「ゴムメタル」と呼ばれるチタン合金を使い、歯並び矯正用のワイヤを量産化したのは10年前。このワイヤを利用すれば矯正期間が短縮でき、患者の痛みも和らげられるという。国内外の歯科医から注目を集め、近年は欧州や南米でも普及し始めているという。

 この合金はトヨタグループの豊田中央研究所が開発したが加工しにくく、大手メーカーも製品への応用には二の足を踏む状況だった。そんななか、ある歯科医から相談を受けた丸ヱム製作所の技術者が約6年かけて研究を続け、ワイヤとして実用化にこぎつけた。合金は0.2ミリほどの薄さのものもあり、ねじれたりゆがんだりさせずにアーチ状にするのは至難の業。全て独自の機械で製造しているという。

 丸ヱム製作所の本業はネジづくり。なぜ、こんな畑違いとも言える製品を生み出したのか。山中茂理事(62)は「人に喜んでもらえるものをつくろうとやっていたら、ワイヤに行き着いた」と笑う。

丸ヱム製作所は、ネジの強度を測る試験機を自前でそろえている
丸ヱム製作所は、ネジの強度を測る試験機を自前でそろえている

 洗濯機から住宅、新幹線まで、あらゆる製品に欠かせないネジは「産業の塩」とも言われる。丸ヱム製作所はステンレスやプラスチック、ふつうの金属材料より丈夫とされる「金属ガラス」など、先端素材を生かしたネジを開発してものづくりを支えてきた。

 たとえばマグネシウム合金。パソコンやスマートフォンには欠かせない軽量の金属で、熱に強く強度が高いという。同社はこの素材を使ったネジの量産化にも早期に成功したという。「自ら生み出すことが重要なんです」と石本謙一常務(53)。

 時代を先取りする精神は、90年以上前の創業当時から受け継ぐ。同社は漆器問屋の元番頭が金物の製造販売を始めたのがルーツ。人力荷車「大八車」の車輪の固定に使う金属製の「割ピン」に目をつけた。割ピンは増えつつあった自転車や自動車に使われ、可能性を感じたのだという。

 世の中の需要に応じ、主力製品は約30年単位で変わってきたが、同社の基本姿勢は変わらない。田島直訓社長(44)は「縁の下の力持ち。小さくても過酷な環境に耐える部材を供給するのが役目で、頼られる存在でありたい」。(2020年10月24日付け朝日新聞地域面に掲載)

丸ヱム製作所

 1927年創業。年間売り上げ約58億円、従業員185人。57年にステンレス製のネジを、87年にプラスチック製のネジを発売した。2003年にはマグネシウム合金のネジの量産化にも成功。世界初という。