トランジションの意味とは ビジネスにおいて重要な理由と促進する方法を解説
トランジションとは何かという関心が高まっています。トランジションは誰もが経験するものであるため、事前の知識や備えが重要です。この記事では、組織開発の専門家がトランジションの意味を幅広い視点から解説し、ビジネスにおけるトランジションの捉え方、乗り越えるポイントを紹介します。
トランジションとは何かという関心が高まっています。トランジションは誰もが経験するものであるため、事前の知識や備えが重要です。この記事では、組織開発の専門家がトランジションの意味を幅広い視点から解説し、ビジネスにおけるトランジションの捉え方、乗り越えるポイントを紹介します。
目次
トランジション(transition)とは、「移り変わり」「移行」という意味を持つ言葉です。移行の意味は、二つあります。「外的環境の状況変化」と「心理的な変化」の二つの視点です。例えば、キャリア転換による苦悩や未来への期待などが挙げられます。
本稿では、外的環境の変化にともなう「心理的な変化」に注目して解説していきます。
ビジネスにおける「トランジション」とは、目まぐるしく変化する外的環境に適応していくための組織変化のことです。そして組織の変化には、必ず従業員のキャリアトランジションが生じます。
このキャリアトランジションには、組織成長にともなう内面の変化(個人の適応と成長過程全ての変化プロセス)を含んでいます。この「トランジション」の概念は、アメリカのコンサルタント ウィリアム・ブリッジズ氏によって提唱されました。
キャリアにおけるトランジションの例 |
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・プロジェクトメンバーからマネジメント層への昇進 ・新人からスペシャリストへの転換 ・会社員からフリーランスへの転身 ・別業務へのキャリアチェンジ ・学生から社会人への移行 ・別組織への転職 ・配置転換 |
ビジネス以外のトランジションには、個人や社会におけるさまざまな変化や移行が含まれます。具体的な事例としては、以下のようなものが挙げられます。
家族の生活ステージのトランジション |
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結婚、出産、子供の成長など、家族生活における段階の変化を指します。これには、生活スタイルの変更、家庭内の役割分担の再調整、新しい責任の受け入れなどが含まれます |
スポーツにおけるトランジション |
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ポジションの変化や攻守の移り変わりを指す言葉として、サッカーやバスケなどで使われます。ほかにも、選手がチームを移籍する場合や引退する場合など、競技者のキャリアにおける段階の変化もトランジションに含まれます。また、引退後のキャリアの再構築や、スポーツとの関わり方の変化もトランジションの一部です |
健康や医療におけるトランジション |
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病気や障害、リハビリテーションなど、健康状態の変化に伴う移行プロセスを指します。これには、治療計画の変更、身体的・精神的な適応、新しい生活様式の確立などが含まれます |
トランジションには、「終焉」「混乱や苦悩」「新しい始まり」の三つの段階があります。ここでは、特にビジネスのトランジションに置き換えて紹介していきます。
どの段階も、先行する段階が完全に終わりを迎える前にスタートを切ります。そのため、複数の段階が並行して起こる可能性があることや、トランジションのプロセスがある段階から次の段階への完全な移行によってではなく、その時々の変化に影響をうけて生じることも忘れてはいけません。
すべてのトランジションは「終わり」から始まります。第一の段階「終わり」は、新しい環境や役職や職務への転換といった、新たな業務に取り組み始める段階を指します。これは、新しい挑戦や責任を受け入れる意欲が高まり、自らの能力を発揮し、成果を上げるための準備が整った段階です。
人によっては、慣れ親しんだ環境や行動が変わることで、アイデンティティの喪失を経験するでしょう。一方で、新しいキャリアが始まると同時に、成長と展望の可能性が広がる時期ともいえます。
トランジションの第一の段階「終わり」に該当するタイミング |
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キャリアの始まりや再出発、新しい挑戦への取り組みの時期として現れます。新しい職場での初めての仕事やプロジェクト、あるいは新しい業界や分野への参入などが該当します |
第二の段階ニュートラルゾーンは、過去の役職や環境と新しい役職や環境の間の移行期間を指します。この期間では、過去の経験やスキルを活かしつつ、新しい状況に適応しようとする過程があります。
不確実性や緊張感が残るなかで、新しい業務や責任に慣れようとする段階であり、学びと成長が重要な要素となります。人によっては、過去の経験が通用せず自分の存在意義と向き合う辛い時期を経験するでしょう。
トランジションの第二の段階「ニュートラルゾーン」に該当するタイミング |
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過去の役職や業務から新しい役職や業務に移行する過程に該当します。キャリアの中間地点や転職時、あるいは新しい役職への昇進時など、適応期間や調整期間として経験されるのが一般的です |
トランジションの三つ目の段階「始まり」は、変化や移行のプロセスでの内的な変容が完了し、新しい状態に到達した時点を指します。これは、新しい役職や職務に十分に適応し、自信を持って業務を遂行できるようになった段階です。
適応期の終了を示し、新しい役割や環境に対する理解が深まり、安定感が生まれる時期といえます。一方で、人によっては新しい環境で、捉え方や行動を変えざる負えない苦しい葛藤や内的反発を体験するでしょう。
トランジションの第三の段階「始まり」に該当するタイミング |
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キャリアの成長において、より上位のポジションや責任を引き受ける際の移行期間に該当します。たとえば、新しい管理職やリーダーシップのポジションに就く、新たな部門やプロジェクトの責任者になるなど、キャリアの段階が進む過程で発生します |
ビジネスにおいてトランジションが重要な理由やメリットは多岐にわたりますが、そのなかでも特に人材育成には大きな影響を与えます。
成長し続ける強い組織作りに欠かせないのは「人」です。必要人材の獲得と定着、成長への変容支援においてトランジションを意識した取り組みは、不可欠です。
ここからは、トランジションが重要な理由を解説していきます。
人手不足による倒産が過去最多を更新しています(参照:人手不足倒産の動向調査〈2023年〉|帝国データバンク)。
仕事はあるのに労働力が不足する、というケースは少なくありません。高いコストをかけて採用した人材の定着には、トランジションの考えを加味した支援・育成体制が不可欠です。
トランジションの3段階を上手に乗り越えていくことで、社員のモチベーションとエンゲージメントを向上させていくことができます。
テクノロジーの進化や市場のニーズ変化など、外部環境の変化に迅速かつ適切に対応するためには、従業員の役割や業務の迅速な配置転換が伴います。環境変化への対応は、個人レベルでも求められます。
組織は社員のトランジションに対して、適切な教育やトレーニングを提供する必要があります。
トランジションの考えを上手に取り入れることで、より適切に人材を配置し、競争力を維持・向上させることができます。
トランジションを上手に乗り越えていく従業員たちは、競争力のある市場で組織の地位を強化するための鍵となります。
変化の激しい環境に適応するために、いかにはやくトランジションを通過できるかは組織の成長に大きな影響を及ぼします。トランジションをスピーディに促進させるためのポイントをご紹介します。
トランジションを促進する方法 |
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・トランジション期間を意図的に管理する |
以下で詳しく解説します。
本人と健全な組織運営のためにも、トランジションの短期化(成長の加速)が重要です。社員のキャリアの転換期が訪れたときは、成り行き任せにせず、意図的に適応をサポートしてあげましょう。
トランジションの期間を管理するためには、その段階にあると自覚するところから始めることが大切です。今までと違う期待や環境に身を置いているという自覚は、変化を受け入れやすくする効果があります。
コンピテンシーとは「行動特性(個々人の行動パターンや思考傾向)」のことです。トランジションを考慮しながら、最終的な望ましい行動特性を言語化することで、対象者の現在値を明確にきます。
例えば、新たな段階を迎えると、今までと同じ意識やふるまいが通用しないことに直面します。そのようなときは、過去に捉われず、今とこれからに目を向けることが大切です。
今までの延長線上ではなく、新しい視点で変化と成長を実現していきましょう。変えるべき意識と行動、「止めること」と「新たな伸びしろ」を整理していく必要があります。
トランジションを促進するポイントとして、仕事の体験と同時に大切なことが周囲との関わりです。トランジションの転換を乗り越えることは、容易ではありません。無自覚に今までのやり方を続けようとしたり、諦めたりしてしまう人もいます。
そんなときは、意図的に新しい体験に向き合わせることが大切です。そして、渦中の対象者が「頑張ろう」と思えるように、周囲が気を配りながら支えていきましょう。
トランジションを円滑にすすめていくために取り組むべきポイントや役立つ方法をいくつかご紹介します。
新しいことを導入する際の現場や当事者の反発を軽減するには、事前の情報収集や情報共有が大切です。
組織にトランジションの考えを導入するタイミングは、まさに組織全体が「終わり」の段階に入り新しいことを受け入れるタイミングです。トランジションにうまく対応できる体制が整っていなければ、導入自体が組織の成長を阻むことにもなりかねません。
以下のチェックリストを活用して準備を整えていきましょう。
トランジションを導入する前の準備チェックリスト |
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□組織にも個人にも変化が不可欠であり、変化が生じることが当たり前であるという意識づけはできていますか □社員のトランジションに対する計画は、十分に検討されたものですか □トランジションの各段階に対応できる適切なサポートやトレーニングは計画されていますか □将来の明確なビジョンへの一環であること目的と役割は明確に伝える準備はできていますか □サポートが必要な周囲の人にトランジションがどのようなものであるかの情報共有はなされていますか □トランジションの進捗状況をモニターできるチェック方法は明確になっていますか |
トランジションは、個人の心理的な変容が求められます。そこには、少なからず心理的負荷が伴うものです。トランジションプロセスでもっとも顕著に表れる、ネガティブな感情を理解しておきましょう。
自己防衛 |
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無意識に起こる心理的な反応です。受け入れがたい現状や感情を回避するために生じます。いくつかのパターンがありますが、たとえば、出来ないことに対する罪悪感からの自己卑下、正当化(言い訳)や他者(現状)否定をしてしまうなどがあります |
視野搾取 |
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人は不安定な状況に陥ると、目の前のことにしか意識が向かなくなる傾向があります。手段が目的化してしまったり、自分のことで頭がいっぱいになったりして周囲へ注意がむけられなくなり、チームワークに影響を及ぼしてしまうことがあります |
ストレス |
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うまくいかない状況に対して、憤りや不安を感じやすくなります。不安を原動力にして行動するタイプも稀にいますが、たいていの人は、行動力が鈍くなり、やる気が低下したり、新しいことに否定的になる傾向があります。また、トランジション過程では、病気や事故の発生率が高くなることも示されています |
上記にあげた心理的負荷への対応を怠った場合、トランジションをスムーズに促進することが難しくなるだけではなく、離職や求職に至るケースもでてくるでしょう。対象者だけでなく、組織全体で対応できるように環境を整えることを意識してください。
トランジションデザインモデルは、リクルートマネジメントソリューションズが行った調査研究の結果をまとめたモデルで、従業員のキャリアステージとそれに応じた育成方法を体系化したものです。
このモデルは、新入社員から経営層までの10のステージに分け、各ステージで期待される役割、意識の変化、必要なスキル、経験、キャリアの課題を明確にしています。特に、役割の変化期におけるギャップに焦点を当て、従業員が新しいステージへとスムーズに移行し、早期に成果を出せるよう支援することを目的としています。
①一般社員層 | |
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役割ステージ1 | Starter(初心者) |
役割ステージ2 | Player(プレイヤー) |
役割ステージ3 | Main Player(主役) |
役割ステージ4 | Leading Player(リーディングプレイヤー) |
②管理職層 | |
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役割ステージ5 | Manager(マネージャー) |
役割ステージ6 | Director(ディレクター) |
役割ステージ7 | Business Officer(ビジネスオフィサー) |
役割ステージ8 | Corporate Officer(企業役員) |
③スペシャリスト層 | |
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役割ステージ9 | Expert(専門家) |
役割ステージ10 | Professional(プロフェッショナル) |
トランジションデザインモデルは、社員のキャリアパスや育成体系を構築するのに役立ちます。経験した役割ステージ1~4を通過すると、次の管理職層や専門職層に進むことになります。また、管理職層だけでなく、個人の特性を考慮した評価制度の設計にも、このモデルが参考にされています。
組織は、常に変化にさらされています。そんな環境下では、トランジションは人にも組織においても常態化しているといえます。トランジションを意識的に取り組むことで、人と組織が好ましい成果を手に入れることができます。
組織全体でトランジションの段階を理解し、心理的変容を乗り越えられる体制を整えていきましょう。どんな環境下でも成長し続けることができる強い組織づくりを応援しています。
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