目次

  1. 地域のニーズを一手に担う
  2. 「伝統食品を残したい」と決意
  3. 知識と科学的根拠で変えた慣習
  4. コロナ禍が経営に痛手
  5. 食べられる「万能糀」を開発
  6. 妻が仕掛けるインスタと料理教室
  7. 土台を作った先祖がいたからこそ

 庄下糀屋は熊野灘に面する南伊勢町の山間部の押渕集落にあります。古くから稲作や林業が盛んな地域で、かつては男性が農業や林業を担い、女性は家で糀を作って自家製のみそを仕込んできました。

 庄下家の糀やみそが地域内に広がり、もうじき90歳になる庄下さんの祖母が嫁いだときには、糀づくりが家業でした。5代目の庄下さんは「創業年ははっきりしませんが、この地で100年以上、糀を作ってきたみたいです。祖母が3代目になります」と話します。

庄下糀屋の倉庫。この奥の建物に糀室やみその貯蔵庫があります(庄下糀屋提供)

 糀(麹)とは、蒸した米、大豆、麦などの穀物にコウジカビをつけて繁殖させたもので、みそや甘酒、しょうゆ、清酒などの発酵食品をつくるのに欠かせません。

 庄下糀屋は、庄下さんが父親と田んぼで米を育て、母親らとその米から糀を作り出しています。妻の千種さんも糀料理教室を開いて商品の認知を広げる家族経営です。自社の田んぼは約4ヘクタール、糀やもち、あられなどに加工する米は年間6トンを使用。みそに使用する大豆は年間3.6トンを仕入れています。多い日で1日に60キロのみそ樽を4個、約240キロほど仕込みます。

糀の原料となる米づくりから手がけています(庄下糀屋提供)

 「うちの強みは、米づくりから手がけていることです。品種はコシヒカリで、特別な栽培方法ではないですが、糀にすることを念頭に育てています。4月後半からゴールデンウィークまで田植えを行い、お盆過ぎに収穫。新米を使って冬にかけて糀をつくり、みそを仕込むサイクルです。祖父母の時代は糀を持って峠を越え、隣町まで売りに行っていたと聞きました」

 全国的に糀屋は減っており、庄下糀屋は町唯一の糀屋として、地域のニーズを一手に背負っています。直売に加え、地元南伊勢町を中心に伊勢市エリアのスーパーや産直売り場、道の駅などに卸しています。

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