コラボ商品で失敗しない秘訣 熱意だけじゃないガキパンは1万個のヒット
地域の企業が協力して新たな特産品を生む「コラボ商品」が全国各地で生まれています。しかし、話題作りだけで終わってしまったり、支援機関が半強制的に進めてしまったりするケースも見受けられます。地域の企業から本当に共感や賛同を得られる「コラボ商品」に必要なことについて、「ベーカリーツキアカリ」を起点に生まれた「ガキパンプロジェクト」の事例をもとに、大垣ビジネスサポートセンター(ガキビズ、岐阜県大垣市)が紹介します。
地域の企業が協力して新たな特産品を生む「コラボ商品」が全国各地で生まれています。しかし、話題作りだけで終わってしまったり、支援機関が半強制的に進めてしまったりするケースも見受けられます。地域の企業から本当に共感や賛同を得られる「コラボ商品」に必要なことについて、「ベーカリーツキアカリ」を起点に生まれた「ガキパンプロジェクト」の事例をもとに、大垣ビジネスサポートセンター(ガキビズ、岐阜県大垣市)が紹介します。
2019年創業の「ベーカリーツキアカリ」は、岐阜県大垣市築捨町の金型職人だった父親の鉄工所跡地を改装してできたパン屋です。築捨(つきずて)町に灯りをという思いから店名をツキアカリと名付けました。
創業前から事業コンセプトの明確化や情報発信などを支援するなか、地域への強い思いをオーナーの土屋さんから感じていました。
たとえば、同級生が代表取締役でガソリンスタンドを経営している「岐菱商事(大垣市) 」と協力して、地元アーティストの絵を採用したオリジナルカレンダーを作成し、店のノベルティにするなど様々な取り組みを行っていました。
元々、東京などで修行をしてから地元でUターン開業した土屋さんは、修行先ではパン屋の経営者同士の繋がりが多く意見交換も活発だったのを見ていたこともあり、地元でもこのような取り組みや地域のPRになるようなことができないか常に考えていたのです。
ガキビズは、土屋さんの思いを受け、地域を巻き込んだ取り組みができないかディスカッションを重ねるなか、大垣地域の素材を使い大垣の名物になるようなパンで大垣を盛り上げる「ガキパンプロジェクト」という地域活性化計画を提案しました。
このプロジェクトの目的は、単純に大垣名物を生み出す挑戦ではなく、地域でのつながりを作り、地域の活性化に寄与することにあります。
ツキアカリだけでなく地域の複数のパン屋が参加し、期間や数量を限定することで、より話題性があるプロジェクトになると考えました。
修業時代にパン屋同士がつながり、情報交換できるメリットは土屋さんも感じていたため、プロジェクトには積極的に進めたいと反応してくれました。
ただ、ガキビズでは同業のコラボレーションはより慎重に進めるべきと説明し、「趣旨と目的」「主催・共催・協力などの座組」「実施日と期間」「販売方法」「参加条件」「広報」「今後の流れ」など、周囲を巻き込むための納得いく骨子の策定をサポートしました。
ツキアカリの取引金融機関である大垣西濃信用金庫からも協力を得られることになり、それぞれが市内のパン屋にプロジェクトの概要説明と参加を促し、3店舗で開催することが決まりました。
ガキビズはこれまで幅広い業種の約2000事業者に利用されてきました。このネットワークを生かし、第一弾のガキパンプロジェクトには、1953年創業の大垣市の茶農家「平塚香貴園」のお茶を1943年創業の製餡会社「松下製餡所」で餡へと練り込み、緑茶餡に仕立ててもらいました。この餡を使用して、各パン屋で創作パンを作ってもらいました。
それぞれの事業者へは、サンプルの提供や試作など協力を得る必要があったため、プロジェクト概要の説明だけでなく、将来的なお取引による販路開拓につながるシナリオと可能性を説明したことで、スムーズに理解を得ることができました。
また、全体で統一感を出した企画にするため、プロジェクト開始日や基本販売期間を合わせ、手作りの店頭ポップなどを用いて、情報発信をサポートしました。
すると、東海エリアの新聞やテレビが報道をしてくれたこともあり、プロジェクトの注目度や地域活性化への取り組みに共感した他のパン屋もプロジェクト参画したいと手を挙げてくれました。
以降は4店舗でプロジェクトが進み、第二弾はほうじ茶パン、第三弾は和紅茶パン、第四弾ではガキビズのご支援先である市内の種田養蜂場のはちみつを使ったパン作りも行い、参加事業者も増えて次々と創作パンが誕生しました。
プロジェクト開始から約1年で各店が創作した「ガキパン」だけで累計1万個ほど売れる大ヒットとなりました。
プロジェクト成功の秘訣は、企画段階から目的とメリットを明確にしたことも挙げられますが、開始後に売れた個数の進捗を定期的に確認し、各店舗に「数字」を意識的に見てもらい、メリットを見える化して「実績」を感じてもらったことだったと考えています。
地域の特産品を作り出そうとする取り組みは数多く存在します。しかし、単に話題を作るための取り組みであったり、売り上げに寄与せず参画事業者に時間と手間だけを取らせてしまったりするケースも多いのが現状です。
ましてこのような取り組みを支援機関が一方的に企画提案し、事業者へ声を掛けて半強制的に進めてしまうことは、失敗に陥る典型的なケースです。
今回は、主体となる事業者が地域に貢献したいという思いを持っていたので、ガキビズはその思いを引き出し、形作るお手伝いをしました。そこで、感じたのは、共感や賛同をしやすくする提案力を私たちのような支援機関が持つ必要があるということです。
さらに、プロジェクトが円滑に進むようにサポートし、売り上げにつながるところまで伴走し、参画事業者にメリットが生まれるまで熱意を持って取り組むことが重要です。
ガキビズでは、丁寧な対話をするなかで事業者の地域への思いを引き出し、売上に繋がるまでプロジェクトの伴走や進捗管理に責任を持ってサポートしてきました。
支援機関がやりたいことを事業者にやってもらうのではなく、潜在的に秘めている事業者のやりたいことを掘り起こし、その実現に向けて成功をサポートすることが私たち支援機関の役割だと感じています。
深い共感が得られていないまま事業者を複数巻き込み、綺麗なロゴやチラシを作って話題になっただけでメリットが見えづらい取り組みは、連携という名ばかりのプロジェクトになり、広まらなかったり、継続せず誰の何のためのプロジェクトだったのかとなってしまったりします。
しかも、実施した結果がたとえ思い通りでなかったとしても、検証しないということは避けてほしいのです。
ガキビズを訪れる中小・零細事業者のリアルなご相談から、「連携」や「共創」という考えを持つ事業者がより一層増えてくると感じています。事業者の皆さんが取り組む上でこの記事が何か小さな気付きになることを願っています。
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