目次

  1. ミニマムタックスとは
  2. ミニマムタックス導入の背景に「1億円の壁」
  3. ミニマムタックスはいつから?
  4. 株式譲渡を伴う事業承継やM&Aに影響する可能性

 ミニマムタックスとは、2023年度税制改正に盛り込まれた課税措置「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化」の通称です。アメリカのAMT(Alternative Minimum Tax)に似た仕組みであることからそう呼ばれています。

 財務省の公式サイトによると、措置の内容は以下の通りです。

1.通常の所得税額
2.(合計所得金額-特別控除額(3.3億円))×22.5%

 2.が1.を上回る場合に限り、差額分を申告納税する必要があります。

極めて高い水準の所得に対する負担の適正化
極めて高い水準の所得に対する負担の適正化

 この合計所得金額は、株式の譲渡所得だけでなく、土地建物の譲渡所得や給与・事業所得、その他の各種所得を合算した金額です。ただし、スタートアップ再投資やNISA関連の非課税所得は対象外です。

 2020年分の申告データを用いて機械的に試算したところでは、年収がおおむね30億円以上の場合に対象になると見込まれるといいます。ただし、計算式から考えると、すべての所得のうち、給与・事業所得が多い場合は30億円以上に、株式譲渡所得などが多い場合は30億円未満でも対象になるでしょう。

 東京財団政策研究所の公式サイトに掲載されたレビューによると、日本国内で300人、550億円程度の影響があると試算しています。 

 2023年度税制改正大綱は、ミニマムタックス導入の目的について「より公平で中立的な税制の実現」だと述べています。そもそも所得税は、所得が増えるにつれて税負担率が上がる「累進課税」です。

2020年の申告納税者の所得税負担率
2020年の申告納税者の所得税負担率(税務調査界の資料から抜粋 https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2022/4zen19kai.html)

 しかし、所得税の税率は、課税総所得金額4000万円以上で最高の45%なのに対し、合計所得金額が1億円を超えるような高所得者層の場合、15%の税率が適用される株式配当などの金融所得の割合が高まるため、およそ1億円を境に税負担率が逆に下がってしまう「1億円の壁」が存在していました。

 岸田前首相は2021年秋の自民党総裁選で「1億円の壁」の是正を訴えていましたが、株価が下落するなど市場の反発もあり、いったんは議論が見送られた経緯があります。

 ミニマムタックスを導入すると、たとえば、年間所得30億円すべてが株式譲渡益だった場合、従来の税負担は約4.5億円でした。しかし、2025年のミニマムタックス導入後は、(30億円-3.3億円)×22.5%=6億円程度の税負担となるので、1.5億円分を申告納税する必要が出てきます。

 税制改正では、ミニマムタックス(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化)について「2025年分以後の所得税について適用する」と記載されています。そのため、2025年1月1日以降の所得について対象になると見込まれます。

 ミニマムタックスは、株式を伴う事業承継やM&Aによる非上場株式の譲渡、相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例などに影響が出る可能性があります。譲渡金額などが高くなる場合は、早めに専門家と相談することをおすすめします。