・購買部は取引先との間で板挟みになることもあります。
「購買・物流部は、取引先に向けて価格協議の積極的な声掛けをしています。価格交渉をするなかで、力になりたいと思うこともあるのですが、十分な根拠なしには認められないことも知っていただきたいのです」
心配しているのが、明確な根拠のない値上げ交渉になってしまうことや、原材料やエネルギー価格が下落したときに値戻しに応じてもらえない状況に陥ることです。
八森さんは「価格交渉において、値上げをする必要がある場合は、原材料なのか人件費なのか価格の改定対象となる項目を明確にしてくださいとお願いしています。また、どこを起点に、いくら上がったのかもわかると話し合いが進めやすいでしょう」と話しています。
クルマ業界は、従来のガソリン車のモノづくりを継続しつつ、電気自動車(EV)へのシフトにも同時並行で対応せざるを得ない局面を迎えています。
そのため、Tier1(ティアワン)・Tier2(ティアツー)・Tier3(ティアスリー)…と呼ばれる取引先も含めて、物流の仕組みの再構築、在庫・資材置き場の確保、人員確保に頭を悩ませています。
SUBARU調達統括部は「変化の激しい時代ですから、取引先といっしょに今後のモノづくりを考えていかなくてはなりません」とし、その一環として、困りごと支援や適正な取引に取り組んでいます。
2022年、部門横断的なチームを結成し、取引先の困りごとや生産性低下の要因をヒアリングして解決する取り組みを始めました。
実際に取引先の現場を見に行って、困りごとの原因がSUBARU側にないか、あるとすればどう対応することで、サプライチェーン全体で生産性を高められるかを話し合います。
たとえば、自動車の座席で頭を支える「ヘッドレスト」の樹脂部品。
同じ黒色なのですが、クルマのモデルチェンジごとに少しずつ色味が違っていました。となると、取引先は異なる色味ごとに補修部品の在庫を保管しておかなければならず、さらに色味ごとに材料くずが出ていました。
こうした課題を発見した横断チームは、類似色はすべて同じ色に統一すると決断。材料や在庫のムダを減らすことにつながりました。
ヘッドレストにとどまらず、ほかの部品でも同じようなことが起きていないかを横展開して調べています。
元々、困りごとのヒアリングは、要望があっても言い出せない取引先がいる可能性を考えて始めた取り組みでしたが、当初、懐疑的な雰囲気も出ていたといいます。
コストイノベーション推進部の担当部長相良賢治さんは「成功事例が出てくると、本当にやってくれるんだといろんな提案をいただくようになりました」と話します。
従来、不良品として扱われてきた部品も本当に機能面、安全面、使い勝手などで問題があるのかなどゼロベースで検討しており、すでに千数百件近い意見が寄せられているといいます。
もちろん、すべての取引先と同時に進められないので、少しずつ取り組みを広げている段階だといいます。取り組みは始まったばかりで、生みの苦しみを実感しているといいますが、相良さんは「こうした取り組みの一つひとつがSUBARUチームとしての競争力を高めることにつながるのだと考えています」と前向きにとらえています。
SUBARUも公式サイトで調達基本方針を公表し「私たちは、信義誠実の原則に従った相互信頼の取引関係を基本として、お取引先様とWIN-WINの関係を築いていきます」と宣言しています。
具体的には、価格交渉の場合、取引先からの提案にもとづき、為替や原材料価格など客観的なデータを見ながら個別に話し合っていますが、取引先から声を出しにくいことも考えられるので、取引先から要請がない場合でも、SUBARU側から積極的に声をかけるようにしているといいます。
現場までその方針が浸透するよう、取引先と価格交渉機会のある全部署を対象に説明会を開いているほか、調達部門のトップが地域の部品サプライヤーに向けて、自社の取り組みを紹介しています。
取引先にも「申し入れを受けた場合は協議に応じるようSUBARU社内に周知しています。ですので、まずは遠慮なくお声がけをいただきたいと思います。その際、交渉を円滑に進めるため、コスト変動の算定根拠のご提示をお願いしたいと思います」と依頼しているといいます。
部品調達の支援チームである調達統括部業務課長の上田昭治さんは、取引先とはイコールパートナーシップだとして、次のように締めくくりました。
「クルマは数万点の部品で構成されており、それが一つ欠けても作れません。そのため、モノづくりを支えてくれている取引先とは対等な立場なのです。それが私たちの考え方のベースです」
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