目次

  1. ゲノム情報とは
  2. 日本でのゲノム情報利用に関する法的規制
  3. 厚生労働省Q&Aで労働上の差別を禁止
    1. 採用選考時に遺伝情報の提出要求の禁止
    2. 採用後の遺伝情報の提出要求の禁止
    3. ゲノム情報に基づく解雇の禁止
    4. ゲノム情報に基づく異動・配置転換の禁止
    5. ゲノム情報に基づく昇格・昇給の停止の禁止
  4. 企業経営者・人事担当者が注意すべきポイント

 国立国際医療研究センターの特設サイト「ゲノム医療の基礎知識」によると、人間の体は、私たちの体は、「ゲノム」とよばれる遺伝情報(ゲノム情報)をもとに形づくられています。

 ゲノム情報には、一人ひとり違うという「固有性」があり、かつ、それぞれの体質や将来病気になる可能性についてある程度の「予測性」もあることから、慎重に取り扱う必要があるといいます。

 1997年、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が「ヒトゲノムと人権に関する宣言」を発表しました。

 その中で、誰もが、遺伝的特徴(ゲノム情報によって決まる特徴)にかかわらず尊厳と人権を尊重される権利をもっていること、遺伝的特徴に基づいて人権や基本的自由、人間の尊厳を侵害する意図や効果をもつ差別を受けることがあってはならないことがうたわれています。

 日本では、ゲノム医療法(良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律)が2023年6月16日に施行されており、ゲノム医療についてだけでなく、差別等への適切な対応の確保なども定められています。

 こうした流れを受けて、厚生労働省のQ&Aで、労働分野における不当な差別を防止するための対応をとりまとめました。

 求職者等の個人情報の取扱いについて、本籍や出生地など社会的差別の原因となるおそれのある事項については、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合を除き、収集してはならないこととされています。

 遺伝情報は、この「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に含まれます。

 応募者の遺伝情報を取得・利用することは、本人に責任のない事項をもって採否に影響させることにつながることになり公正な採用選考の観点から問題があります。

 違反行為をした場合には、職業安定法に基づく改善命令、改善命令に違反した場合には罰則の対象となる可能性があります。

 採用後についても、個人情報保護法で労働者の個人情報について、偽りその他不正の手段により取得することや、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により利用することはできないとしています。

 また、労働安全衛生法に基づく健康管理のための情報として、労働者のゲノム情報を収集することもできないとの見解を示しています。

 労働契約法16条で、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効になるとされています。

 会社がゲノム情報のみをもって解雇を行った場合、解雇の合理的な理由になるとは考えられず、一般的には解雇権の濫用に当たるとして無効になるものと考えられると厚労省が見解を示しています。

 ゲノム情報に加え、その他の理由を根拠として解雇した場合であっても、ゲノム情報そのものは解雇の合理的な理由になるとは考えられず、その他の理由によって、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められない限りは、解雇権の濫用に当たるとして無効になるものと考えられるといいます。

 同様に、就業規則に配置転換を命ずることができる旨の定めがある場合でも、配置転換は無制限に認められるわけではなく、不当な動機・目的の有無や、配置転換命令の業務上の必要性とその命令がもたらす労働者の生活上の不利益とを比較衡量した結果により、配置転換命令が権利濫用に当たると判断され無効となる場合もあります。

 会社がゲノム情報のみをもって配置転換を行った場合、配置転換の合理的な理由になるとは考えられず、一般的には権利の濫用に当たるとして無効になるものと考えられます。

 企業が労働者の能力や業績などを評価し処遇に反映する人事考課制度において、個々の労働者に対してどのような評価を行うかは、基本的には当該人事考課制度の中での裁量的判断となりますが、裁量権の濫用があってはならないと厚労省が指摘しています。

 そのため、ゲノム情報のみをもって、人事考課に不利益な取扱いをすることは一般的に裁量権の濫用に当たるとして、無効になるものを考えられます。

 厚生労働省の公式サイトによると、政府のタスクフォースはゲノムデータについて「社会通念上、個人識別符号に該当するものと考えるのが妥当」との見解を示しており、医学的意味合いを持った「ゲノム情報」は、配慮を要すべき情報に該当する場合があるといいます。

 ゲノム情報は医療行為に活用されるためのもので、雇用など企業の活動のなかでは原則使わないと認識しておくとよいでしょう。