目次

  1. コメ兵が出店を決める基準
  2. 買い取りも販売もできる店員に
  3. 千人の意見で作ったクレド
  4. クレドを実践した社員を表彰
  5. 社員主導でオープンした旗艦店
  6. AI活用で査定時間を3分の1に
  7. 積極的な海外展開とM&A
  8. 「未来会議」が変えた評価基準
  9. リユースが恥ずかしくない時代を

 石原さんは1998年、社長だった父の急逝でコメ兵に入社。新宿店の店長や営業企画部長を務め、リーマン・ショックで落ち込んだ経営の立て直しに動きました。現場への権限委譲やオークション会社の設立などを経て、会社は回復基調に。2013年の4代目就任後、爆買いブームの終了という危機に直面しながらも、商品構成の見直しなどで乗りきりました(前編参照)。

 石原さんの幼少期、名古屋市の1店舗だけだったコメ兵は、国内228店舗、海外21店舗(2024年6月時点)にまで拡大しています。出店戦略は、どのように立てているのでしょうか。

 「リユース店は、中古品を買い取らなければ売り場に並べる商品がないという原理原則があります。富裕層やブランド品を持っていそうな方々の生活動線を考え、コメ兵は知らないけれどこの建物に入っているなら安心できる、と思っていただける場所に出しています」

 ポイントカードのデータなどを活用し、「この街にはリユースに抵抗のない人が多い」といった特徴もみています。顧客管理データによって、販売店もプロモーションがかけやすくなるメリットもあります。

 立地や広さだけでなく、品ぞろえと接客力も良い店の条件です。コメ兵では、リユース品の買い取りと販売、両方ができる人材を育てています。

 「買い取りができる人材が、リユース品を買い求めるお客様に接すれば『この店員は商品や相場をよく知っている』という価値につながります。バイヤー教育こそが販売力を上げるのです」

 1人の店員が日替わりで買い取りと販売を担うことも普通で、片方のスタッフが足りなくなれば、臨機応変にカバーします。また、ベテランと若手を意識的に組み合わせることで、教育効果を最大化しています。

 買い取った商品は、すべて愛知県の商品センターに配送され、センターの流通数は年間160万点にものぼります。キャリアパスとして商品センターへの配属を組み込み、膨大な数の商品に触れることで、成長のスピードを早めています。「写真だけではなく実物をたくさん見られるのが、うちの教育の強みです」

 コメ兵のグループ従業員数は1405人にのぼりますが、HDの人材定着率(2023年度)は92%という高水準を維持しています。

 その下支えになっているのが、2016年に作成した従業員向けのクレドです。その骨子は次の九つになります。

  1. 出会いを大切に お客様の帰り道を笑顔に
  2. 一品入魂の姿勢を大切に
  3. 全員チームKOMEHYO
  4. やってみよう やらせてみよう
  5. 「5秒」で好印象
  6. 清する者は万事を制す
  7. 迷ったら「まじめ」を選ぶ
  8. 数字を楽しむ
  9. 感謝のリレー

 石原さんは「クレド作成は従業員から提案があり、プロジェクトを組みました。内輪の盛り上がりにならないよう、外部の方からもアンケートを取ることを意識しました」。

 アンケートの対象は、従業員や顧客だけでなく、取引先や委託先の清掃業者や警備員に至るまで千人規模にのぼり、「コメ兵のいいところを教えてください」といった質問を投げかけました。石原さんはクレドの内容には、ほとんど口を出さなかったそうです。

 クレド策定で、入社する人材にも変化があったといいます。

 「以前はブランド品への興味が強い人が多かったのですが、今はクレドの内容に共感する人材が増えたように思います。サステイナブルの時代に、偽物や質の低い商品を流通させないという社会貢献の思いを持ち、自分の力を試してみたいという動機で入社してくれています」

 コメ兵創業者で石原さんの祖父・大二さんの家訓は「従業員を家族のように」でした。家訓はクレドにも引き継がれており、社内では「ほめる文化」が重視されています。それを浸透させるため、クレド委員会という社内チームが立ち上がり、ユニークな表彰制度もできました。

 例えば、ある従業員が「お客様の帰り道を笑顔に」というクレドに沿った行動をしたときは、同僚が所定のカードに記入してクレド委員会に送ります。カードは例年、3千枚以上集まり、年1度、その中から優秀者を表彰します。パート従業員らも対象で、表彰された人は大勢の従業員の前でスピーチします。

クレドを実践した従業員を表彰しています(コメ兵HD提供)
クレドを実践した従業員を表彰しています(コメ兵HD提供)

 表彰者にはコメ兵の商品券が贈られますが、直接昇給につながる仕組みではありません。ただ、ファイブスターというバッジを1年間付ける権利も与えられ、顧客への何よりのアピールとなります。

 「『お客様の帰り道を笑顔に』というクレドを実行するのに、キャリアやスキルは関係ありません。新入社員でもできることです」

 コメ兵ではチームへの売り上げや買い取り額の目標はあっても、個人ノルマはありません。

 ノルマを課すと個人プレーに走り、成約件数を増やすため、適正価格より高い値段で買い取って、店頭での販売価格がつり上がる事態になりかねません。「目指すのは、目先の利益ではなく、お客様に再訪していただける店づくりです。信頼関係を崩す行動はあってはいけません」

 従業員の能力やモチベーションの向上は、店舗開発の権限委譲にもつなげています。石原さんは「出店までのプロジェクトは社員に任せ、私は役員会などへの報告で詳細を知るときもあります」。

名作などがそろうKOMEHYO SHIBUYA2階(コメ兵HD提供)
名作などがそろうKOMEHYO SHIBUYA2階(コメ兵HD提供)

 2023年11月、東京・渋谷のスペイン坂下にオープンした旗艦店「KOMEHYO SHIBUYA」のコンセプト作りやデザインも、現場主導で進めました。

 「会社の規模が大きくなるにつれて、全店舗を回ることが難しくなっています。そこは素直に分かりませんといって、みんなに託しました。私から伝えたのは『Z世代が思わずSNSで発信したくなる店にしてくれ』というくらいです」 

 社員主導で立ち上げた「KOMEHYO SHIBUYA」はポップアートの街に溶け込み、他店と一線を画すデザインとなりました(前編参照)。客足は上々で、25億円という年間売り上げ目標は達成が見込まれています。

 コメ兵ではサービスを高める技術開発にも積極的です、2018年から商品の型番や買い取り基準に達しているかを見極めるAIの開発を始めました。商品センターに集まる年間約160万点のうち、対象ブランドのバッグのデータを読み込ませ、グループ全店舗にもAIを広めています。

 「それまではお客様がたくさん買い取り品を持ってきたとき、待たせてはいけないと慌てることがありました。しかし、AIが査定をサポートすることで、じっくりと接客できる時間が生まれ、買い取りから店頭に並べるまでのスピードも早くなります」

 AI活用で、商品の査定時間は3分の1程度まで減りました。「海外進出を進めるため、AIも含めた目利き力という我々の秘伝のたれを、うまく現地にローカライズしたいと考えています」

コメ兵のAI活用(コメ兵HD提供)
コメ兵のAI活用(コメ兵HD提供)

 コメ兵の急成長の原動力となったのは、海外展開とM&Aです。

 2013年、香港にKOMEHYO HONG KONG LIMITEDを設立。その後、台湾、上海、タイ、シンガポールなどのアジア圏に店を広げました。日本での買い取り実績をはじめ、香港に来るバイヤーが商品を持ち帰る国などをリサーチし、リユースへの抵抗が少ない国を選んでいます。

明るい印象を醸しだすタイの店舗(コメ兵ホールディングス提供)
明るい印象を醸しだすタイの店舗(コメ兵ホールディングス提供)

 海外展開では失敗もありました。2018年、北京に開いた店は短期間で撤退しています。

 「中国企業との合弁会社でしたが、大きな課題を克服できませんでした。買い取りサービスも併設していましたが、自店舗の買い取りだけでは商品を補えませんでした。売れるけれど、個人からの買い取りが計画通り進まず、品ぞろえが不十分になったのです」

 「その不足を法人仕入れで補うと原価が高くなり、計画通りのビジネスが進められませんでした。現地の会社と組めばうまくいくと考えましたが、調査不足と判断の甘さがありました」 

 教訓を得て、後に上海に進出した時はコメ兵だけで事業を行いました。海外売上高の比率は現在9.8%で、2028年には15%に高める目標を掲げています。

 M&Aも進めており、現在はホールディングス傘下に17社のグループ企業(2024年9月時点、海外法人を含む)があります。「M&Aの相手先はリユースへの熱い思いがある会社を選んでいます。会社や店構え、働く方々の表情などをもとに、M&A後に自走できるかで判断しています」

タイヤ・ホイール販売店クラフト(コメ兵HD提供)
タイヤ・ホイール販売店クラフト(コメ兵HD提供)

 社長就任直前の2012年、グループ企業になったのが、車のタイヤとホイールを販売するクラフト(名古屋市)です。

 「高いスキルをもとに、お客様を帰り道に笑顔にする接客をしていたのが魅力的でした。しかし、当時は新品を売るのは得意でしたが、買い取りが苦手。そこで、コメ兵がリユースの考え方や相場観、在庫管理の仕方を伝授し、シナジーを生みました」

 現在、クラフトを軸としたタイヤ・ホイール事業は、売上高の4.2%になっています。

 2022年には東京・御徒町のジュエリー中古店セルビーの経営権を取得しました。「セルビーは海外バイヤーも含めて競合がひしめく御徒町で力を発揮し、コメ兵は存在感を出せるほどの実力はありませんでした。なので、セルビーは本業の販売で強みを出し、コメ兵は在庫管理や資金の投入などでサポートしています」

 2024年3月期のコメ兵グループの売上高は約1200億円。石原さんの社長就任時の約4倍近くになりました。創業80年の2028年には、グループ全体で売上高2500億円という目標を掲げ、グループ店舗数を420に倍増する計画です。「将来的にはブランドリユース売上高で世界一を目指します」

 石原さんは3カ月に1度、役員や部長ら25人ほどで構成する「未来会議」にも参加しています。そこでは売り上げなど数字の話は一切せず、目指すべき社会像や理想のチームといった将来ビジョンを議論しています。

石原さんはリユースの価値を高めるため、社員とともに歩んでいます
石原さんはリユースの価値を高めるため、社員とともに歩んでいます

 石原さんは創業家の一員として育ったからこそ、「ともに走ってくれる人材をつくり、自分がわからないことも補ってくれる組織にしないといけない。その思いを会議のメンバーにも伝えています」と語ります。

 未来会議の議論で変わったのは評価基準です。「誠実、協調、挑戦、楽しむ」という要素を重視するようになりました。「例えば、経験や知識は発展途上でも人懐っこい。そういう要素は商売人として不可欠です。創業の原点である大須商店街の商人として、もう一度原点に立ち返りました」

 コメ兵は2020年のホールディングス化を機に、「リレーユース」という言葉を前面に掲げるようになりました。

 「商品を次の人、そのまた次の人へとつなげ、使い道がなくなるまで使命を全うさせる。そうしたリレーユースの中継点に入り、お手伝いするのがコメ兵の役割と定めました」

 石原さんが子どものころは、コメ兵の品を「壊れているんじゃないか」、「偽物だろう」とからかわれました。

 「今の従業員の子どもたちに、そんな言葉を絶対に浴びせられない社会を作らなければいけません。我々が社会の真ん中で商売をして、リユース品を売ることが恥ずかしくないという時代を作っていきたいです」