報告しない部下の理由や心理とは?上司の改善点や対策を専門家が解説

報告しない部下がいる組織は、意思決定の遅延やリスク管理の観点で重大な課題を抱えています。この記事では、部下が報告しない理由やその際の心理、それを踏まえての上司・組織の対策方法について社会保険労務士が解説します。
報告しない部下がいる組織は、意思決定の遅延やリスク管理の観点で重大な課題を抱えています。この記事では、部下が報告しない理由やその際の心理、それを踏まえての上司・組織の対策方法について社会保険労務士が解説します。
報告しない部下がいると困るのは、本質的には情報共有の不十分さによって組織全体のパフォーマンスが低下してしまうからです。
適切なタイミングで報告がなされない場合、意思決定の遅れにつながったり、リスク管理上問題が生じたりする可能性があります。また、進捗状況が把握できないためにプロジェクトが思わぬ方向へ進んでしまうなど、組織としての目標達成を阻害することも少なくありません。
さらに、現場が抱えている課題やトラブルを上層部が理解できないため、必要なサポートやリソースを適切に割り当てることが難しくなる問題も起こります。
報連相(報告・連絡・相談)は、組織の生産性や信頼関係を高めるうえで欠かせない仕組みです。適切な報連相が行れることによって上司は部下の進捗を正確に把握でき、プロジェクトの進捗把握やボトルネックの解消に動くことができます。また、チームメイトとの情報共有のため連絡を適宜行うことや、トラブルが生じる前に不安や疑問を解消するため相談を行うことは、健全な事業の成長のために極めて重要です。
チーム全体のパフォーマンスを維持向上させるためにも、部下とのコミュニケーションを適切にとれるよう関係性を構築することは、上司にとって必須課題といえます。
「報告」は、単に上司への情報伝達の手段にとどまらず、部下の成長を促す重要なプロセスでもあります。適切なタイミングや伝達する情報の粒度、手法を見極められるかどうかは、部下自身の技量に大きく依存するからです。
しかし、その技量を身につけるには、実際に報告そのものや内容に対して、上司からフィードバックを得ることが欠かせません。上司は部下の業務を的確に評価し、改善点や次のステップを具体的に示すことで、部下の思考力や問題解決力を高めることができます。
結果として、報告を通じた指導によって部下は自律的に学習し、主体性を持って業務に取り組めるようになります。これによって組織全体の情報共有レベルも向上し、成果の最大化につながるのです。
部下が報告してくれないという事実によって悩んでいる上司はたくさんいます。ここでは、実際に過去筆者が聞き取りを行った内容や、調査結果を踏まえて代表的なものを解説します。
上司が多忙であることや、報告のために時間を取ってくれないという予測が立つ場合、部下は報告を遠慮してしまうことがあります。
リクルートマネジメントソリューションズが2020年に行った調査では、直属の上司に言いたかったのに言えなかったこと、言いにくかったことがあるかという問いに対し、「上司も多忙なため」「忙しそう」という理由で遠慮した経験があるという回答が寄せられています(参照:上司・部下間コミュニケーションに関する実態調査|リクルートマネジメントソリューションズ)。
部下自身が報告対象となる情報の重要性を正しく認識していないために、報告を怠る場合もあります。部下自身が「些細なこと」「自分ひとりで処理可能であること」と判断し、報告を不要と捉えてしまうのです。
どんな小さな情報でも、その背後に潜むリスクや改善のヒントを見逃してはいけません。部下には情報の重要性を再認識させ、適切に報告する習慣を身につけさせることが重要です。
部下が報告を怠る要因の一つとして、「誰にどこまで報告すればよいのかわからない」という問題が挙げられます。
組織内の役割分担や指示系統が不明確な場合、部下は情報を報告すべき相手を正しく選ぶことが難しくなります。結果として「この情報は上司Aか上司Bのどちらに伝えるべきか」「誰からどの順で報告すべきか」などを判断できず、最終的に報告そのものを後回しにしてしまいがちです。
部下が報告を怠る理由として「報告するモチベーションがわかないから」という問題も挙げられます。これは、報告が自身の評価やキャリアにどう役立つのか明確に感じられなかったり、報告に対して正当なフィードバックや感謝が得られなかったりする場合に起こります。
たとえば、せっかく時間をかけて状況を整理し報告しても、適当にあしらわれたり調査成果を認めてもらえなかったりすると、部下は報告する意義を見失いがちです。さらに、忙しさに追われるなかで労力をかけても得られるリターンが見えにくければ、報告そのものが無駄な行為と捉えられ、結果的にモチベーションが低下してしまいます。
報告しない部下の心理についてはさまざまなものがあります。ここでは、島根県立大学の村山誠教授の研究を参照し、報告しない部下の心理を探ります(参照:組織内の情報伝達時における心理的な負担に関する研究―大学生が所属する組織に焦点を当て―|島根県立大学 総合政策学会 『総合政策論叢』第46号抜刷 〈2023年11月発行〉)。
報告など情報伝達に関する心理的な負担について、する側の心理的な負荷が高くなる状況は、下記のようなものであることがわかっています。
なお、このなかでも「相手の機嫌が悪い」「相手が忙しい」など、相手側の状況によって報告者の心理的負荷が上がることが証明されています。
失敗やミスなどの悪い情報の報告をする場合、報告する側が最も多くとりうる行動は「伝えなくてもよい情報であれば、伝えない」というものでした。これは情報の価値を主体的に判断しているもので、「伝えなくてもよい」または「聞かれることはない」と判断した場合には、自ら報告しない傾向があることがわかっています。
報告すべき内容が評価に直結するようなものであったり、著しく周囲にネガティブな印象を与えたりするようなものである場合、認知バイアスが働いてその情報を無視してしまうことがあります。
たとえば、プロジェクトによって不都合な事実や自分の仮説と異なる結果が得られた場合、それらの事実や情報を不当に過小評価したり、「不要な情報」と判断してしまうことが該当します。こうした情報こそ本来は早く報告すべきですが、それを怠った結果、ネガティブな情報が正しく共有されないという事態が起こります。結果として、実際の状況が過度に楽観的に伝わり、問題解決の機会や適切なサポートを逃してしまうリスクが高まります。
報告すべきかどうかという判断をする際に、ダニングクルーガー効果が働いて報告を意図的に怠る場合もあります。ダニングクルーガー効果とは、知識や経験が十分でない人ほど自分の能力を過大評価しやすいという状態を示す認知バイアスの一つです。
経験が浅い部下は「これくらいなら自分で対処できる」「報告するほどの問題ではない」と誤って判断し、結果として重要な情報を見落としたり、報告を怠ったりすることがあります。これは情報の取捨選択がうまくできず、自らの判断を過信してしまうためです。
しかし、こうした過信が続くと組織内でのリスクや課題が適切に共有されず、早期対応や問題解決の機会を失う可能性が高まります。上司としては、部下の報告を奨励しつつ、必要に応じてフィードバックや指導を行うことで、思わぬ見落としを防ぐマネジメントが重要です。
報告しない部下に対して改善を促すには、上司側も適切な態度や工夫で「報告させる」マネジメントを行うことが重要です。ここでは、上司が改善すべきポイントについて部下の報告しない理由や心理から解説します。
上司が常に「忙しい」「時間がない」といった雰囲気を強調したり、不機嫌そうな様子を見せたりしていると、部下は「ちょっとした報告や相談で邪魔をしてはいけない」と感じ、情報共有のタイミングを逃してしまいがちです。これにより、些細な問題が大きくなるまで放置されるリスクも高まります。
そこで、上司自身は自分の忙しさを過剰に口にせず、たとえ忙しくても余裕を見せる姿勢を心がけることが大切です。また、不機嫌な態度を取らないよう意識し、落ち着いて接する姿勢を示しましょう。
部下が「伝えなくてもよい情報ならば報告しない」と判断しがちな背景には、上司から仕事への関心を感じられないことで「この件は重要ではない」「上司は求めていない」と思い込んでしまう心理があります。
そこで、上司側は常日頃から部下に任せた仕事の進捗や成果に積極的に興味を示すことが大切です。具体的には、定期的に声をかけて「どう進んでいるか」「何か困っていることはないか」と尋ねる、進捗確認のミーティングを設けるなど、部下に「上司は自分の仕事に関心を持っている」と伝わる仕掛けを作りましょう。こうした姿勢を示すことで、部下は「これは上司にとっても大切な情報」と認識し、失敗やミスなどのネガティブな内容であっても、報告しやすい環境が整います。
部下が「評価に直結しそうな悪い情報は伝えたくない」と感じてしまうのは、ごく自然な心理です。報告した結果、上司から厳しく責められたり、評価が大幅に下がったりするのではないかという不安が、認知バイアスを強め、情報を隠そうとする行動を引き起こすからです。
上司側は、ネガティブな事柄でもまずは受け止め、責任を追及するよりも「今後どうすればよいか」という建設的な議論に重きを置くことが大切です。たとえ失敗であっても報告を歓迎し、改善策を共に考える姿勢を示すことで、「報告するほど損をする」という認識を取り除き、部下が安心して必要な情報を共有できるようになります。
自分の能力を過大評価するダニングクルーガー効果によって、経験の浅い部下は「自分で対処できる」という過信から重要な情報を見落としたり、報告を怠ったりしがちです。そのため、情報の内容や粒度にかかわらず「タイミングが来たら報告する」というルールを作っておくとよいでしょう。
仕事を振る際、上司はあらかじめ想定される工数とフェーズごとに報告タイミングを設定しておきます。たとえば、新しい業務を任せる際には「このフェーズまで進んだら報告すること」「まずは毎日、進捗や作業内容を共有すること」といった形で指示すると、部下の「報告しなくてもよいかも」という迷いを減らせます。
あらかじめ指示しておくことで、部下が自分の判断を過信した結果として状況が動いていたとしても、早期にその事実を確認できます。また、部下が自分の判断を過信し続けるリスクも抑えられ、組織として必要な情報を逃さず得られるでしょう。
報告しない部下がいる企業が取るべき対策や、報告しない部下を増やさないための工夫を紹介します。
失敗やミスの報告をためらわせる最大の要因は「怒られるかもしれない」「評価が下がるのではないか」という不安です。これを解消するためには、組織としてネガティブな情報の報告を歓迎する姿勢を明確化し、誤りから学ぶ文化を推進する必要があります。
報告を歓迎する姿勢を示すには、心理的安全性を高める取り組みが大切です。例えば、コミュニケーションの機会を増やし、かつリーダーや管理職が率先して失敗談を共有するなど、自己の保身に走らずリスクを取って情報を伝えた経験を話すことなどが有効です
鳥取県立大学の村山教授の研究では、情報伝達の際の心理的負荷が大きくなる伝達手段として、電話(50.8%)Online(49.2%)が挙げられており、逆に心理的負荷が小さくなる伝達手段としては、メール(33.2%)対面(32.2%)LINE(25.1%)とされています。
注意すべきことは、電話やOnline、メールでの報告は対面の報告に比べて心理的負荷が大きいという事実です。そのため、出勤を求める企業では対面での報告を基本に他のツールを組み合わせていくとよいでしょう。在宅勤務やリモートワークが多い職場では、日次での報告は社内SNSや業務ツールで行うとともに、出社時に対面での報告を受ける機会を設けるなどして報告漏れを防ぐなどの工夫が考えられます。
報告を適切に行うためのスキルは一朝一夕には身につきません。そのため、組織として新人研修や階層別研修などの段階で、報連相(報告・連絡・相談)の具体的な手順や心構えをカリキュラムに盛り込み、実践的に学ばせることが大切です。
たとえば、ロールプレイングやケーススタディを用い、報告のタイミングや要点のまとめ方、上司・関係者とのやり取りの流れを繰り返し体験させると効果的です。また、研修後も定期的なフォローアップや勉強会を実施し、実務での成功事例や失敗事例を共有し合う場を設けることで、報告の重要性と正しいプロセスを再認識できます。
こうした取り組みを通じて、部下が自然に報告を行う文化を育み、報告しない部下を量産しない組織作りを実現できます。
報告しない部下は組織にとって大きな問題ですが、そうさせてしまう原因は上司のマネジメントや失敗を許さない組織風土にあります。なぜ報告が上がってこないのか根本的な原因を探り、適切な対処を行って企業の発展につなげましょう。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。