震災やコロナに打ち勝つ段ボール商品 技術力をブランドにした3代目
宮城県石巻市の今野梱包は、強化段ボールを使った梱包資材や商品を扱っています。3代目が、運搬に使う木製パレットの会社から事業を転換しました。東日本大震災やコロナ禍にも打ち勝つ新商品を次々と開発。段ボールで高級車を模した「ダンボルギーニ」は復興のシンボルになり、技術力のブランディングにも成功しました。
宮城県石巻市の今野梱包は、強化段ボールを使った梱包資材や商品を扱っています。3代目が、運搬に使う木製パレットの会社から事業を転換しました。東日本大震災やコロナ禍にも打ち勝つ新商品を次々と開発。段ボールで高級車を模した「ダンボルギーニ」は復興のシンボルになり、技術力のブランディングにも成功しました。
今野梱包3代目社長の今野英樹さん(48)は自動車ディーラーに勤めていましたが、心から尊敬していたという創業者の祖父の死をきっかけに「自分が会社を守らなければ」との思いを抱き、家業に入りました。
当時、今野梱包は木製パレットを製造していましたが、特定の1社との取引がほとんどを占めている状況。事業の将来に対し危機感を持っていました。後継ぎとして自分は何をやるべきかを考え、図書館で国内の製造業の企業データを閲覧していた時、トライウォールというアメリカで開発された強化段ボールに出あいました。
強度や耐水性の高さに将来性を見出した今野さんは、億単位の先行投資で工場を建設。トライウォールを扱う日本の法人に猛アプローチしました。
「変なやつがきたと思ってもらえたら、少なくとも相手の印象には残る。こちらの本気を見せないと」。その甲斐あって、今野梱包は東北初のトライウォール代理店の座を掴み取りました。
当初、先代社長の父親は事業に反対しました。しかし「会社には迷惑をかけない」と、今野さんは個人で奮闘し工場を建てたのです。代理店契約を結んだことを父親に伝えたところ、工場を増築し、会社としても事業を推し進めることになりました。今野さんは「結果を出したことで、言葉にはせずとも、心の中で後継ぎとして認めてくれたのかな」と振り返ります。
市場開拓はゼロからのスタートでした。今野さんは、強化段ボールでオリジナルの加工製品を作って売り込もうと、東北の製造業を片っ端からまわって営業しました。「とにかく興味を持ってもらうために、営業で持ち歩くバッグを強化段ボールで作りました。絶対一度は見るでしょ?そこから話を始めたら、話を聞いてくれる方が増えていきました」
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強化段ボール製の「門前払い防止バッグ」は、話のネタになる上、耐久性などを手に取って見てもらえます。宣伝の工夫がきっかけとなり、梱包材としてだけでなく、棚や収納箱などの強化段ボール製品も受注するようになりました。
社長に就任した2010年には、コースターやキーホルターなど一般消費者向けの商品を作るため、細かいカットや彫刻が可能なレーザー加工機を導入しました。「例えばプレゼントを探している人がいたら、私たちが作ってお手伝いをしたい。段ボールという素材と発想の可能性を追い求めて商品化することで、これまでにご縁が無かった人もお客さんと呼べるのではないかと思ったんです」
事業開始から約5年で、今野梱包はトライウォール単体でも利益を得られるようになりました。しかし、社長就任から1年後の2011年3月11日、東日本大震災が会社を襲いました。
震災で、今野さんの家族と従業員は無事でした。しかし、自宅は全壊し、工場の機械も破損してしまいました。
実は、今野さんは震災前から、宮城県沖地震への備えとして、避難所で使う強化段ボール製の間仕切りやベッド、収納用品などの備蓄を自治体に提案。災害対応への準備を進めていました。
その経験を生かして、東日本大震災の発生直後から工場を稼働させ、石巻市にパーティション2000人分を無償で提供しました。これをきっかけに、様々な製品開発を自治体から依頼され、小学校の臨時教室用のロッカーや下駄箱なども製作しました。「いざという時に活用できる技術の引き出しがあったから、すぐに対応できたのだと思います」
「いつか誰かの役に立つ」。そんな思いで作っていた強化段ボール製の家具によって、素材の利便性や耐久性、今野梱包の技術力が広く認知されました。現在は災害時に強化段ボール製の家具などを納入する災害連携協定を、石巻市や、隣町の女川町などと結んでいます。
石巻が復興へと動き出す中、今野さんは多くの若者が地元を離れ、都市部へ出ていってしまうことを気にかけていました。そんな時にふと、小さいころに憧れていた高級車・ランボルギーニのことを思い出しました。
「今持っている段ボールの加工技術で、自分の夢だったランボルギーニを形にすれば、若い世代に地元でも夢を描けることを感じてもらえるのではないか」。地元から元気を発信したいという強い思いで、強化段ボール製のスーパーカー「ダンボルギーニ」を思いついたのです。
今野さんはダンボルギーニ製作を、あえて社員に任せ、自身は作業環境の整備に徹しました。社員それぞれの役割を明確化することで、完成した時に自分の成果として感じてほしいという思いがあったからです。
「当然設計図もないので、段ボールの厚みを計算しながらイチから図面を作らなくてはなりません。16分の1くらいのサイズから始めて、徐々に大きくしていきました」。全社一丸となり、約3年をかけてダンボルギーニを完成させました。
しかし、展示場で初めてダンボルギーニを披露した時は、ほとんど話題になりませんでした。そこで、今野さんは自身のツイッターを活用。社名や周辺のお店などが写るよう撮り方にもこだわって、ダンボルギーニの写真を投稿したところ、1万3千を超えるリツイートで情報が拡散されました。
2015年末、今野梱包は女川町にオープンした商店街「シーパルピア女川」内にショールームを構え、ダンボルギーニを展示しました。メディアでも大きく取り上げられ、一目見ようと商店街には多くの人が集まり、ダンボルギーニは女川の復興の象徴と呼ばれるようにまでなりました。
地元で夢を描こうと製作したダンボルギーニでしたが、今野さんは思わぬ効果も実感しました。ダンボルギーニの隣で、強化段ボール製の恐竜や昆虫のキットや、輪ゴムを飛ばす銃のキットを販売したところ、昆虫は年間6900セット、銃は2500セットの売り上げを記録したのです。
「ダンボルギーニの技術を自分たちも手にしてものづくりができると、顧客に感じてもらえたのだと思います。最初は会社の宣伝など全く考えていませんでしたが、ダンボルギーニでうちの技術をブランディングすることができた。言葉のいらない説得力が生まれたのです」
ダンボルギーニの制作から展示までが、成功事例としてひとつのストーリーになったことで、今野梱包は顧客や消費者が抱く興味を、好意にまで引き上げることができました。
「中小企業は自社ブランドを持っていないことが弱点だと思っていました。うちにしかないものは何かと考えていましたが、ダンボルギーニを作ったことで、技術力もブランドになるのだと感じました」と、今野さんは振り返ります。
新型コロナウイルス禍でも、今野梱包は新商品を開発し続けています。本社がある石巻市桃生の中学校の保健室には、学校再開に合わせて、強化段ボールで作った発熱者用の隔離ルームを設置しました。また、フェルト製の吸音パネルでオフィスのデスク用のパーティションを製作し、仙台市や女川町の企業に販売しました。
さらに、強化段ボールでマスクまで製作しました。「これは実用性ゼロ。ふざけてるでしょ。こんな状況ですけど、クスッとでも笑ってもらえたらと思って」。今野さんの遊び心が光る商品です。
今野梱包は磨かれた技術で、実用性の高いものから、人を感動させたり笑わせたりするものまで、幅広い商品を送り出しています。全てのアイデアは「誰かを喜ばせたい気持ち」から生まれているといいます。
今野さんは「私たちは、誰かのため・何かのためにものを作るクリエーター」と話します。商品を受け取った人が、どんな表情で、どんな声で、どんなことを話すのかまで想像してものづくりを行うよう、従業員たちに日々伝え続けています。
今野梱包は、強化段ボールに事業を大きくシフトしてから、新規事業や商品を次々と打ち出しています。「私たちのような中小企業は、走りながら考えていかなければならない。調べてから動くのでは遅すぎると思うんです」
今野さんは自社に何ができるかを明確化して、できることを一つひとつ手がけ、やりたいことを最短距離で実現させてきました。今は防災ジオラマや展示什器など、強化ダンボールの技術を生かした商品開発の依頼が絶えません。
「強化段ボールで電車の運転台を作ってほしいとか、無茶ぶりもあるんです。でも『あのダンボルギーニの今野梱包ならできるだろう』と思って頂いているから、お話がくるんですよね。これからも、人の役に立つものづくりをしていきたいです」
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