事業計画書の書き方を実例をもとに解説 融資や経営理念の浸透に寄与
事業計画書の作成は、融資や助成金の際に役立つだけでなく、経営理念(ミッション・ビジョン)や未来像を明確にして、社員の意識を高める有効な手段になります。事業計画書の基本的な書き方や盛り込むべき項目、注意点や社員に浸透させるためのポイントなどを実例をもとにわかりやすく解説します。
事業計画書の作成は、融資や助成金の際に役立つだけでなく、経営理念(ミッション・ビジョン)や未来像を明確にして、社員の意識を高める有効な手段になります。事業計画書の基本的な書き方や盛り込むべき項目、注意点や社員に浸透させるためのポイントなどを実例をもとにわかりやすく解説します。
事業計画とは、経営理念・ミッション・ビジョンなど、会社の目標を達成するための設計図のような役割を果たします。会社の目指すべき方向性と未来像を明確にし、全社員がどのように行動すれば、「あるべき姿」に近づけるのかを指し示すものです。
事業承継した後も、成り行きで経営するより、しっかりと計画を立てて実行していくことが重要です。事業計画は、会社が永続、発展していくためには欠かせないものになります。事業計画がなければ、社員全員が同じベクトルに向かうことが難しくなり、有能な力を発揮しにくくなってしまいます。
事業計画を作る最大のメリットは、社員のモチベーションの向上です。今後の会社の未来像、そこに向けた社長の考え方を明文化して伝えることで、一丸となって目標に向かうことが可能となり、組織力が高まります。
また、事業計画書には副次的な効果もあります。融資を受ける際に、営業担当者が稟議書を書きやすくなって金融機関からの評価があがることや、自社の経営方針を文書化することにより、助成金申請の際に活用できることが挙げられます。
中小企業の経営者からは「現場が忙しくて、事業計画を作る時間がない」という声もよく耳にします。しかし、少しだけ時間を作って、しっかりとした事業計画を立てることで、利益が倍になるのであれば、取りかかる価値はあると考えます。
事業計画を立てる時には、まず現状把握が大切です。自社が置かれている市場環境や競合優位性について考え、現状をしっかり把握しておきましょう。
現状把握の方法には、財務分析、SWOT分析、ポジショニングマップなどがあります。それぞれについて、説明します。
・財務分析
財務状況など数字の視点から同業他社と比べて、自社の特異性を把握します。
・SWOT分析
自社や業界自体のプラス面とマイナス面を分析します。指標としては、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)となります。
・ポジショニングマップ
競合と差別化できるポジションを把握するために活用します。縦軸と横軸で構成される2次元マップにするのが一般的です。
自社の現状把握ができたら、次に未来像を考えます。会社の将来像、事業展開、組織のあり方などを、できるだけ明確に描きます。この際、ターゲット顧客を明確にして、自社の商品サービスの強みをしっかり考えることも大切です。
自社の強みが、なかなか思い浮かばないという経営者や経営者候補の方も多いでしょう。そんな時は、顧客に「なぜうちの商品やサービスを利用しているのか」と聞いてみるのも一つの方法です。案外、顧客の方が自分では気づかない強みを知っているかもしれません。
現状と未来のギャップを埋めるために、今から取り組むべきことも考えていきます。ヒト・モノ・カネという経営資源の視点、または、売上高、利益率、固定費という経営データの視点から、やるべきことを書き出していきます。
事業計画書に記載する項目は、自社の状況に合わせて自由に設定して大丈夫です。ただし、一番大切なのは、社員のモチベーションが上がる事業計画にすることです。社員の心を動かすような経営理念、未来像、行動計画については記載したほうが良いでしょう。
経営理念は、会社の目指す方向性や使命などを指します。社長を含めた全従業員が、何のために毎日働いているのかという経営の軸になる部分で、全ての判断基準になります。
社員だけでなく、取引先、事業関係者の共感を得られるようにするべく、社会性を意識しながらつくることが大切です。会社概要、創業の想いなども事業計画に盛り込むと良いでしょう。
後継ぎの方は事業計画を作るにあたって、先代社長と話し合う機会を作り、創業の思いを聞くことが、事業承継を円滑に進める一番のポイントになります。
次に未来像も記載しておきましょう。5年後、10年後の組織や、事業展開、社員の処遇について、しっかりと伝えておくことが重要です。具体的には、以下の項目が挙げられます。
・未来の自社の組織図
・未来のビジネスモデル
・中期利益計画(今後5年程度の予測損益計算書)
・人事制度(等級制度、昇格条件、報酬制度、利益分配制度など)
未来像を実現するための行動計画を作ることも重要です。部署ごとに、売上アップや固定費削減のためにできることなどを挙げ、誰が、いつまでに、何をするかをしっかりと明記します。具体的には以下の項目が考えられます。
・設備投資計画
・広告宣伝計画
・採用計画
・出店計画
その他にも、休暇規定や会社のルール、ビジネスモデル俯瞰図なども事業計画に記載しておくのが望ましいでしょう。
事業計画を作成するときは、社内で通常業務をしながらではなく、休日などを利用して落ち着いた環境で作成することが大切です。一番良い方法は、ホテルや旅館などにこもり、普段とは違った視点、または俯瞰して自社のことを見ることができる環境に身をおくことです。
事業計画作成は、思いついたときに少しずつ進めてもいいですし、経営者仲間と一緒に作成合宿を開催して、24時間で集中して作り上げるやり方もあります。定期的にブラッシュアップしていくことを前提に、まずは取り掛かってみることが大切です。
事業計画を作成したら、具体性はあるか、社長の本心が込められているか、経営理念に沿っているかを、しっかり確認しましょう。金融機関からの融資を受けるためにつじつま合わせをした事業計画を作成しても、何の意味もありません。
事業計画は作っただけでは意味がなく、社員に浸透させることが大切です。経験上、ほとんどの中小企業は経営理念が無く、あったとしても社長室の壁に飾ってあるだけで、意味を成していないことが多いです。絵に描いた餅にならないよう、現場に浸透させるための仕組みを作りましょう。
年に1回は「事業計画発表会」を開いて、社員にじっくり説明することが大切です。会社の創立記念日などを利用して事業計画を発表し、終わった後に懇親会を開催することが考えられます。平日に業務を止めにくい業種の場合は、3連休の1日を使って発表会を開き、後日に代休対応を取るケースもあります。
事業計画をしっかり運用している中小企業は、社員だけでなく取引先や金融機関も招待して、事業関係者に理解してもらう機会を作っています。
事業計画が社員に浸透している企業は、手帳型や冊子型にまとめて配布しているケースが多いです。常に持ち歩いてもらい、何かに迷ったときは事業計画を確認してもらうことができます。
社員にしっかりと読み込んでもらうため、事業計画書を穴埋めにして定期的な理解度テストを実施するのも良いでしょう。
朝礼などで経営理念の唱和などを取り入れている中小企業は多いでしょう。しかし、ただ唱えているだけになっていないか、再確認が必要です。
例えば、経営理念が「中小企業を元気にする!」という会社の場合、朝出社したら「おはようございます」の代わりに「今日も中小企業を元気にしに来ました!」という挨拶に代えるのも一つの方法です。
事業計画書を作成するにあたり、現場の中小企業からよく受ける質問をまとめました。
最初からボリュームは決めずに、まずは書ける部分だけを埋めてみてください。定期的にブラッシュアップしていくうちに、より内容の濃いものになります。最初から完璧な事業計画を目指すのではなく、徐々に作り上げていく方が良いでしょう。
事業計画のテンプレートは、ネットからもダウンロードできるので、利用するのも一つの方法ですが、最初は手書きがオススメです。自分の手で書いた方が整理できますし、イメージが湧いてきます。
後を継ごうとする方によくある質問です。創業社長は強い想いをもとに会社を立ち上げていますが、後継者の場合は、先代からの事業を引き継ぐため、経営理念の更新に悩むケースが多いです。
経営理念の部分は空欄のままで、事業計画を作成し始めてみるのも一策です。作っている過程で自社のことが整理でき、思わぬタイミングで経営理念が見つかる可能性が高いです。事業計画を立てると「案外自分の会社のことを知らなかった」と気づく後継者も多く見られます。
確かによく聞く質問です。でも本当に分からないのでしょうか。まずは来年の経費を予測してみてください。
人件費や家賃や水道光熱費などはいきなり安くなったりはしません。つまり、どれぐらいの経費がかかるかはある程度の予測が立てられます。あとは、その経費を支払うために必要な売上の獲得に向かって事業計画を立てるだけです。
事業計画は状況に応じて変わっていきます。気づいたことを追記することもありますし、社会の状況に応じて臨機応変に変更していくべきです。ただし、改定するごとにしっかりと社員に説明をすることが重要です。社長が頭の中を常に社員と共有することが、事業計画を明文化する一番の目的になります。
経営理念、未来像、という風に順番通りに作ることが良いと思いますが、取り掛かりにくい場合は、利益計画から作りましょう。
例えば、仕入原価を5%下げた場合は経常利益がいくら増えるのか、従業員をあと一人増やそうと思ったらいくらの売上が必要になるのか。それらを考えてみてから、行動計画を検討していくと案外スムーズに作成が進みます。
企業の創業者は、カリスマ性を発揮したトップダウン経営で成功する事例も少なくありません。数人で始めた会社の売上規模や従業員数を10倍以上に伸ばすなど、失敗を繰り返しながらも、自社の成長と共に、自分自身も経営者として成長することができます。
一方、後継者は、自分自身が未熟にもかかわらず、既に規模が大きくなった会社を引き継ぎ、社員とその家族を守らなければなりません。だからこそ、自分自身の手で新たな事業計画をつくって、会社の未来を示し、実現するための方法を全員で一緒に考えて取り組んでいくことが必要です。「全社員経営」で、事業を発展、永続させていきましょう。
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