目次

  1. 砂利をダンプで運ぶ事業で創業
  2. スーパーゼネコンで得たノウハウを還元
  3. 下請けから元請けにチャレンジするも赤字工事ばかり
  4. 作業員を正社員へ 工事の質を安定させるため
  5. 仕事の規模拡大に伴いパソコンなどの機器を刷新
  6. 一時的に案件数は減っても ドローン測量にチャレンジ
  7. ICT施工が条件の工事を先に受注 幹部を納得させる
  8. 作業時間が80%削減 残業はほぼゼロ 新規顧客は3倍
  9. 楽しみながら取り組むことが大事
創業当時の様子(巴山建設提供)
創業当時の様子(巴山建設提供)

 巴山建設は巴山さんの祖父の巴山明さんが、建設土木工事などで使う砂利をダンプで運ぶ仕事を手がける巴山建材として、1950年に創業したのが起源です。

 巴山さんの父親である2代目、現会長の巴山健一さんの代になると、建設土木事業にも着手するように。1987年に現在の巴山建設に社名変更すると共に、運搬事業は巴山興業を設立し、継続。巴山興業は産廃事業にも着手するなど、巴山グループとして事業を拡大していきます。

多摩川にかかる「関戸橋」の架替え工事をしている様子(巴山建設提供)
多摩川にかかる「関戸橋」の架替え工事をしている様子(巴山建設提供)

 現在は近隣の自治体や東京都、国土交通省の工事なども直接受注。台風などの災害対策や被災後の復旧工事などにも取り組んでいます。

 自宅と会社が同じ場所にあったこともあり、幼いころから会社に遊びに行っていた巴山さん。「ダンプの助手席に乗って、従業員と一緒に現場に行ったりもしていましたね」と、当時を振り返ります。

 大学卒業後は大成建設に入社し、施工管理業務などに従事しながら、大企業ならではの効率化された仕事の進め方や、先端のITツールなどを学び、数年後に家業に入社。還元していきます。

 大成建設で学んだことは、綿密な打ち合わせをし、的確なスケジュールを作成した上で、計画的に仕事を進めていく工程管理、育成制度、PCやCADの導入などです。

 工事事業に着手した当初は、ゼネコンから受ける下請け業務がすべてでしたが、1995年ごろからは今後を見据え、施工管理を担える人材の採用も含め、自治体や東京都などの工事を直接受注していきます。

 一方で工事作業は、外部の協力会社にお願いしていました。そのため工事ごとに協力会社や作業員が異なるため技術力が安定せず、入札価格をオーバーする赤字工事が大半でした。

これまでの取り組みを話す巴山さん
これまでの取り組みを話す巴山さん

 そこで巴山さんは、重機オペレーターや作業員などの現場メンバーも正社員として採用し、自社で育てていくことで、工事の質安定を目指します。

 ただ当時、建設土木業界は不況であり仕事量は潤沢ではなく「なぜ、このような状況下で正社員を採用するんだ」と会社の幹部からは大反対されます。しかし、巴山さんは折れませんでした。未来を見据えた際に必ず糧になると説得を続け、作業員の正社員雇用を進めます。

 実際、仕事がなく正社員雇用した作業員の手が空くこともありました。その際には作業員を他の会社で働いてもらうよう、懇意にしているゼネコンや協力会社にお願いすることで、対応しました。

 ただ、中には建設土木工事以外の仕事もあり「解体工事がしたくて巴山建設に入ったんじゃない」と、今度は従業員から不満の声が挙がりました。しかしこちらでも、この先の会社のためだと従業員に頭を下げて理解を仰ぎ、承諾してもらいます。

 数年経つと巴山さんの目論どおり、工事の質は安定します。赤字体制からの脱出に加え、技術自体が高まったことで受注も多く取れるようになり、売上も増加。外部で働くようなこともなくなりました。

 仕事は量だけでなく、規模が大きく内容が複雑な案件も着手するようになっていきました。図面も複雑になっていき、既存のPCや設備では対応できなくなりました。そこで先端のCAD図面が使えるハイスペックなPC、美しい図面が印刷できる高機能な印刷機やコピー機もあわせて購入することで、さらなる仕事の質向上に努めます。

ドローンを使った測量(巴山建設提供)
ドローンを使った測量(巴山建設提供)

 施工管理だけでなく現場の工事も積極的に取り組んでいた巴山さんは、以前から工事の最初の段階で行う測量の手間、特に水平や直角の基準を定める「丁張り」という作業を、どうにかしたいと考えていました。

 そんな折、ドローンにより丁張りをすることなく測量が行えるICT測量を知ります。これだと思った巴山さんは、積極的に技術を学んでいきます。ただ当時は今のように講習会などは開催されていませんでしたし、操作マニュアルなども充実していませんでした。

 そこでドローンメーカーの技術者に、測量に関する操作方法や写真の撮影方法を直接聴くなどして、ドローン測量の知識や技術を体得していきます。2021年に社長に就任すると、ドローン測量を専門に行う技術システム部を設け、3人のメンバーを抜擢。

 自身が体得したドローン測量の手法をマニュアル化した資料も含め、技術の伝搬ならびに、後進の育成にも注力していきます。

自ら作成したドローン測量のマニュアル
自ら作成したドローン測量のマニュアル

 メンバーは10人いた施工管理者からアサインしました。以降は現場の監督仕事はしない専任としたため、全体で受ける仕事量は減らす必要がありました。「一時的に案件数は減りますが、先を考えた場合には仕方のない選択だと考えました」と、巴山さんは先を見据えた経営判断を大切にしていることを繰り返します。

 建設土木工事では、測量、設計、施工、検査、納品といった工程が一般的です。ICT施工は徐々に浸透していきますが、特に中小企業は測量や施工といった特定の領域のみICTで行っているため、「そこまで成果が出ませんし、ビジネスの旨味はありません」と巴山さんは言います。

 巴山さんはICT施工のすべての工程を自社で行うことを決意。設計においては3DCAD図面が必要のため、図面を作成できるソフトウェアを購入。ここでもまずは自分が先頭になって技術を学ぶとの姿勢を見せます。さらには、3DCADの専門人材も採用しました。

3DCADの様子(巴山建設提供)
3DCADの様子(巴山建設提供)

 ドローンや3DCADは数十万円から100万円ほどの金額のため、それほど大きな投資ではありません。一方、ICT施工に必要なICT重機は従来重機のおよそ倍の約4000万円。まわりへの説得も含め、一気に導入ハードルが高まります。

 しかし、ここでも巴山さんは「ICT施工を一貫して行うようになれば、業務の効率化が一掃進むのはもちろん、もっと多くの仕事が取れるようになる」と自分の判断を信じ、強行します。

 ICT施工が条件の案件を先に落札し、ICT重機を買うしかない状況をつくることで、社内の幹部の首を縦に振らせることに成功したのです。

 トップダウン的な取り組みですが「もちろん数字的な裏付けもありましたよ」と、巴山さんは言います。財務状況を確認していたのです。購入が可能であること、リースよりも購入した方が長い目で見るとメリットが多いことなど、直感的、定性的ではない、定量的な判断軸も大切にしています。

 世の中の一歩先の技術を、まずは自分が先頭になって体験してみる。その上で業務に使えるのかどうか、さらには財務的にも会社に利益をもたらすと考えたら、まわりから見れば大きな決断や投資に見えても、ある意味自分の我を押し通す。巴山さんの経営スタイルが窺えます。

 現在ではより高精度な画像を撮影できる高性能なドローンも保有。3Dプリンターや最新の測量機、ICT重機は20台にまで増加するなど、積極的な投資を続けることで、さらなる業務の効率化を推進しています。

図面をインプットすれば半動自動で稼働するICT重機(巴山建設提供)
図面をインプットすれば半動自動で稼働するICT重機(巴山建設提供)

 測量では約80%もの作業時間を削減。施工においてもICT重機であれば、3DCADで作成された図面を元に重機が半自動で作業を行うため、以前は2人1組みで状況を確認しながら行っていた重機作業が、オペレーターだけで行えるようになりました。

 特に恩恵を感じているのが、施工管理者たちです。以前であれば現場作業が終わってから、事務所で図面作成などを行う必要がありました。しかし今は、技術システム部が担ってくれるように変わったため、残業時間はほぼゼロになりました。以前より多くの現場を担当できるように、後進の育成にも注力できるようになりました。

 ICT施工を推進している国土交通省や東京都を中心に、新規顧客数は3倍にも増加。これらの結果、売上もICT施工に着手する前と比べ41億円に倍増しました。

 さらには災害後の復旧工事など、スピード感が求められる一方で人が入っていくには危険性が伴う状況下においても、ドローンを飛ばすことで測量が可能になる、との効果も生んでいます。

 実際、2019年の台風による大雨で崩壊の一歩手前までいった日野橋の復旧工事においては、従来2カ月ほどかかっていた測量期間を約1週間で終了させ、地域の重要なインフラの早期普及に貢献しました。

 ICT施工は国土交通省の資料によると、自治体工事における実施率は23%(2023年度)と、あまり浸透していないように思えます。

 特に、すべての工程で取り組んでいる同業者は、「あまり見たことがありません。おそらく、自分の得意以外の領域を学ぶことは、時間も労力も使うからだと思います」と、巴山さんは推測します。

 というのも、ドローンや3DCADなどの導入において、技術が日進月歩の領域でもあるため実際には、日々勉強するなどの努力や時間の捻出が必要だからです。

 だからこそ、新しい技術を楽しみながら学ぶことのできる感覚や、意識が大事だと巴山さんは言います。実際、ドローンに関しては測量として使う前から趣味として飛ばしており、現場の撮影を行うなど、楽しみながら使っていました。

 「正直、最初は先行投資ですからまわりの説得も含め、苦労が多かったです。技術に関しても休日を返上して勉強する必要もありました。ただ、自分にとってはドローンがまさにですが、半分趣味のようなもので、新しい技術に触れることが楽しいんです」