「2回目の人生をいただいた」 輪島の職人の“惑星”のようなアクセサリー
石川県輪島市で、塗物の最終工程「呂色加工(艶上げ加工)」を専門とする職人、枡井克宗さん(66)は令和6年能登半島地震で自宅兼工房が全壊しますが、夫婦とも生かされたことに「2回目の人生をいただいた」と感謝し、商品づくりを早期に再開しました。9月4~6日に東京ビッグサイトで開いている東京インターナショナル・ギフト・ショーに出展し、輪島の伝統技術を生かした“惑星”のようなアクセサリーを広めようと動いています。
石川県輪島市で、塗物の最終工程「呂色加工(艶上げ加工)」を専門とする職人、枡井克宗さん(66)は令和6年能登半島地震で自宅兼工房が全壊しますが、夫婦とも生かされたことに「2回目の人生をいただいた」と感謝し、商品づくりを早期に再開しました。9月4~6日に東京ビッグサイトで開いている東京インターナショナル・ギフト・ショーに出展し、輪島の伝統技術を生かした“惑星”のようなアクセサリーを広めようと動いています。
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「いつもの地震が終わったかな」。2024年1月1日16時過ぎ、最大震度5強の揺れがありました。揺れは大きかったものの、最近地震が増えていたので、枡井さんは「地震も落ち着いたら買い物に行こうか」ぐらいに受け止めていました。
しかし、直後にぐらっと経験したことのない揺れに見舞われました。
妻の佳美さんとすぐにこたつに潜り込みます。揺れが収まって周りを見渡すと、頭のすぐそばには天井板。2階が落ちてきたのだとわかりました。
16時10分、輪島では震度7を観測しました。
「音を出せば近所の人が気づいてくれるのではないか」
そう思い周りをたたいてみますが、反応はありません。息子や娘からでしょうか。携帯電話の着信音が鳴り響きますが、手は届きません。
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上を見上げると、うっすらと空が見えました。「お母さん(佳美さん)、ちょっと待っててよ」。30分かけて這いずり出ると、靴下姿で、瓦やガラスが散乱する道路を歩き、助けを求めに行きました。
妻とともに避難所に身を寄せた桝井さん。しばらくすると、つぶれた自宅の中に散らばる、漆や道具、完成した商品を1つ1つ拾い集めていました。「まだ私には、拾えるものがあるのだ。やはり私にはこれしかないかな」。先は見えないけど、これしかない、やり続けようと決心したといいます。
枡井さんは、漆器を鏡面のように平らで、豊かな光沢のある仕上げにする「呂色職人」です。しかし、その作業は冬でも汗びっしょりになるほどの過酷な作業のため、年齢とともにつらくなってきていました。
そこで、輪島塗の技術を生かし、真珠核などに天然漆を塗り重ねたアクセサリーはできないだろうかと着想し、2024年からは「輪島うるし塗りアクセサリー」に特化しようと考えていました。
純銀粉を蒔いて色漆を塗りこみ研ぎ出した銀地塗や、漆でらせん模様を描いて純銀粉を蒔いたり漆で模様を付けて金属粉を蒔いたりした加飾塗などほかでは作っていない商品が特徴で、ギフトショーで、桝井さんの展示を手伝った展示会デザイナーの竹村尚久さんは「まるで惑星のよう」だと評します。
そして、枡井さんが漆を塗った真珠核に金具を取り付けてピアス、イヤリングなどに仕立てるのは佳美さんの得意分野です。
2次避難先に身を寄せていた枡井さん夫婦は2月、「輪島うるし塗りアクセサリー」を展示販売しているGallery&Shop「金澤美藏」(金沢市)を訪れました。
震災当時を説明するなかで、天井が真下に落ちてきたから命が助かったが、先に柱が1本でも落ちてきていたら命はなかっただろうし、夫婦どちらかが欠ければ、もうアクセサリーも作れなかったかもしれなかったと振り返りました。
そのうえで、アクセサリーづくりに励める今に感謝し「2回目の人生を生かされています」と話し、納品を再開することを伝えました。
5月には輪島市に戻り、たまたま知人が所有していたアパートに空き室があったため、作業場として借り、アクセサリーづくりも再開しています。
インタビュー中、笑顔が絶えなかった枡井さん。妻の佳美さんも「ほとんど下を向いているところを見たことがない」というように落ち込んだ姿を外には見せません。枡井さん本人は「寝る前の15分だけ悩んで、そこで結論を出して、気持ちを引きずらないようにしているんです」と明かします。
伝統工芸である輪島塗は、堅牢な塗りと加飾の優美さを特徴とし、日本を代表する漆器の一つとして高く評価されていますが、業界全体は右肩下がり。でも、外に出て、現代のニーズに耳を傾ければ、新たな市場が見えてくるかもしれません。
「ご飯が食べられればいいんです」。そんな言葉とは裏腹に、展示会に出展したり、東京・銀座のジュエリーショップに夫婦で飛び込み営業に行ったりと枡井さんは攻めの姿勢を忘れません。
輪島ではまだ工房を再開できていない仲間がいます。職人の高齢化、後継者不足と多くのなどの問題が能登半島地震でまた拍車が掛かるだろうと感じています。枡井さんの場合はたまたま早期再開をすることができました。
「モデルケースになって輪島を元気づけたいと考えています。教えてほしいと請われれば(枡井さんの)技術を教えていきたいと思います。でも、弟子は取りませんよ?」
いたずらっぽい笑みを浮かべつつ、先を見据えながらそう答えました。
ギフトショー会場の石川県産業創出支援機構のブースでは、枡井さんのほかにも被災企業が出展しているほか、ブース内の一角に「復興REPORT」エリアを設置。輪島の若手ネットワークの誕生、仮設工房の完成など能登地域で始まっている新しい動きを展示しています。
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