デジタル人材(DX人材)とは 育成のポイントは自律的な学び
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するデジタル人材の不足はますます深刻化しています。採用が難しくなるなかで、DXを進めたい企業は、社員が自律的に学ぶマインドにシフトすることを求めています。では、自律的な学びを促すにはどうすればいいのでしょうか?情報処理推進機構の「デジタル時代のスキル変革等に関する調査」をもとにポイントを紹介します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するデジタル人材の不足はますます深刻化しています。採用が難しくなるなかで、DXを進めたい企業は、社員が自律的に学ぶマインドにシフトすることを求めています。では、自律的な学びを促すにはどうすればいいのでしょうか?情報処理推進機構の「デジタル時代のスキル変革等に関する調査」をもとにポイントを紹介します。
目次
デジタル人材(DX人材)とは、専門的なデジタル知識・能力を持ち、デジタル実装によるビジネス上の課題解決を牽引できる人材のことを指します。
経済産業省は、生成AIの登場や進化によって、DXに関わるビジネスパーソンに求められるスキルも変化していることを踏まえたうえで、DXを推進する人材の役割と必要なスキルを定義した「デジタルスキル標準」を公表しています。
デジタルスキル標準には、ビジネスパーソン全体がDXに関する基礎的な知識やスキル・マインドを身につけるための指針である「DXリテラシー標準」と、企業がDXを推進する専門性を持った人材を育成・採用するための指針である「DX推進スキル標準」の2種類があります。
デジタル人材とは、必ずしもデータサイエンティストだけのことを指すものではありません。経産省は、DXを推進する主な人材として5つの人材類型を定義し「他の類型とのつながりを積極的に構築した上で、他類型の巻き込みや他類型への手助けを行うことが重要である」と指摘しています。
情報処理推進機構(IPA)は、デジタル時代における人材の適材化・適所化を如何に推進していくかということをテーマに調査・研究を進めてきました。
社会のデジタル化進展を背景に、ビジネスパーソンと企業・組織との間の関係が大きく変化するなかで重要となるのが、「自律的な学び」だといいます。
「自律的な学び」とは、自身の価値観やキャリア観、興味関心に基づき、主体的に学習に取り組む姿勢を指します。企業にとって、これまでのマニュアル的な働かせ方だけでは競争力の強化や付加価値創造が叶わなくなってきたことや、企業からキャリアパスを提示したり、ロールモデルを示したりできなくなってきています。
企業にとって、社員に自律的な学びを促すことは、DX推進を加速させるだけでなく、イノベーション創出や組織全体の活性化にもつながります。一方、個人にとっては、自律的な学びを通して市場価値を高め、キャリアアップを実現することができます。
自律的な学びを促進するためには、企業風土・文化の醸成が欠かせません。挑戦を奨励し、失敗から学ぶことを許容する文化、社員同士が協力し、知識を共有する文化、多様性を尊重する文化など、これらの要素が、自律的な学びを促進する土壌となります。
IPAなどが2024年2~5月に、事業会社の情報システム部門やDX推進部門のほか、企業に所属するデジタル人材や企業に属さないフリーランス人材にアンケートを実施しました。すると約1000社と約1600人から回答が得られました。
企業にデジタル人材の獲得・確保について尋ねたところ、「外部採用(中途採用)」よりも「社内人材の育成」が上回りました。
また、DXを推進する人材の育成にあたっての課題について、尋ねたところ、社員の「スキル向上・獲得へのマインドシフト」が全体の48.3%と最も多い課題でした。IPAは「従来の画一的で受動的な学びのマインドから、個人や事業に適切な学びを自律的に学ぶマインドにシフトすることが求められている」と指摘しています。
続いて個人に対するアンケート調査をみていくと、自律的な学びが習慣化されている人と継続している人は全体の約33%でした。1001人以上の企業では自律的に学ぶことが習慣化・継続できている人の割合が38.4%と他の区分より多かった一方で、100人以下の企業では「学び始める動機やきっかけがなく動き出せていない」人が、他の区分よりも多かったといいます。
さらに、個人に対するアンケート調査から、自律的な学びができている人は組織へのエンゲージメントが高く、企業との間で選び・選ばれる関係構築ができていることが伺えました。
自律的に行動できる人材に選ばれることが企業の持続可能性を左右することから、IPAでは「事例企業における自律的な学び促進の取り組み」において、調査に協力した企業へのヒヤリングをもとに、4つのポイントにまとめました。
インタビュー調査から、「自律的な学び」を推進する前提として企業風土・文化の存在や、風土・文化からの変革に言及する企業が多く、発言のあった企業風土・文化の種類を以下の5つに分類できたといいます。
手挙げの文化:個人が自発的に新しいプロジェクトに参加することを奨励
失敗から学ぶ文化:失敗を恐れずに挑戦し、失敗から学ぶことで成長を促進
挑戦を促す文化:「まずやってみる」「打席に立つ」ことへの奨励
協力と知識共有の文化:助け合いや知識・スキルを共有する仕組みを支援
多様性を尊重する文化:異文化交流などでブレークスルーを図る
個人の「自律的な学び」がどのように生まれ、実践・継続され、拡大していくかという点について、企業の支援内容から結びつく個人の行動因子を整理しました。
企業が社内で個人の「自律的な学び」を促進支援する際に、多くの企業で対象者を層別して、それぞれの層に適した支援内容・方針を適用していました。
たとえば、元々高い学習意欲や自主性、変革意欲を持っている層には、高度な専門スキルやリーダーシップ発揮やより難易度の高い業務などの場の提供や承認により自律性を維持・向上させるようにしているといいます。
逆に、学びや変革に対して忌避感を持ち、ネガティブな反応を示す層には、伴走支援して、実務でツールレベルの習得から成功体験を重ね、自身にとっての学びの意義の気づきを与えるようにしていました。
一部の企業では、「社内の同質的な価値観から新たな価値創造は期待できない」考え方から、社外への情報発信によるアトラクション効果から社外との交流、コミュニティー活動等により学びや変革活動のレベルアップを図り始めているといいます。
IPAは、企業変革、人材変革に先行している企業・組織では個人の自律的な学び促進にどのような環境整備や施策を実施しているかの具体例を調査、収集し、資料としてIPAの公式サイトで公表しています。
たとえば、IHIは、DXを先導する「DXリーダー」を選抜し、研修や情報共有の場を提供することで、自律的な学びを促進し、ほかの社員にも伝播することをねらっています。
旭化成は、オープンバッジを活用した教育カリキュラムを導入し、学んだ成果が目に見える形で残るように工夫することで、モチベーション向上につなげています。
これらの事例から、企業風土や経営層のコミットメントが、デジタル人材育成の成功に大きく影響することが分かります。
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