目次

  1. 電子署名とは
  2. 電子署名の正当性を検証するには
  3. 電子署名の主要2タイプ
  4. 経産省が示した3要件
  5. 本人性を確認するためのポイント
  6. 電子契約導入のメリット
  7. 契約の軽重で使い分ける
  8. 中小企業も一気に導入すべきか
  9. BCPや監査にも役立つ電子契約
  10. 電子契約のデメリットは
  11. 中小企業が気をつけるべき点は
  12. コロナ禍以後のトレンド
  13. インボイス制度も見据えて電子化を

 電子契約とは電子的に作成した契約書(ファイル)を、インターネットなどの通信回線で相手方に開示し、契約当事者が内容に合意したという意思表示として、電子署名を付けて、契約を締結する形式を指します。署名済みの電子データは、企業のサーバーやクラウドストレージなどに保管されます。また、電子署名を用いずに当事者の合意のみで契約を締結する方式のものもあります。

 では、電子契約書と紙の契約書の違いは何でしょうか。

 紙の文書では、本人または代理人の署名か押印があれば、本人による作成が推定されます。同様に、電子文書に本人による「電子署名」があれば、本人による電子文書の作成が推定されます。電子署名は手書き署名や押印に相当すると言えます。

電子署名が果たす役割のイメージ図(出典:JIIMA「電子契約活用ガイドライン」)

 電子契約において、紙の契約書に相当するものが「電子文書」です。そして、印鑑に相当するのが、本人の「秘密鍵」になります。秘密鍵は通常、暗記などが不可能な膨大な数を差しますが、利用時にはPIN(暗証番号)の入力が必要なICカードに格納されています。

 秘密鍵と電子文書を電子署名生成プログラムに入力すると、一種の暗号化を実施し、その結果が電子署名として出力されます。

 電子署名は、本人の秘密鍵と対象となる電子文書に一種の暗号的処理を施したものです。従って、他人による生成や改ざんができず、電子署名を他の電子文書に流用できない状態が確保できるのです。

 電子署名が正当なものかどうかを確認するには、どのような仕組みがあるのでしょうか。

 本人だけが知る「秘密鍵」とペアの関係にある「公開鍵」を含んだ「電子証明書」を、第三者である認証局が作成します。

電子署名を検証する仕組み【出典:「改訂版 電子契約の教科書 基礎から導入事例まで」(宮内宏編著・日本法令)】

 こうすると、電子文書と電子署名、及び公開鍵の3点の紐づきが確認できます。この仕組みを「電子署名の検証」と言い、電子署名が正当であると検証されれば、①非改ざん性、②本人性が認められるとされています。

 そして「この電子文書は、この時刻に確かに存在した」ことを証明するために、一般財団法人日本データ通信協会が認定した事業者が提供するタイムスタンプを用います。

電子契約に使用される技術のイメージ図(出典:JIIMA「5分で分かる電子契約」)

 電子署名は主に以下の二つに分類されます。

 当事者署名型

 ローカル署名型とリモート署名型があります。

ローカル署名型

 利用者が認証サービスを手掛ける事業者に自らを証明する書類などを提出。契約者本人がローカル環境で、事業者発行のUSBトークンやICカードなどを利用して署名する方式です。

ローカル署名のイメージ図(出典:JIIMA「電子契約活用ガイドライン」)

・リモート署名型

 電子証明書と秘密鍵を安全にサーバーに保管し、それを利用して電子署名を行います。

リモート署名のイメージ図(出典:JIIMA「電子契約活用ガイドライン」)

 ローカル署名型、リモート署名型はいずれも電子証明書の発行が必要とされています。ちなみに、当事者署名型は電子証明書の取得する煩わしさも指摘されています。

立会人署名型

 PDFなどの書類データをインターネット上にアップロード。双方の確認が取れた段階で、「契約書が甲と乙によるものであることを確認した」と、契約書に双方の合意があった旨を示す電子署名をします。

 以上のように、電子署名は電子証明書の発行が必要な「当事者型」と、発行を必要としない「立会人型」の二つに大別されます。経済産業省は2020年9月、電子証明書がない立会人型であっても、以下の3要件を満たせば、電子署名法3条に定めるその文書が本人のものとする「推定効」を認めうるとの見解を発表しました。

  1. 利用者の認証プロセスについて十分な固有性が満たされていること
  2. サービス提供事業者内部のプロセスについて十分な固有性が満たされていること
  3. 電子契約サービスの利用者(署名者)の身元確認がなされること

 電子証明書の発行を必要としないサービスを利用する場合は、この点について確認が必要でしょう。

 電子署名が示された電子文書が本人によるものか(本人性)について確認するには、以下の3つの要素が関係します。

  1. 契約当事者たる本人
  2. システムの利用者(IDやメールアドレスの持ち主または電子証明書の発行申請者)
  3. 署名実行者(秘密鍵の持ち主又は署名実行指示者)

 ローカル署名の場合、1=2は電子証明書発行時に身分証明書など本人性を証明する書類を事業者に提出することで担保されます。2=3はローカル環境で秘密鍵を自ら管理していることで担保されます。

 一方、リモート署名および立会人型署名の場合、1=2は電子署名発行時に行う方法とメールの到達確認で行う方法があります。また、2=3についてはリモート署名や立会人型署名のシステムにアクセスしたとき、ログイン時の認証で確認することになります。

 では、電子契約の導入にあたって、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。

 電子契約を含む文書情報マネジメントの普及啓発、規格の標準化などを推進する公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の電子取引委員会委員長・西山晃さんに伺いました。

――西山さんはシステムベンダーとして電子契約の導入をしています。導入企業からはどのような声を聞きますか。

 電子契約を導入する企業は、そもそも「紙の契約が不便だ」という問題意識があるので、良かったという声しかないです。ただ、社内調整には苦労されているようです。

 電子契約が導入された場合を想定した印章管理規程、文書管理規程などの改訂、そして紙ベースで行っていた契約締結の決裁、契約書の製本、社判の押印といった社内ワークフローの変更が必要になります。契約書に「署名、押印をして2通ずつ持ち合う」というような記載をしていた場合、文言も変えなくてはいけません。

――電子契約のメリットとは。

 やはり業務の効率化だと思います。送り状や封筒も含め、契約書のやり取りで生じる費用の節約にもつながります。

 管理面でもメリットがあります。例えば、リース会社の場合は数多くの会社と取引をしますが、紙ベースの契約管理では、数あるリース品目別の期限の把握に大変手間がかかります。ところが、電子契約だとデータベース化できるので、契約時期などが瞬時に分かります。

電子契約の導入メリット(出典:JIIMA「5分で分かる電子契約」)

――電子署名法第3条には「本人による電子署名が行われているときには、真正に成立したものと推定する」とあります。当該規定に定める「推定効」の担保が気になる方もいると思います。

 A社とB社の電子署名があった場合、両社の法人代表者、および法人代表者から委任を受けた正当な権限者であることの確認が取れているかがポイントです。

 契約には重要なものから簡単なものまであります。どの程度の厳格さで正当な契約締結担当者を証明するかは、契約の軽重で変わります。電子契約でも正当な権限の人がサインをすることが大切です。

 電子契約にも、電子認証局の審査を受けて発行された電子証明書で本人性を担保する「電子署名」タイプと、メール認証やログなどの方法で担保する「電子サイン」タイプなどがあります。

 従って、契約内容によって締結の仕方を変えることも必要です。例えば、日常的に使う庶務用品の購入は電子サインで十分ですが、1000万円以上の取引には物足りないので電子署名を使い、場合によってはその時だけ紙の契約書を作って署名押印をする方法もあり得ます。JIIMAがガイドラインを設定しているので、契約の重要度に応じて使い分けてほしいと思っています。

――電子契約のベンダー選びはどのようにしたら良いのでしょうか。

 無償と有償の違いはあるかもしれませんが、主要ベンダーではシステム提供とコンサルティングがセットになっていると思いますので、文書管理規程の改訂やワークフローの変更なども相談できます。自社と類似の業種や業務に関する電子契約の導入実績が豊富なベンダーが、望ましいのではないでしょうか。

――導入までの時間、費用はどれぐらい掛かるのでしょうか?

 ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)型だと、導入を決めてから2週間ほどでサービスを利用できます。費用は2万円ぐらいからでしょうか。

――電子契約と合わせて、顧客管理や販売管理のシステムの導入も考えている中小企業の場合、一気に導入した方が良いのですか。

 電子化は他のシステムと連携するほど、電子化による業務効率の改善が期待でき、コスト削減効果もアップするので、一気にやった方がメリットは大きいです。

 ただ、そこは会社のステージによっても異なります。ハンコ廃止のためだけに導入する会社もありますし、顧客管理や販売管理のシステムはもちろん、契約書の稟議、審査、管理システムと連携しながら作り込む会社もあります。

 また、相互のシステムの連携を図るために、システム同士のつなぎの部分となるAPI(Application Programming Interface) の共通化を図ろうとする動きもあります。

――今後、電子契約は普及していくのでしょうか。

 電子契約に限らず、見積書、請求書、議事録など取引に関する文書の電子化についての問い合わせは増えています。

 一番のメリットは手間が省けることですが、他にも改ざんがしにくくなるという点で、取引の安全性が高まります。デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速するにつれて、電子契約をはじめとする文書の電子化は普及していくのではないでしょうか。

 後半は、電子契約に関する法律相談などを数多く手掛ける宮内宏弁護士に、実務の現状を聞きました。

――電子契約導入のメリットとして、業務の効率化や印紙税の節約があります。企業法務の観点から、他にどのようなものが挙げられますか。

 業務の正確性の向上と、管理のしやすさが挙げられると思います。例えば、納品書を作成する場合は請求書と納品書を突き合せないといけませんが、取引先の数が多いと大変な作業です。電子化にすれば間違いは起きません。紙の保管をしなくていい点も大きいです。スペースの節約にもなり、データベース化してすぐに検索できます。

 BCP(事業継続計画)の策定でもメリットがあります。本社が被災して契約書の原本が消失してしまった場合、企業活動の継続に支障が出ます。しかし、電子化しておけば安心です。

電子契約に関する法律相談を手がけてきた宮内宏弁護士

 監査や税務調査などの観点でも重要です。データベースで必要書類を保管していれば、監査対象者に書類提出を命じなくても、秘密裏に監査が可能になり、効果的に行えます。税務調査でも、タイムスタンプが電子帳簿保存法の保存要件となる場合がある点には注意が必要ですが、即座に文書を出して税務署に説明ができるので、心証が良いようです。

 M&Aなどに必要なデューデリジェンスは、一般社員にも知られないように行う必要があります。今までは、会計士や弁護士が社内に出入りして気づかれる恐れもありましたが、電子契約システムを導入すれば、リスクを軽減できます。

――では、デメリットはどのような点がありますか。

 意思表示の撤回が面倒だということですね。例えば、紙の文書で注文書を出した後に撤回する場合、相手方から注文書の原本を返してもらえば確実に撤回できます。しかし、電子文書で出した場合は、相手方がコピーを残していれば、原本と判別が付かないのでこのような方法は取れません。

 従って、相手方に撤回の意思表示が届いたことを確認する仕組みが必要です。ただ、多くの電子契約システムでは撤回の仕組みを備えており、このような機能を利用すればデメリットとは言えなくなるかもしれません。

 また、電子契約システムやタイムスタンプを用いるとバックデート(日付を遡った日付での書面の作成)ができなくなります。本来、バックデートの契約は締結しないことが望ましいのですが、実務上は必要な時があります。このような場合は、現在が10月15日だとしたら「10月1日から効力を発生させる」というように、過去に行った合意を文書化することが必要です。

 なお、下請法などのように、ある期日の交付が法的に認められる文書や第三者の利害に影響するような文書はバックデート自体が不当になります。しかし、電子契約の導入により、業務の迅速化が図れるのでバックデートの必要そのものがなくなると思います。

――中小企業が電子契約を導入する際、気を付けるべき点は何でしょうか。

 メール認証やログなどの方法で本人性を担保する「電子サイン」の電子契約システムは導入が容易です。ただ、万が一、訴訟になった場合、メールアドレスのアカウントと契約書の同一性はすぐに立証できますが、メールアドレスと本人の同一性の立証が担保できるかというと、そうではありません。

 そこはトレードオフの関係です。導入が楽だと後から本人性の証明が必要になります。しかし、最初の導入時に本人性を確認するシステム、つまり第三者機関の電子認証局の審査を受けて発行された電子証明書を用いる「電子署名」型を導入していれば、その後の同一性の立証も楽になります。

電子契約導入のモデルケース(出典:JIIMA「5分で分かる電子契約」)

――システム導入時の手間やコストも気になります。

 実際の運用を考えると、やはり使い分けが大事だと思います。例えば、日々の消耗品の購入で、最初からお金をかけてきちんとしたシステムを入れる必要はないと思います。ただ、1000万円の契約を締結するのに、メールアドレスのアカウントと本人の同一性が担保できていないのは良くありません。使っているシステムがどこまで「文書の同一性」を保証できているのかを理解する必要があると思います。

 紙の契約書でも、会社の代表印と印鑑証明書を付けて取引する場合もあれば、代表印のみ、角印のみ、認め印レベルのものもあるかもしれません。それと同じです。

 また、既存システムとの連携はベンダーのフォローがありますが、基本的に電子契約システムには互換性がありません。一度入れてしまえば、他のシステムに変えるのに手間がかかります。なので、他の社内システムとの連携も考えて選ぶのが良いでしょう。互換性を考え、主要取引先と一緒のシステムを使うのもおすすめです。

――電子契約書の保存に関する注意点も教えて下さい。

 例えば、住宅ローンを扱う会社で、顧客に35年ローンを提供した場合には、40年近く契約書を保存しておかなくてはなりません。

  その場合、本来の電子証明書の有効期限(10~11年)を超えて保管することが必要ですが、本来の有効期限が切れる前に、さらにタイムスタンプを施せば、期間を延長できます。きちんとした電子契約システムなら、10年経過後に自動的にやってくれる機能があります。

――電子契約システム導入のトレンドはどのようなものでしょうか。

 コロナ禍の前は、企業間の力関係や取引先との関係が影響していたように感じます。例えば、親会社が導入していればグループ会社も導入する、メガバンクが電子契約システムを導入したので、その銀行と融資契約を締結する会社が導入するといった感じです。

 ところが、コロナ禍後はそうしたこととは関係なく、普及している印象です。「紙の契約書を作ってハンコ押さなくていいのか不安です」という声は5年ぐらい前までは聞きました。ただ、最近は聞かなくなりました。

――電子契約を含め、企業におけるDXはどうなっていくと思いますか。

 一気に進めるのは難しいので、やはりスモールスタートになると思います。電子契約であれば、認印のレベルからの段階的なスタートになるのではないでしょうか。その場合には電子サイン型のASPを利用することになりますが、その時に必要なのはブラウザだけです。封筒や紙代を考えると、導入しない手はないですよね。

 私は元々NECに在籍し、1990年代から電子署名の実用化に向けた開発を担当していましたが、当時は技術を使ってもらうことすらできませんでした。2000年に電子署名法ができた頃から、DX化への地ならしが始まっていきましたが、この3、4年で劇的に使われるようになってきた印象です。

 クラウドサービスの普及で文書保存の電子化に抵抗がなくなり、その流れで契約書も電子化する流れになったのではないでしょうか。そして、コロナ禍のリモートワークで、一気に波が来た感じがします。

 実際に、電子契約システムの導入は、この数年で倍のペースで導入が増え、コロナ禍以降はそれ以上のペースで増えていると聞いています。

 DXの一環として電子契約は必須です。請求書、見積書も電子化されていくのではないでしょうか。2023年からは、請求書に税率の表記と事業者番号の記載を義務付けるインボイス制度が導入される予定ですが、費目ごとに税率を確認して記載する手間を考えると、電子化は必須だと思います。その前に、できるところから取引の電子化を検討するといいかもしれません。