ガイナックスが破産「旧経営陣が多額の負債」 管理作品の運用は今後告知
杉本崇
(最終更新:)
アニメ制作会社「ガイナックス(GAINAX)」は2024年6月7日、公式サイト上で東京地方裁判所に会社破産の申立をおこない、受理されたことを明らかにしました。5月29日付。代表取締役の神村靖宏氏の名前で、旧経営陣による会社を私物化したかのような運営により、経済状態が悪化していった経緯が厳しい言葉でつづられています。ガイナックスが管理していた作品の運用については、「破産手続きによる確定後、別途お知らせする」と説明しています。帝国データバンクによると、負債は債権者約71人に対し約3億8000万円に上ります。
ガイナックス(GAINAX)とは
ガイナックス(GAINAX)は1984年設立。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」や「天元突破グレンラガン」、「ふしぎの海のナディア」などの制作やゲームソフトの制作販売などを手がけてきました。
「エヴァンゲリオン」シリーズの監督として知られる庵野秀明氏も、ガイナックスに所属していましたが、2006年にカラーを設立、翌2007年にガイナックス社を退職し、その後、ガイナックス社の株主の立場となっています。
「新世紀エヴァンゲリオン」は現在、庵野秀明氏が社長を務める「カラー」が著作権を保有しており、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズについても、2006年からカラーが制作しています。
ガイナックスの経営が2012年ごろから悪化し、アニメ制作の機能を失っていく過程が、ガイナックスの公式サイトで、神村靖宏代表取締役名義で公表されています。
ガイナックスが明らかにした破産の経緯
ガイナックスの公式サイトでは、破産に至る経緯が厳しい言葉で書かれています。
それによると、主たる作品について各製作委員会などで今後の作品運用が可能になるよう作品の権利の確認、作家、クリエイターへの権利保護と知的財産や資料の正常な管理や運用に努めてきましたが、多くの旧経営陣が株主として残る状況に加え、前体制時に積みあがっていた高額負債解消には至らなかったといいます。
去る5月29日、弊社 株式会社ガイナックスは東京地方裁判所に会社破産の申立をおこない、受理されましたことをお知らせいたします。
1984年の設立以来、弊社ではアニメーション制作やゲームソフトの制作販売等を行ってまいりました。
『新世紀エヴァンゲリオン』(現在は株式会社カラーが著作権を保有)などいくつかのヒット作にも恵まれましたが、2012年ごろから見通しの甘い飲食店経営、無計画なCG会社の設立、運営幹部個人への高額の無担保貸付、投資作品の失注等、経営陣・運営幹部の会社を私物化したかのような運営により、経済状態が悪化していきました。
当該経営陣の作った多額の負債により、ロイヤリティ未払いによる委員会除名や貸金訴訟等の窮状に陥る中、地方に当該幹部やその関係者を代表としたガイナックスの社名を冠した関連会社が多数設立され、大量の退職者を出しスタジオとしてのアニメーション制作機能も失いました。それらの会社は弊社との無関係を表明し、経営責任を放棄しています。
そして、1992年より長くその地位にあった代表取締役から、映像制作に知見のない人物への株式譲渡が当時の経営陣の承認のもと2018年に実施されました。さらに2019年、その人物が代表取締役に就任直後に未成年者への性加害で逮捕されるに至り、多額の負債を抱える中、完全に運営能力を喪失するに至りました。
前代表取締役の不祥事から発した混乱を収拾するため、債権者でもある株式会社カラー様の善意による支援のもと2020年2月に経営陣を刷新し、新体制下で残された様々な資料を確認し実態把握に努めてまいりました。その結果、多額の金融機関からの借入や、アニメーション業界各社への債務不履行、知的財産や作品資料を正当な権利者の許諾なく、上述の経営陣・運営幹部の会社や個人への売却、譲渡等の事実が判明し、それらの正常化に取り掛かりました。
カラー様と新体制での取締役各位の協力により、主たる作品について各製作委員会などで今後の作品運用が可能になるよう協力各社とともに作品の権利の確認、作家、クリエイターへの権利保護と、散逸しつつあった知的財産や資料の正常な管理や運用に努めてきましたが、多くの旧経営陣が株主として残る状況に加え、前体制時に積みあがっていた高額負債解消には至りませんでした。
そして本年5月に債権回収会社から債権請求訴訟の提訴を受けるに至り、業務の継続は困難との判断から、このたびの破産の申し立てを行った次第です。
十全に目的を果たすことができず破産を選択せざるを得なかったことは、債権者の皆様およびご協力いただいた各社様に、そしてファンの皆様にたいへん申し訳なく存じます。
旧経営陣がこの窮状を一切顧みずガイナックスのブランドを用いて活動継続している中、無報酬にもかかわらず協力して頂きました新体制取締役各位と、取締役所属各社様、作家、クリエイターを第一に知財の整理譲渡等にご尽力賜りましたカラー様を始めとする関係各社に改めて感謝申し上げます。
また、なによりもファンの方々からの40年間のご支援に心から感謝いたします。
お知らせ(ガイナックス公式サイト)
カラーも補足コメントを公表
ガイナックスの破産に対し、カラーの公式サイトでも補足する形でコメントを掲載しました。
それによると、2019年のガイナックス前社長の逮捕後、経営陣を刷新し、ガイナックス社の内情を把握、アニメーション業界内のスタジオや作家、クリエイターへの未払い解消、知的財産や資料の散逸防止に努めてきたといいます。
しかし、手の施しようのない状況の債務超過を抱えており、旧経営陣、前代表取締役の債務も保障せねばならないという理不尽な状況もあり、十全に返済を厚くする事がかなわなかったと説明しています。
弊社としましては、かねてよりガイナックス社の経営不振及び負債の存在を確認しておりましたため、経営に対し、庵野より懸念を申し上げたり、経営改善に向けた提案をしておりましたが長きにわたり受け入れられず、そのような状況であっても、当時の経営陣からの申し出を許容し、カラーとして援助的な融資などを行ったこともありました。しかし、ガイナックス社の状況は変わらず、事態はさらに悪化を続け、2019年には当時の代表取締役が法人運営とは関係のない刑事事件で逮捕されるという事態にまで陥りました。
ガイナックス社前代表取締役逮捕の後、弊社代表取締役の庵野秀明は、『エヴァンゲリオン』シリーズを中心とする関連作品への風評被害を防ぐため、KADOKAWA様、キングレコード株式会社様、株式会社トリガー様にご協力をお願いしまして、各社から取締役に就任して頂く形で経営陣を刷新し、ガイナックス社の内情を把握、アニメーション業界内のスタジオや作家、クリエイター様への未払いだけでも解消をし、知的財産や資料の散逸を防ごうと、各協力会社と共に動いて参りました。
しかし、ガイナックス社のリリースの通り、内情を把握した段階で既に、手の施しようのない状況の債務超過を抱えている状態にあり、ガイナックス社として、業務の継続が困難になるとの判断が伝わって参りました。
そういった状況を踏まえ、作品と知財に関し、クリエイターや原作者、作家がどうにか今後も作品制作・運用が継続可能となるよう、各製作委員会の協力も得て、弊社が権利確認・整理を進め、最適と思われる会社や個人に権利等が譲渡されるよう取り組みました。
そして、多くの業界関係者への負債を少しでも解消するためにも、弊社からの支援を視野に検討を致しましたが、旧経営陣、前代表取締役の債務も保障せねばならないという理不尽な状況に繋がり、十全に返済を厚くする事が叶いませんでした。
新体制取締役各位及び取締役所属各社様におかれては、知財や今後の運用に関し、作家、クリエイターを第一にお考えいただいた整理譲渡等にご協力して頂き、誠にありがとうございました。ご尽力賜りました製作委員会各社へも改めて感謝申し上げます。
カラー公式サイト
作品の今後の運用は「別途お知らせ」
ガイナックスの公式サイトによると、ガイナックスが管理していた作品の今後の運用については、破産手続きによる確定後、別途お知らせすると説明しています。
経営者に役立つメルマガを配信 無料会員登録はこちら
この記事を書いた人
-
杉本崇
ツギノジダイ編集長
1980年、大阪府東大阪市生まれ。2004年朝日新聞社に記者として入社。医療や災害、科学技術・AI、環境分野、エネルギーを中心に取材。町工場の工場長を父に持ち、ライフワークとして数々の中小企業も取材を続けてきた。
杉本崇の記事を読む