目次

  1. 目的と目標の違いとは
    1. 目的とは
    2. 目標とは
    3. 目的と目標の違いがわかる具体例
  2. 目的と目標の違いを理解する重要性
    1. 目的が明確でないと効果的な方法も手段もわからない
    2. 目標が明確でないと効果があったかどうかわからない
    3. 目的と目標を混同すると目指す未来が見えなくなる
  3. 目的を設定する五つのステップ
    1. 会社の事業活動の目的と方向性を確認する
    2. 組織が担うべき要件を考える
    3. 要件のレベルとタイムラインを把握する
    4. 何のために活動を行うのか(目的)を言語化する
    5. 目的と会社の方向性とのベクトルが一致しているか確認する
  4. 目標を設定する三つのステップ
    1. 言語化した目的を実行可能な行動単位に分割する
    2. 測定可能な目標と期限を仮設定する
    3. 「SMART法則」に当てはめて目的達成に必須の目標のみに絞る
  5. 目標と目的を設定するときの注意点
    1. 組織の現状を正しく把握したうえで設定する
    2. 手段は現場に応じて複数の選択肢を考える
    3. 全体最適と部分最適に配慮しつつ、優先順位を定期的に見直す
  6. 目的と目標の違いを理解して組織の生産性向上を図る

 「目的」と「目標」は、どちらもビジネスではよく使われる言葉であり、仕事上の会話の中ではつい同じ意味で使われていることもあります。しかし、実際には両者には明確な違いがあります。

 端的にいえば、目的は「目指すべき到達点」であり、目標は「目的達成に向けた指標」です。企業の事業活動に効果的に両者を使い分けるには、それぞれの意味を理解した上で設定することが重要です。

 広辞苑によると、「目的」とは「何かを成し遂げようと目指す事柄」を意味し、「最終的に目指す到達点」のことを指します。企業ビジネスにおける「目的」は、事業や業務を何のために行うのかに対する答えであり、経営理念やビジョンの形で示されることもあります。

 同じく広辞苑によると、「目標」とは「目的を達成するために設けた目当て」を意味し、「目的を達成するための指標」のことを指します。企業ビジネスにおける「目標」は、事業や業務の目的の達成に向けて設定される指標やマイルスストーンとして示すことができます。

 「目的」とは、何のためにその事業や業務を行うのかという問いに対して「〇〇のために行う事業または業務である」というように、どちらかといえば抽象度の高い事柄で示されることが多い言葉です。一方、「目標」は定義された目的を達するまでの過程で対処または解決していくべき目印やポイントとして具体性の高い事柄を指します。

 例えば、多くの企業で実施されている人材育成について考えてみましょう。

目的と目標の違い
目的 新規顧客獲得
目標 1.有効なアプローチ方法を上司や先輩から学ぶ
2.学んだアプローチを実践して新規顧客獲得の具体的なスキルを身につける(複数スキル必要な場合は繰り返す)
3.上司・先輩が設定したスキル要件を満たす有効なアプローチの実践方法を修得する
4.新規顧客獲得と期限の数値ターゲットを設定する
5.途中数値やアプローチを見直しながら目的を達するまで実践を繰り返す

 一方で、目的が違うと目標も変わってきます。

目的と目標の違い
目的 既存顧客からの売上額増加
目標 1.売上額増加につながった実績と、つながる可能性のある方法を上司・先輩・同僚の意見も聴きながらリストアップする
2.既存顧客それぞれに有効な方法を個別に考え優先順位をつける
3.顧客ごとに、ターゲットとする売上増加額と実践する方法と期限を決める
4.顧客ごとに有効な方法を試しながら目的を達成するまで実践を繰り返す

 このように、なぜ人材を育成するのかという目的が明確に定義されていれば、その目的を達成するまでの道筋に、適切な目標を設定することができます。また、それぞれの目的が達せられたかどうかを評価できる物差しも異なるはずです。

 目的を明確にすることによって、その達成のために必要な目標を設定しやすくなり、おのずとその目標に向けた具体策と手段も、より現実的な視点での検討が可能となります。

 では、目的と目標の違いを理解できずに混同してしまうと、どのようなことが起きてしまうのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

 目的が明確でないとどうなるでしょうか。例えば、人材育成の目的が明確でないとしたら、どのような方法で人材を育成すればよいかわかりません。なぜなら、目的がはっきりしていないと、望む結果を出すために必要な育成方法や手段を決めることができないからです。

 次に、目的は明確だが目標ははっきり示されていないという場合はどうでしょうか。例えば、人材育成のための策をいくつか実施してはいるものの、果たしてその成果が出ているのか、確実に目的達成に近づいているのかを正しく判断できないかもしれません。

 目標という目印(基準)がないため、目的に向かって適切な取り組みが実践できているのかを確認することができないからです。

 このように、目的と目標をきちんと区別して設定しないと、組織の事業活動は迷走してしまいかねません。また、目的が曖昧なまま目標だけを設定した場合、目標を達することだけが目的化する状況に陥ってしまう恐れもあります。

 そうなれば、本来組織が目指すべき未来の状況が見えなくなり、何のために目標を設定しているのかわからなくなってしまうでしょう。そのような状態は、無駄に目標を達成しているともいえ、組織の生産性を低下させる恐れがあります。

 目的と目標を設定する際は、先に目的を決めてから目標を設定します。目的を設定する具体的な手順は、以下のとおりです。

1.会社の事業活動の目的と方向性を確認する
2.担うべき要件を考える
3.要件のレベルとタイムラインを把握する
4.何のために活動を行うのか(目的)を言語化する
5.目的と会社の方向性とのベクトルが一致しているか確認する

 例えば、会社の次年度の活動方針として「国際競争力の向上と利益増加」が挙げられているとした場合、仮に人事部の目的と目標を設定するとしたらどうするかを考えながら解説します。

 会社組織である以上、どんな部所でも所属組織の目的は、会社の経営上の目的、つまり事業活動の目的との方向性が一致している必要があります。したがって、自分の所属部署から上の階層にある部署の事業目的を、改めて確認しておくことが最初のステップとなります。

 最初の段階で上部組織の目的を認識しておけば、以降に所属組織の目的の変更や見直しをする際も、会社の事業活動全体の方向に沿って行うことができます。

 上位目的を踏まえて、組織としてどのような要件を担う必要があるか、考えられる要件の候補を列挙します。

 先ほどの例では、「国際競争力の向上と利益増加」という会社の活動方針が、上部組織の目的にあたります。それに対し、人事部の役割としては、社員教育や新卒や中途の採用計画のなかで、特に国際競争力の戦力となる人材の育成と採用を計画的に実践することが考えられます。

 次に、それらの役割や要件を満たすための活動は、どのようなレベルと時間軸のなかでの成果を挙げる必要があるかを把握します。

 人事部の例でいえば、「何年以内に現地で海外事業の責任者となれる人材を何人育成する・成果を挙げる必要があるか」を把握するというイメージです。その際、適材者に必要な語学力や管理能力、調整能力、専門的知識と経験など、具体的なスキルや経験を可能な限り明確にすることが大切です。

 また、国際競争力とは具体的にどのような競争力を指し、どのようなスキルや経験によって身につけることができるのか、求められる要件を、人事部だけではなく対象部署の管理者の意見を丁寧に聴くようにします。

 組織が担うべき要件として挙がった候補について、それぞれ内容を改めて検討します。先ほどの例でいえば、それが人事部でなければできない活動、または人事部だからこそできる活動かどうか、という視点で検討します。

 検討の結果を踏まえ、要件の候補のなかから「人事部はこのために活動する」というに値すると思われる目的を言語化し、仮決めします。

 仮決めした目的が、上部組織の目的(会社の活動方針やミッション、ミッション)との方向性とで、ベクトルが一致しているかを確認します。

 最初のステップで人事部(所属部署)の目的を仮決めする際、上部組織の目的を認識しておく必要があることを示しましたが、その認識がずれることなく目的設定ができたかどうかを最後のステップで確認します。

 目的が明確になったら、目標を設定します。目標を設定する手順は、以下のとおりです。

1.言語化した目的を実行可能な行動単位に分割する
2.測定可能な目標と期限を仮設定する
3.「SMART法則」に当てはめて目的達成に必須の目標のみに絞る

 それぞれ詳しく解説します。

 言語化した目的を設定できたら、次は目標設定です。まだ抽象的なレベルにとどまっている目的を、目標として達成可能でわかりやすい単位に分割するのが目標設定の最初のステップです。

 目標を達成可能でわかりやすい単位に分割するとは、目的に向かって取り組む日々の行動を細分化して、あらかじめ基準値(回数、点数、時間数など)を割り当てることを指します。

 人事部の例でいえば、特定のスキルの実践回数や検定試験などの点数、研修やオンライン学習、OJT/OFF-JTに取り組んだ時間数などが該当します。それらの小さな業務上の行動を繰り返すことで、ある基準となる数値や基準値に達する「目標点」が測定可能な目標となります。

 目標設定は、目的の達成にたどり着くまでにクリアすべき「目標点」を、必要な期限までに必要な数だけ設定することで成立します。各目標には、クリアできたかどうかが判断できる基準値と期限を仮設定しましょう。このとき、測定可能な基準を設定することが重要です。

 例えば、目標の一つとして「6カ月以内に国際競争力のある人材を10人採用する」と設定するとします。この場合、「国際競争力のある人材」とは、どんな基準で測定するのかを先に定義する必要があります。

 測定可能な基準は、人事部だけの考えで定義できる基準もあれば、経営層や他部署とのすり合わせによって明確にしていく必要がある場合もあるかも知れません。

 目標設定には測定可能な基準が必要ですが、設定した基準が実現可能であることも重要です。

 目標が設定できたら、その目標が適切なものであるか、目標管理の分野ではよく知られている「SMART」の要件に照らして確認してみましょう。

SMART法則
Specific 具体的であるか
Measurable 測定可能か
Relevant 目的に合っているか
Time-bound 期限があるか

 目標設定のための候補となったそれぞれの目標項目に対して、この要件を当てはめてみてどれかが欠けているか確認します。もし不十分な場合は、目標から外すか再定義を検討してください。

 目的と目標を設定するときの注意点を三つ紹介します。

・組織の現状を正しく把握したうえで設定する
・手段は現場に応じて複数の選択肢を考える
・全体最適と部分最適に配慮しつつ、優先順位を定期的に見直す

 それぞれ詳しく見ていきましょう。

 目的と目標はどちらも未来志向で設定するものであるため、視線が足元ではなく遠くに行きがちですが、目的もその達成の道筋となる目標も、組織の現状を正しく把握できているからこそ成り立つものです。

 各部署の抱えている課題は何か、一方利用可能なリソース何か、それらの状況を把握できていなければ、部署の目的も目標も正しく設定することはできません。

 目標達成に取り組むための手段は一つではありません。例えば、現場や担当者によって何が適切な手段かという判断がわかれることも考えられます。

 目標に向けて業務の中で実践する手段は、従来の手法に限定せず、実践を担当する現場にとって何が最適かという視点を持ちましょう。あらかじめ複数の選択肢を考えておくことで、困難と思える目標や目的に対しても新しい手段や方法見つかる可能性があります。

 上位目的に合わせて担当部署の目的を設定した場合でも、時間の経過や事業環境の変化に応じて、各部署で設定された目的や目標の間で想定外の矛盾や衝突などが生じることも考えられます。

 各部署で設定した目的や目標は、組織全体の最適化と部署内の最適化のバランスや優先順位の面で、定期的な見直しが必要となることもあります。あらかじめその必要性を考えて、見直しの機会を数カ月ごとに予定しておくとよいでしょう。

 どんなに小さな組織でも、「組織が何のために存在し、日々の業務を行うのか」という目的を従業員一人ひとりが理解しているかどうかで、組織の生産性とモチベーションの持ち方に大きく変わってきます。

 目的も目標も、その組織に合った設定を行なうことができれば、各部署のチームパフォーマンスの向上に効果を発揮する大きな可能性があるでしょう。

 この記事を参考に、目的と目標の違いを把握して設定と達成に向けて取り組んでみてはいかがでしょうか。