目次

  1. 建築物省エネ法とは カーボンニュートラル実現へ
  2. 2025年4月施行の建築物省エネ法改正の概要
    1. 省エネ基準適合義務制度で対象となる建築物
    2. 増改築の場合も対象
    3. 適合性判定の手続き・審査の変更点
  3. 住宅・建築物分野の今後の省エネ対策
  4. 詳しい解説資料は国交省の公式サイトへ

 国交省の特設サイトによると、建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)とは、建築物のエネルギー消費性能の向上を図るため、建築物のエネルギー消費性能基準への適合義務などを設けた法律です。

 法律制定の背景には、建築物分野が日本のエネルギー消費量の約3割を占めている事情があります。2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)の実現に向けては、住宅の省エネが欠かせません。

 新築建築物の省エネ基準適合率は2022年度の住宅で、約85%でした。法改正でこれをさらに引き上げる目的があります。

住宅 適合率 非住宅 適合率
全体 85.3% 全体 98.9%
大規模 85.7% 大規模 適合義務
中規模 77.6% 中規模 適合義務
小規模 89.1% 小規模 88.1%

 2022年6月に公布された改正建築物省エネ法は、複数の改正点がありますが、事業者の準備などもあり、施行日は分かれています。

  • 住宅トップランナー制度の拡充(2023年度)
  • エネルギー消費性能の表示制度(2024年度)
  • 建築物再生可能エネルギー利用促進区域(2024年度)
  • 省エネ基準適合義務の対象拡大(2025年度)
  • 適合性判定の手続き・審査(2025年度)
改正建築物省エネ法による省エネ対策
改正建築物省エネ法による省エネ対策(国交省の資料から https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf)

 今回は省エネ基準適合義務の対象拡大と、適合性判定の手続き・審査について紹介します。

 2025年4月施行の改正建築物省エネ法のポイントは以下の3点です。

  1. 基準適合義務の対象が、小規模非住宅、住宅にも拡大される。ただし、エネルギー消費性能に及ぼす影響が少ないものとして政令で定める規模(10㎡を想定)以下のものを除く
  2. 増改築を行う場合の省エネ基準適合を求める範囲が見直す。これまでは増改築後の建築物の全体が対象だったが、改正後は、省エネ基準適合を求められるのは増改築を行う部分のみになる。
  3. 届出義務については、基準適合義務の拡大に伴い、廃止

 法改正で原則、すべての住宅・建築物を新築・増改築するときに、省エネ基準への適合が義務付けられます。これまでからの変更点は以下の通りです。

省エネ基準適合義務制度の対象
省エネ基準適合義務制度の対象(国交省の資料から https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf)

 逆に、以下の建築物は適用除外となる予定です。

  • 10㎡以下の新築・増改築
  • 居室を有しないまたは高い開放性を有することで空気調和設備を設ける必要がないもの
  • 歴史的建造物、文化財等
  • 応急仮設建築物、仮設建築物、仮設興行場など

 上記のうち、「空気調和設備を設ける必要がないもの」とは、自動車車庫、自転車駐車場、畜舎、堆肥舎、公共用歩廊、観覧場、スケート場、水泳場、スポーツの練習場、神社、寺院などが当てはまります。

 省エネ基準適合義務制度は2025年4月以降に工事に着手する建築物が対象です。このため、2025年4月以降に工事着手が見込まれる場合は、法施行前から省エネ基準に適合した設計としておくことが必要です。

省エネ基準適合義務制度の適用開始時期
省エネ基準適合義務制度の適用開始時期(国交省の資料から https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf)

 省エネ基準適合義務制度は、増改築をする場合も対象で、従来の制度とは違い、増改築を行う部分が省エネ基準に適合する必要があります。「増改築」には、修繕・模様替え(いわゆるリフォーム)は含まれません。

省エネ基準適合義務制度(増改築の場合の対象)
省エネ基準適合義務制度(増改築の場合の対象)国交省の資料から(https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf)

 ただし、2025年3月以前に着手する増改築で、これまでの制度で義務付け対象となる場合は、既存部分を含めた建築物全体で省エネ基準適合が必要です。

 法改正で、適合義務対象がすべての建築物に拡大されることから、対象件数が大幅に増加し、申請側・審査側ともに負担が重くなります。さらに、省エネ基準には、計算によらず基準への適合性を確認できる「仕様基準」が定められていることなども踏まえて手続き・審査を簡素かつ合理的なものとする予定です。

省エネ基準適合義務制度の適用開始時期
省エネ基準適合義務制度の適用開始時期(国交省の資料から https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf)

 省エネ基準への適合性審査を不要とする建築物は以下の通りです。

  • 建築確認の対象外の建築物…都市計画区域・準都市計画区域の外の建築物(平屋かつ200㎡以下)
  • 建築基準法における審査・検査省略の対象である建築物…都市計画区域・準都市計画区域の内の建築物(平屋かつ200㎡以下)で、建築士が設計・工事監理を行った建築物

 このほか、省エネ基準への適合性審査が容易な建築物の省エネ適判手続きが省略されます。省エネ適合性判定が必要な場合と、判定を要しない場合の審査の流れは以下の通りです。

省エネ適合性判定が必要な場合
省エネ適合性判定が必要な場合(国交省の公式サイトから https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/02.html)
省エネ適合性判定が必要ない場合
省エネ適合性判定が必要な場合(国交省の公式サイトから https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/02.html)

 住宅・建築物分野の省エネ対策は今後も続きます。具体的には、2025年度の省エネ基準適合義務付けの後、遅くとも2030年までに、省エネ基準をZEH・ZEB水準まで引上げ予定です。

住宅・建築物分野の今後の省エネ対策
住宅・建築物分野の今後の省エネ対策(国交省の資料から https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf)

 申請・審査マニュアルなどさらに詳しい解説資料は、国交省の公式サイトに掲載されています。