目次

  1. 本社機能移転動向、九州が転入超過トップ
  2. 埼玉が初の転入超過トップ 東京は転出超過
  3. 本社機能移転増加の背景 コスト抑制・人材戦略

 コロナ禍に都心回避で企業移転が進み、コロナ禍が落ち着くと再び都心への回帰が見込まれていました。しかし、2024年度に他都道府県に本社、および本社機能の移転は、1万6271社(前年度比18.7%増)となりました。コロナ禍の落ち着きに伴い経済活動が本格化し、人流の回復や活発な需要に合わせて本社を移転する動きがさらに強まっています。

 東京商工リサーチのレポートによると、地区別で転入超過数(転入企業数から転出企業数を差し引いた数)が最も多かったのは九州で、プラス148社でした。

地区 2023年度 2024年度
北海道 1 35
東北 ▲11 30
関東 ▲272 ▲284
中部 174 147
北陸 47 14
近畿 ▲100 ▲96
中国 36 9
四国 9 ▲3
九州 116 148

 九州では、TSMC(台湾積体電路製造)の進出などを背景に製造業と情報通信業がすべての県で転入超過となっており、半導体に加え、自動車の主力工場の進出が、関連企業や取引先の吸引力を強めたと分析しています。

 九州に次いで転入超過が多かったのは中部で、プラス147社でした。中部はトヨタ自動車やスズキなどの大手メーカーが本社を置く工業が盛んな地区で、関東・近畿のどちらへも商圏を広げやすい立地特性を持ちます。特に関東からの転入が目立ち、中部5県のうち愛知県(マイナス20社)を除く4県で転入超過となりました。

 製造業の転入は、九州と中部で特に際立っており、東北(プラス5社)以外では製造業が転入超過となった地区はありませんでした。 製造業の誘致は、投資規模が大きく雇用創出力も強いことから、地域経済の活性化や地場産業の構造転換を促す起爆剤として期待されます。

 一方、転出超過となったのは関東、近畿、四国の3地区です。特に関東はマイナス284社と圧倒的に多く、4年連続で転出超過が続いています。

 県別の転出入状況を見ると、転入超過トップは埼玉県で、プラス250社でした。主に東京都からの移転が多く、2年連続で転入超過数が大幅に増加しています。 農・林・漁・鉱業を除く9産業で転入超過となり、特にサービス業他が転入超過数の最多を占めています。

都道府県 2023年度 2024年度
北海道 1 35
青森県 3 11
岩手県 21 6
宮城県 ▲68 16
秋田県 ▲3 7
山形県 1 0
福島県 35 ▲10
茨城県 96 88
栃木県 46 46
群馬県 48 95
埼玉県 52 250
千葉県 104 192
東京都 ▲631 ▲1158
神奈川県 ▲30 172
新潟県 19 ▲1
富山県 ▲4 ▲6
石川県 34 26
福井県 17 ▲6
山梨県 24 32
長野県 68 95
岐阜県 18 11
静岡県 60 59
愛知県 ▲9 ▲20
三重県 37 2
滋賀県 22 36
京都府 67 4
大阪府 ▲217 ▲264
兵庫県 31 67
奈良県 ▲4 40
和歌山県 1 21
鳥取県 9 ▲8
島根県 6 ▲2
岡山県 ▲8 13
広島県 21 5
山口県 8 1
徳島県 1 1
香川県 6 2
愛媛県 8 ▲7
高知県 ▲6 1
福岡県 22 32
佐賀県 1 22
長崎県 9 1
熊本県 34 31
大分県 ▲1 4
宮崎県 17 7
鹿児島県 10 21
沖縄県 24 30

 転入超過2位は千葉県で、プラス192社でした。前年度の1位からランクダウンしましたが、埼玉県と同様に東京都からの転入超過が中心です。金中でも卸売業の転入超過数が最も多くなっています。

 転出超過数で群を抜いているのは東京都で、マイナス1158社でした。 東京都では10産業すべてで転出超過となっています。転入数は増加傾向が続いていますが、2023年度に減少した転出数が2024年度に再び増加に転じ、隣接する埼玉県、千葉県、神奈川県への流出が強まった結果、転出超過数が拡大しました。

 東京都以外にも、大阪府(マイナス264社)や愛知県(マイナス20社)といった大都市圏の中心都市から周辺都市へ転出する傾向が目立っています。

 移転企業の損益状況を、移転年度から遡って2年以内の最終利益で分析した結果、2024年度に本社・本社機能を移転した企業のうち、黒字企業が67.1%(1805社)を占めました。

 前年度まで2年連続で赤字企業の割合が拡大していましたが、2024年度は一転して黒字企業の割合が増加しています。このことから、赤字を解消するためのコスト削減を主目的とした移転よりも、商圏拡大や需要の取り込み、人材獲得といった「攻め」の移転が増加した可能性が考えられます。

 東京商工リサーチは、移転が加速した複数の要因を挙げています。一つは、経済活動の本格化に伴う活発な需要に合わせた動きです。また、コロナ禍が落ち着き、リモートワークからオフィス出社に戻す企業が増える中で、都心の上昇が続くオフィス賃料などのコストを抑制しようとする中小・零細企業の動きが強まっています。

 さらに、都心を離れて地方マーケットを開拓する戦略的な移転も見られます。 深刻化する人手不足に対応するため、人材獲得や従業員の働き方改革を狙った移転もトレンドになっているようです。