運転資金とは なぜ不足する? 計算式や資金調達の3つの手段を解説
運転資金とは、仕入れや管理コストなど、毎月の事業に必要な資金のことを指します。会社運営に大きな影響を及ぼす運転資金について、どのような計算式で求められるのか、そして運転資金=売上債権+棚卸資産-仕入債務という計算方法についても図とともに説明します。
運転資金とは、仕入れや管理コストなど、毎月の事業に必要な資金のことを指します。会社運営に大きな影響を及ぼす運転資金について、どのような計算式で求められるのか、そして運転資金=売上債権+棚卸資産-仕入債務という計算方法についても図とともに説明します。
目次
事業を成長させ経営を上手に回すためには、運転資金管理が重要です。
日々、事業を行っていくためには、原材料や商品などの仕入代金、給料・家賃など何かしらお金が必要になります。
運転資金とは、このように事業を運営していくために必要なお金のことを言います。英語では”working capital”、または”working capital”。
運転資金は、大きく固定費と変動費のふたつにわけることができます。
固定費とは、売上の増減に関係なく発生する一定の費用で、人件費、家賃、水道光熱費などがあります。
変動費とは、商品の販売数量の増減に連動する費用のことで、商品の仕入れ代金、商品包装などの消耗品費などがあります。
運転資金は、次の計算式で求められます。
運転資金=売上債権+棚卸資産-仕入債務
用語の説明
売上債権や棚卸資産は、貸借対照表上の借方(左側)の科目で、将来お金が入ってくることを意味します。仕入債務は、貸借対照表上の貸方(右側)で将来お金が出ていくことになります。
計算式に当てはめると‘運転資金=将来入ってくるお金-将来出ていくお金’になります。
一般的に将来入ってくるお金が将来出ていくお金より大きくなっています。わかりやすく言うと、立替えているお金が、立替えてもらっているお金より大きくなっています。
立替えているお金と立替えてもらっているお金の差額を、自己資金や借入で賄わないといけません。これが運転資金です。
運転資金には色々な種類があります。主な運転資金は次の四つです。
どの会社、事業でも必要となる運転資金です。原材料、商品などの仕入れ代金の決済や人件費や家賃などが経常運転資金となります。
創業期から成長期に移った企業等事業が順調に伸長している場合に必要となる運転資金です。
事業が成長・拡大すると仕入れ代金が日々増加する一方で売上債権の回収にはタイムラグがあります。また、事業が成長すると人の採用や事務所の拡張などが必要となり、人件費、家賃などの資金負担も増加します。
増加運転資金は、将来の売上や利益が期待できることから、金融機関からの借り入れなども比較的スムーズに行うことができます。
コロナ禍で苦しくなっている事業者も多いかと思います。
減少運転資金とは、事業の売上が減少しているときに、人件費の支払いなど固定費の穴埋めをする場合の運転資金です。
確実に事業の経営が軌道に乗ることが見込まれるであれば、この運転資金により、収入と支出のタイムラグを埋めることができます。
しかし、将来の事業運営に確信が持てない場合には、事業の見直しや経費削減などにより、早急に経営のバランスを見直す必要があります。
特定の季節によって必要となる資金のことを言います。
例えば、クリスマスやバレンタインデーなどにむけ、お菓子業界では、2~3カ月前から材料の仕入れが増加します。
販売機会を失わないよう材料を手当する必要がある一方、過剰な在庫を抱えないように適切な販売計画を基にした仕入れが必要となります。また、夏季と冬季に支給する賞与、納税資金なども季節運転資金にあてはまります。
運転資金が不足する、いわゆる資金ショートに陥る企業は少なくありません。以下、運転資金不足に陥る要因とその対策をご紹介します。
筆者の経験上、資金ショートに陥る要因は自社内にあることが多いです。言い換えれば、自社で資金ショートのリスクを抑える仕組みを構築することも十分可能となっています。
基本的には、運転資金の計算式である売上債権管理、在庫管理及び支払債務管理をきちんと行うことがポイントです。
資金調達は経営者の仕事です。しかし、経理は税理士任せだったり、月次決算を行っていなかったりして、資金繰り表を作っていない会社は意外に多いです。
資金不足に悩んでいる場合には、経営者自ら資金繰り表を作り、資金の状況を確認することをおすすめします。
顧問税理士と相談して、先の2、3カ月を目途に資金繰り表を作成することを心がけましょう。
次のような状況が起きているなら直ちに債権管理業務を改善しましょう。
次のような状況が起きているなら直ちに在庫管理業務を改善しましょう。
次のような状況が起きているなら直ちに仕入債務管理業務を改善しましょう。
運転資金は、少なければ資金繰りに追われ、多ければ不要な資金の借り入れにより余分な金利を払うことになります。
適切な運転資金管理を行うための基本は、資金繰り表です。資金繰り表をきちんと作成して2~3カ月後の資金の状況を把握し、不足が予想される場合に適切な対策をとることが基本です。
資金繰り表を作成していない会社では、会社の規模や業種に応じた運転資金の目安を知り、事前に資金調達しておくことはとても重要です。
現預金残高>運転資金の状態をキープすると資金の運用効率は下がりますが、資金不足のリスクは減少します。
運転資金の目安は、先程ご紹介した売上債権・棚卸資産・仕入債務の3要素から求めます。この考え方は銀行融資の立場からの考え方になります。
売上債権500万円、棚卸資産200万円、仕入債務300万円を例にすると、500万円+200万円-300万円=400万円となり、目安となる運転資金は400万円となります。
なお、この計算は、営業上の仕入れ・在庫・販売を対象としていますので、人件費などの固定費は含まれていません。
また、月別の売上変動の多い建設業などの業種や現金収入の多い飲食業などは、別の計算方法が必要です。
回転期間や日数などを考慮するなど色々な計算手法はあります。
しかし、筆者は、資金運用効率などを含めて考えると、資金繰り表を作成して2~3カ月の資金状況を把握することが一番適切な手法とアドバイスしています。
今後資金ショートが見込まれる場合、不足する資金の調達方法を計算する必要があります。主な調達方法は次の通りです。
銀行に融資申込を行う際には、「借入申込」に至った理由や経緯を説明します。説明する項目として「借入理由」「借入金額」「必要時期」「返済計画」などがあります。
この時「運転資金を借入したい」だけでは不十分で、お金が必要になったのかを、具体的に説明する必要があります。
銀行は、事業から生まれている(くる)利益の範囲内で、既存の借入に対する返済と、新規借入に対する返済を行うことができるかを重視しているからです。
そのため、売上が減少している減少運転資金の借り入れの際は、返済原資が足りない分をどうやって埋めるのかが重要となります。
緊急の融資を受けたい場合は、ビジネスローンも有力な手段です。ビジネスローンの審査では、スコアリングシステムが採用され、決算情報などを入力すると融資額や金利などの審査結果を見ることができます。
ビジネスローンはお手軽な反面、通常の借り入れよりも金利が高くなる傾向にあります。
また、ノンバンク系のビジネスローンを利用すると、銀行によってはマイナス評価となり、通常の借り入れに支障が出る可能性があります。
ノンバンク系のローンを利用することは、金融機関からの融資が受けられない(財務内容が悪い)会社との印象を持たれかねないからです。
そのため、普段取引のある銀行系のビジネスローンを利用することをおすすめします。
ファクタリングとは、回収期日前の売上債権をファクタリング会社に売却し、資金調達を行う方法です。
売上債権の回収期日日前に現金化できるため、資金繰りが苦しい時などの資金調達手段として利用されています。銀行融資に比べ審査期間が短いことも利用者のメリットです。
一方で、ファクタリングでは高い手数料を払うことになりますので、無計画に利用してしまうと、長期的には資金繰りがさらに悪化してしまう可能性があるため、十分に注意する必要があります。
また、ファクタリングのように見せかけ、売掛債権を担保にして高利貸しを行っている違法な業者も報告されています。
ファクタリングを利用する場合は、ファクタリングに関する正しい理解とファクタリング会社の情報収集が必要です。
資金ショートを事前に防ぎたい、運転資金が足りなくなりそうなど色々な悩みを抱える経営者も少なくありません。そうした場合は専門家に相談することが一番です。
顧問税理士や銀行の担当者、商工会などの専門家など身近に相談できる人は結構います。
ただ、専門家としても、資金繰り表が無いとアドバイスのしようがありません。自社で資金繰り表が作れず慢性的な資金不足にある場合には、月次決算の導入などまず経理の仕組みを相談することをおすすめします。
運転資金の管理は、債権管理や在庫管理など会社の基礎的な業務改善にもつながります。自社の業務上の課題を発見・解決して資金不足の悩みから解放されましょう。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。