目次

  1. 食べ残し持ち帰り促進ガイドラインとは
  2. 食べ残し持ち帰り促進ガイドラインの対象
  3. ガイドラインが法的留意点を整理
  4. 飲食物を顧客に提供する行為の契約
  5. 提供された飲食物の持ち出しに関する考え方
  6. 食べ残し持ち帰りの飲食店の利用規約
  7. 食べ残し持ち帰りに関係する法律
    1. 製造物責任法
    2. 食品衛生法
    3. 食品表示法
    4. 廃棄物処理法
  8. 持ち帰った飲食物が原因で消費者に損害が発生した場合の飲食店の責任
  9. 食べ残しの持ち帰りで事業者が留意すべき事項

 消費者庁の公式サイトによると、日本は家庭系・事業系食品ロスについて、2030年度までに2000年度比で半減させるという目標を定めています。

 食品ロス量の過半を占める事業系食品ロス量のうち、約4分の1が外食産業から発生しており、その排出要因の約5割が消費者による「食べ残し」と推計されています。

 食べ残しに対しては「持ち帰り」が有効ですが、飲食店の法的及び衛生的なリスクがあったりするため、持ち帰りは積極的に取り組めないという事情があります。

 そこで、食事の持ち帰りの法的責任について、消費者の自己責任を前提としつつ、民事上のトラブルを回避するために留意すべき事項を取りまとめた「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン」を厚労省と消費者庁が2024年12月に取りまとめました。

 食べ残し持ち帰り促進ガイドラインの対象となるのは、一般食堂、レストラン、ホテルなど、特定の場所で食事を提供することを前提とする飲食店です。学校、病院などの集団給食施設や、テイクアウト、デリバリーは対象外とされています。

飲食店が多く集まる大阪・道頓堀
飲食店が多く集まる大阪・道頓堀

 飲食店は、提供する食品の安全性を確保する必要があります。そのうえで、顧客から食べ残しを持ち帰りたいという申し出を承諾するときは、食べ残し持ち帰りについて食中毒等の可能性があることを説明することなどが必要です。

 そこで、ガイドラインは、まず法律関係を整理し、顧客に食中毒の可能性があることなどを説明するときの参考資料として、サンプルを示しています。

消費者向けの食中毒細菌等の特徴とその対応チラシ
消費者向けの黄色ブドウ球菌・セレウス菌・腸炎ビブリオの特徴とその対応チラシ
消費者向けの食中毒細菌等の特徴とその対応チラシ
消費者向けのウエルシュ菌・カンピロバクター・サルモネラ属菌・腸管出血性大腸菌の特徴とその対応チラシ

 ガイドラインによると、飲食店が顧客に飲食物を提供する行為は、単なる販売ではなく、食品の提供、給仕、そして飲食の場の提供といった複数の要素を含む複合的な契約であると考えられます。

 飲食店は、顧客が店内で食べることを前提に、食品衛生上の安全性を確保した飲食物を提供しています。一方で、顧客には飲食物を店の外に持ち出さないという債権的制約が課されており、顧客が自由に食べ残したものを持ち帰ることができるわけではないと考えられます。

 そのため、顧客が持ち帰りを希望し、了承した場合、新たな合意をしていると解釈できます。

 この新たな合意は、持ち帰った食べ残しを顧客が消費することを想定したものであるため、飲食店は、顧客が持ち帰った食べ残しを安全に消費するための注意事項の説明を行うなどの一定の義務を負うと考えられます。

 具体的には以下のようなことが考えられます。

  1. 持ち帰る飲食物を特定して提供する(飲食店は、生ものなど類型的に食中毒の可能性が高い飲食物については食べ残し持ち帰りについて合意しない義務を負う)
  2. 飲食物の種類、状況等を踏まえ、持ち帰って食べる際の安全性に関する注意事項の説明をする

 飲食店としては、特定の場所で飲食することを前提として提供した飲食物を「持ち帰る」ことを求める顧客との間で、自らの法的リスク等の予見可能性を高めるため、あらかじめ食べ残し持ち帰りに当たっての利用規約を定めておくことが有効である、とガイドラインは勧めています。

 飲食店が利用規約を定めた上で、顧客との間で利用規約の内容を合意することで、飲食店と顧客との間における食べ残し持ち帰りに関する合意の内容を明確化することができます。

 この合意は、食べ残し持ち帰りにおけるリスクの把握及びリスク低減のための行動をとることができるようになり、また、飲食店は法的リスク等の予見可能性を高めることができるようになります。

 ガイドラインは、利用規約には、食べ残し持ち帰りの際に顧客が消費者として遵守すべき事項、飲食店と顧客の責任関係の明確化に関する事項、損害賠償請求に関する確認条項等を定めておくことが考えられるとしています。

第A条 目的・基本的考え方
1.食品ロス削減はSDGsにおいても国際目標が設定され、我が国においても課題となっています。おいしくお食事を召し上がっていただく上で、食品ロス削減の観点からも、お客様にまずその場で食べきっていただくことが最も重要であるものの、どうしても食べきれなかったものについては、お客様の御要望があれば持ち帰って食べきっていただくことが食品ロス削減のための有効な方策といえます。このような観点から、当店は食べきれなかった飲食物の持ち帰りの促進に取り組んでいます。
2.食べきれなかった飲食物の持ち帰りに当たっては、一定の食中毒等の可能性があるので、お客様においては当店が御説明する衛生上の注意事項を十分御理解いただき、お客様の自己責任の下に行っていただきます。
第B条 遵守事項
1.お客様が当店で提供された食事で食べきれなかったものをお持ち帰りになる場合においても、生ものや半生などの加熱の不十分な食品などの一部の飲食物はお持ち帰りいただけません。
2.(お客様がお持ち帰りされる場合には、当店の指定する容器を利用して、お持ち帰りください。)
3.食べきれなかった飲食物の容器への移し替えはお客様御自身で行っていただきます。
4.飲食物の持ち運び及び保管に当たっては、御自身の責任の下に管理してください。
5.お客様がお持ち帰りされた飲食物を御家族等に譲渡する場合も、当店から御説明させていただく注意事項につき、譲渡先の方に御説明ください。
6.御家族等にアレルギーがある場合には、譲渡しないでください。
第C条 確認事項 お客様が当店で提供された食事を食べきれずにお持ち帰りされる場合、お持ち帰りの際又はお持ち帰り後のお客様の行為に起因する食中毒等の事故については当 店では責任を負いかねますので御了承ください。
※上記のほか、食べ残し持ち帰りに係る事項について顧客がSNSで事業者の名誉・信用等を毀損するような発信をするなどし、損害が生じた場合には、損害賠償請求する可能性がある、という確認条項を設けることも考えられます。

食べ残し持ち帰り促進ガイドライン

 飲食店が食べ残し持ち帰りを推進する上で、関係する法律として、製造物責任法、食品衛生法、食品表示法、廃棄物処理法などがあります。

 顧客に飲食物を提供した段階で、食中毒の原因となるだけの細菌が付着していて食品事故が発生した場合は、製造物責任法にもとづく製造物責任を負う可能性があります。

 しかし、顧客が食べ残したものを持ち帰るとき、または持ち帰った後に細菌が付着・増殖することで食品事故の原因が生じた場合は、当該飲食物を提供した時点で、製造物責任法が定める「引き渡し」が終了しており、製造物責任は生じません。

 飲食店が飲食物を提供する行為は、「販売」に該当するため、食品衛生法の規制を受けます。ただし、顧客が持ち帰る時点では、飲食店の「販売」行為は終了しており、新たな義務は生じません。

 食品衛生法では、食べ残し持ち帰りを禁止する規定もありませんが、食品に異物が混入していた場合、どの時点で混入したかは保健所等の事後的な調査を経て初めて明らかになるため、保健所等の調査等の対象にはなります。

 飲食店で提供される飲食物は、食品表示法の対象外とされています。そのため、食べ残しを持ち帰る場合でも、表示義務は発生しません。

 食べ残しを持ち帰る時点では廃棄物に該当せず、顧客が持ち帰った後は家庭からの一般廃棄物になるため、事業者には廃棄物処理法上の責任は生じません。

 店内で食べることを前提に食品衛生上の安全性が確保されている飲食物を食用に供する目的で持ち帰る場合には食中毒等が生じる可能性があります。

 飲食店は、食べ残し持ち帰りについて合意する際、顧客に対して、生ものは禁止するなど持ち帰る飲食物の種類や状態、保管方法、食べるときの注意点などを説明する義務があります。この説明を怠り、顧客に損害が発生した場合、飲食店は損害賠償責任を負う可能性があります。

 免責合意を結ぶことも考えられますが、免責条項が無効となる場合もあるため注意が必要です。

 食べ残しの持ち帰りは、消費者自身の自己責任において行われるべきものですが、食中毒などの健康被害を防ぐためには、事業者も十分な配慮が必要です。ガイドラインは、事業者が守るべき食品衛生上の注意点も示しています。

  • HACCPに沿った衛生管理をすること
  • 持ち帰るときは、衛生管理計画に従い十分に加熱されている食品、常温での保存が可能な食品、水分含量が少ない食品に適する食品を検討するよう伝える
  • 持ち帰りの容器は、事業者が衛生的に保管し、清潔な容器、はしなどを提供する
  • 容器への移し替えは、原則、持ち帰る消費者に実施させる
  • 消費者にはチラシなどで保管方法、異味・異臭時の対応などの注意事項を伝える