約束手形とは【経産省が2026年にも廃止方針】資金繰りへの影響を解説
企業間の取引の決済に使われる約束手形について、2026年をめどにやめるよう経済産業省は産業界や金融界に働きかけています。経済産業省の検討会が2021年2月、廃止を提言しました。廃止を提言した3つの理由や、資金繰りへの影響、代替手段となる電子手形について紹介します。(2021年6月4日更新)
企業間の取引の決済に使われる約束手形について、2026年をめどにやめるよう経済産業省は産業界や金融界に働きかけています。経済産業省の検討会が2021年2月、廃止を提言しました。廃止を提言した3つの理由や、資金繰りへの影響、代替手段となる電子手形について紹介します。(2021年6月4日更新)
目次
約束手形(英語では”promissory note”)とは、代金を支払う「振出人」が、受取人に対して、期日に手形に書かれた金額の支払いを約束する紙面(証券)のことです。全国銀行協会のパンフレットでは、約束手形のことを「今はお金がないけれど、近い将来確実にお金が入ってくるので、それで支払いができるというときなどに使うのが約束手形です」と説明しています。
手形と小切手の大きな違いは、小切手はすぐに現金化できるため、取引の時点で、支払いに必要なお金を銀行に預けておく必要があります。一方で、約束手形は取引時点でお金がなくても構いません。その代わりに期日までに約束手形を交付した取引銀行の当座預金口座に必要なお金を預ける必要があります。
一方で、為替手形とは、手形の振出人が第三者である支払人に依頼し、受取人に支払ってもらう三者間取引で使います。
手形と呼ばれる商習慣は江戸時代からありましたが、現代の約束手形は明治時代以降に法整備が進められてきました。特に高度成長期、発注企業は資金の不足を補うため原材料の買い入れや下請事業者への支払いに約束手形を用いる企業間信用が大きな役割を果たしたといいます。
1990年代に入り、法人企業の資金不足が解消し、資金調達の手段が多様化したため、支払手形の発行残高は1990年度の約107兆円をピークに減少傾向で、近年は約25兆円となりました。
ただし、2007年以降は下げ止まっています。客先から支払いをうけるまで時間がかかる建設業や、販売先が多く個別の振り込み手続きが煩雑な卸売業などでは今も約束手形が使われやすい状況にあるといいます。
こうしたなか、有識者でつくる経産省の検討会は、報告書のなかで「廃止していくべき」とする提言をまとめました。
約束手形の利用を廃止していくべきである。支払サイト(支払期日までの期間)を短くしていくためには約束手形よりも支払サイトの短い決済手段(銀行振込)への切り替えが進められるべきである。発注企業の資金繰り負担などから直ちに切り替えができない場合であっても、少なくとも「紙」による決済をやめる観点から、電子的決済手段(電子記録債権等)への切り替えを進めるべきである。
約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会
検討会が廃止を提言したのには、次の3つの理由があります。
まず、支払期日までの期間が現金振り込みと比べると2~3倍長いことを挙げています。中小企業庁が2020年度に実施したアンケートでは、現金振り込みの支払期日が約50日なのに対し、約束手形は約100日。
現金振り込みの支払期日に約束手形が振り出される場合は約150日に上ります。検討会は「その間の利息や割引料が支払われていない取引慣行と併せると、取引先企業に資金繰りを負担させるという弊害の伴う支払手段である」と指摘しています。
つぎに、中小企業庁の調査では「手形を受け取る際には割引料は勘案されておらず、割引料は自社負担である」との回答は76.9%に上り、多くの取引で利息や割引料は振出人からは支払われておらず、受取人が負担する構造となっているといいます。
さらに、約束手形は振出から現金の受け取りまでに、振出人も受取人もコストを負担しますが、振出人側のコストが安く、これが約束手形が使われ続ける一因になっていると指摘しています。
最後に、約束手形が「紙」であるために、管理自体にリスクがあるほか、印紙代や郵送費など取引の過程でいくつもコストと時間が発生しているところを挙げています。中小企業庁のアンケートでは、こうしたコストに対し「やめたい」と感じつつも「電子記録債権を受取側が利用していない」「業界の商慣習」といった理由でやめられない会社が多いといいます。
検討会では「約束手形の廃止」を提言しましたが、廃止する上で解決する必要の課題も挙げています。
アンケート調査などで、約束手形を使う理由は支払側、受取側ともに「長年同じ慣習を続けている」が最大の理由となっています。一方で約束手形をやめた理由は「国交省のガイドライン」「経産省の方針、振興基準の改正」「業界団体の自主行動計画」などが挙げられています。
そこで「業界全体の取り組みを引き出す手法として、国のガイドラインや産業界による自主行動計画が有効」と指摘しています。
また、「自社が約束手形で支払を受けているため、やむをえず手形を利用している」という声もあることから「大企業間取引も含めたサプライチェーン全体での取り組みが必要」と指摘しています。
アンケート調査からは、銀行振込や電子記録債権を使っていない理由として「取引先が利用していない」「メリットを感じない」という意見があるため、「(利用料金や電子記録債権機関の口座の互換性など)少なくとも約束手形以上の商品性を確保していくことが必要」と結論づけています。
約束手形をやめられない理由には「資金繰り」もあるため、サプライチェーン全体での取り組みが必要であるほか、取引先への支払い条件を改善する企業に対する日本政策金融公庫による低利融資制度も提言しています。
支払いサイト(支払期日までの期間)を維持したまま銀行振込とすると約束手形よりも換金しにくくなる分、支払条件が悪くなります。そのため「約束手形の利用の廃止は、支払期日の短縮化と併せて行う必要がある」としています。
こうした課題を解決するため、検討会は、産業界・金融界に約束手形の利用の廃止等に向けた自主行動計画を作ることを求めました。「期間は5年間とし、毎年のフォローアップの状況もみながら3年後に自主行動計画の中間的な評価を行い、必要な見直しを行うこととしてはどうか」と提言しています。
産業界、金融界はそれぞれ「約束手形の利用の廃止等に向けた自主行動計画」を策定すべきである。この行動計画は「自主的な」取り組みであるため、具体的な目標期限を設定し、また進捗を把握・管理しつつ実行する仕組み(PDCAを回していく場の設定)を併せて講じる必要がある。
経済産業省が所管する業界に関しては、中小企業政策審議会において自主行動計画のフォローアップを行っていく。新たに自主行動計画を策定する金融界においても、少なくとも金融界の中に、約束手形のユーザーである産業界にも参加を呼びかけ、約束手形の利用の廃止に向けた現状と課題をフォローアップする場を設置すべきではないか。
約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会
検討会の提言をうけて、中小企業庁と公正取引委員会は2021年3月、関係事業者団体に向けて、次の内容を要請しました。
・下請代金の支払は可能な限り現金で行う
・手形等により下請代金を支払う場合は、手形等の現金化に係る割引料等を下請事業者に負担させることがないよう、これを勘案した下請代金の額を十分に協議して決定すること。また、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化に係る割引料等のコストを検討できるよう、本体価格分と割引料相当額を分けて明示する
・下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とする
・おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施する
全国銀行協会ではすでに動きが見られます。朝日新聞デジタルでは次のように紹介しています。
全国銀行協会は電子手形の使い勝手改善に取り組む。仲介インフラ「でんさいネット」は現在、決済完了までの期間が最短で7営業日だが、22年度中に3営業日まで縮める。1万円超しか扱えなかったしくみも見直し、1円から可能とする。
紙の手形より割高だった料金は早期の値下げを考える。21年度は新規利用者に利用料の一部を現金で還元する方針。
紙の約束手形、2026年をめどに廃止へ 経産省が方針
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