デジタルとアナログの使い分けで生産性向上 洋食店と町工場のアプローチ
ツギノジダイが2024年7月17日~19日に開いたオンラインイベント「第4回 日本を変える中小企業リーダーズサミット」(中サミ、共催・Eight)には、中小企業のリーダー層をはじめ、約5千人が参加登録しました。講演の中から、東京フードサービス(東京都豊島区)専務・稲田安希さん、杉並電機(東京都羽村市)社長・福田 礼彦さんによる、生産性向上をテーマにしたトークセッションの模様を振り返ります。
ツギノジダイが2024年7月17日~19日に開いたオンラインイベント「第4回 日本を変える中小企業リーダーズサミット」(中サミ、共催・Eight)には、中小企業のリーダー層をはじめ、約5千人が参加登録しました。講演の中から、東京フードサービス(東京都豊島区)専務・稲田安希さん、杉並電機(東京都羽村市)社長・福田 礼彦さんによる、生産性向上をテーマにしたトークセッションの模様を振り返ります。
東京フードサービスは1969年に創業し、洋食店「キッチンABC」を運営しています。豚肉とニラを秘伝のたれで炒めたオリエンタルライスなどが人気で、東京・池袋など都内4店舗を展開し、冷凍食品販売も行っています。創業者の孫の稲田さんは2021年から家業に入り、専務として業務改善を進めています。
杉並電機は1953年、福田さんの祖父が創業し、電子機器につなぐコネクターの金属端子(たんし)を製造しています。高い精度で作られる端子は、スーパーコンピューターやゲーム機などに用いられています。約30人の従業員を率いる福田さんも工場内の生産性を高めるため、改革を進めました。
ジャンルは異なる両社ですが、デジタル化による業務改善で成果を挙げたという共通点があります。単なるITツールの導入だけでなく、アナログな部分を残しながら生産性を高めるまでのプロセスを、トークセッションで紹介しました。
キッチンABCの稲田さんは、各店にAirレジ(POSレジ)を導入しました。「以前は紙伝票で、営業終了後に売り上げを計算して電話で本部に伝えていましたが、4店舗が一斉に電話するので通じないこともありました。Airレジ導入で会計のミスが減り、各店からの報告も不要になりました。お客様が何時にどんなメニューを頼んだのかも分かり、ABC分析ができるようになりました」
仕込みの時間に電話で行っていた受発注も、システム導入で効率化を進めました。「手の空いたタイミングでいつでも注文できるようになりました。デジタルデータにまとめているので、食材を何個発注したのかを全員が把握でき、人的ミスも防ぎました」
前は「電話した方が早い」という風潮があったといいますが、チャットツール導入で情報共有が進み、会社のビジョンも浸透させやすくなったといいます。
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また、急速冷凍機の導入で仕込みの負担を減らしたほか、味も栄養価も落ちない名物料理を全国に配送するなど、ビジネスの幅も広げていきました。
杉並電機の福田さんは、工場のIoT化に取り組みました。製造機械の自動化を進めてきましたが「機械が正常に動いているか、異常が起きたときに気づけるのかという課題がありました」。
そのため、タブレットを導入し、着手、検査、測定などの進捗をボタンで入力してもらうようにしました。工場内には60個のセンサーを取り付け、機械の稼働状況や電力の24時間推移などを可視化。データは工場内の大型モニターに映し、誰でも見られるようにしました。
センサーは安価な市販品などを改良して自社で作り、プログラムのスキル不要で、必要なデータを収集できる仕組みを構築したといいます。
「どういった形で仕事をしているかが、リアルタイムで見えるようにしたことで、作業の無駄が無くなり効率化が進みました。残業時間は月100時間、電気料金も1割程度減っています。社員が同じ情報をもとに行動することで、コミュニケーションがスムーズになりました」
ITツールを導入しさえすれば、生産性が一気に高まるわけではありません。自社の業務フローに合わせ、時にはアナログな施策との使い分けも必要です。
稲田さんはキッチンABCには、飲食店などで活用が広まるタッチパネル式のセルフオーダーシステムを導入しませんでした。
「今は列待ちの段階で注文を受け、ホールとキッチンとのあうんの呼吸で、席についたとき温かい食事をすぐ提供しています。タッチパネルは効率的ですが、キッチンABCの強みであるお客様とのコミュニケーションがなくなると考え、あえて導入を見送りました」
Airレジを導入する際は、定着まで1年半かけました。「まずは自分が腹落ちできるかを考え、操作に慣れているスタッフがいる店から順に導入しました。LINEグループを作って、不明な点に答えるようにもしました」
顧客データが収集できるようになったことで、店内の掲示物で強調するメニューの写真を決めたり、好評だった生ドレッシングを店で販売したりするなど、事業成長につなげています。
杉並電機の福田さんも「ITツールを入れることが目的になってはいけない」と強調します。導入を進めるにあたり、「仕事がスムーズに流れる」、「次の対処がしやすい」、「異常の気配を察知できる」といった効果を記したマインドマップを作成しました。
「タブレットの入力をする際も、別の場所に行ったり文字を入れたりというフローを避けて、ボタンを押すだけというシンプルな運用にしています」
従業員を巻き込むため、ITツールの入力コンテストなども企画しています。「モニター画面に目を向けてもらうため、朝一番に作業のボタンを押した人には1ポイントを与え、20日間で一番ポイントが高かった者に賞金を出すようにしました」
生産性向上には、経営者の意識も重要です。福田さんは「社長が勝手にやっている、と思われると進みません。1人でも2人でも興味を持ってくれる人間を巻き込み、まずはツールを買って試す。そして、多くの人が参画できる方法を考えながら、新たな価値を創造するのが求められるのではないでしょうか」と話しました。
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