社長の清水宏行さん(62)は薬剤師、妻で取締役の幸子(さちこ)さん(60)は管理栄養士。OEM(相手先ブランドによる生産)供給が事業の主体だが、約3年前、清水さんが「もっと会社の特徴を出そう」と提案した。新たに健康食品などの原料を作ることになった。

 「女性を冷え性から救いたい」という幸子さんの願いで、漢方薬の原料となるシャクヤクの加工法を研究。模索する中で、植物などを低温で乾燥させる特殊な装置に出合った。乾燥した粉末はもちろん使えるが、むしろ乾燥の過程で取り除かれた水分の香りに2人は驚いた。

低温乾燥の装置をチェックする清水幸子さん。部屋中が柑橘系の香りに包まれていた

 本社の一室を訪ねると、清水さんたちがスプレー式の瓶をずらりと並べてくれた。バラ、サクラ、レモングラス……。装置で作った抽出液は、どれも元の植物の色はなく、透明だった。

 「香りだけで、味もないんですよ」と幸子さん。「バラ」の抽出液を渡され、手の甲に吹きつけて鼻を近づけた。まさにバラの花の香り。それも濃厚だ。

 2018年以降、シャクヤクやヨモギなどの抽出液を配合したゼリー、柑橘(かんきつ)類のタチバナの抽出液や粉末を使ったグミなどの商品化に成功した。現在は、県外の農業団体などからの依頼で、サトウキビの抽出液ドリンクや、ハーブなどを使ったクラフトコーラを試作中だ。材料の種類だけでなく、花や実、皮などの部位によっても装置内の温度や圧力を調整する必要があるという。

 新たな展開もあった。昨秋、公益財団法人・関西文化学術研究都市推進機構(京都府精華町)が抽出液の香りに注目し、奈良県立医大の岸本年史(としふみ)教授(精神医学)に相談した。認知症の改善につながるのではないかという助言をもらった。

 今春以降、県内の高齢者介護施設で、シソなどの香味野菜の抽出液がどんな効果をもたらすか、モニターを始める予定だ。幸子さんは「自然の香りが刺激となり、意欲のエネルギーになってくれたら」と期待している。(2021年1月30日付朝日新聞地域面掲載)

清栄薬品

 1965年6月の設立当初は医薬品の製造を手がけていたが、現在は化粧品や健康食品、清涼飲料水の受託製造が中心。本社は奈良県北部の工業団地「学研生駒テクノエリア」にある。従業員(パート含む)11人。2019年度の売上高は約5000万円。