目次

  1. 資金ショートとは
  2. 資金ショートを起こすとその後どうなる?
  3. 債務超過の回避策とは
    1. 自社の経営状況をしっかり分析する
    2. 売れない在庫をいつまでも持っていないこと
    3. 業績改善には時間がかかるため資金計画を見直す
    4. 資金の現金化を図る
  4. そもそも資金ショートを起こさない経営とは

 資金ショートとは、手持ちの現金、預金が不足して、仕入れ代金の支払いや経費などの支払い資金が不足してしまうことを指します。
とくに、新型コロナの影響で、短期間に急激に売り上げが落ち込んだ企業が多く出ました。しかし、その間もテナント料や正社員の給料といった「固定費」はかかり続けます。こうした状況で、対応が後手に回ると資金ショートのリスクが高くなります。

 小林所長は、資金ショートが起こる一般的な例として次のように挙げています。

  • 売上代金の回収期間と仕入れ代金の支払いのバランスが悪いため、売上代金を回収する前に支払い期日が来てしまう。
  • ・毎月発生する給料やその他経費をまかなうだけの粗利や、毎月返済する借入金の返済原資をまかなうだけの粗利と売上高が常習的に不足している。

 資金ショートを起こすまでの経緯やその後の対応は、信用調査会社のレポートで逐次公表されています。たとえば、東京商工リサーチから2020年9月10日に以下のような発表が出ていました。

 ANGELO(設立2013年4月、資本金4億8700万円)は再度の資金ショートを起こし9月10日、行き詰まりを表面化した。負債総額は125億3797万円(2019年2月期決算時点)。

 代表が新聞配達店での勤務の傍ら始めた不動産賃貸業を法人化。代表個人や関連企業とともにファミリー向けマンションや商業ビル、月極駐車場などを積極的に取得。代表は「家賃ゼロ賃貸」構想を打ち出すほか、書籍出版やメディア出演などで注目を集めて「姫路の不動産王」などと呼ばれていた。

 2017年2月期は売上高4億7400万円を計上、賃貸物件の増加から2019年2月期の売上高は13億7200万円まで増加。一方、取得した賃貸物件の稼働率が伸びず、広告宣伝費のほか、物件取得に連動して増加した多額の借入金の金利負担が重く5億9300万円の赤字を計上し、債務超過に転落した。

 以降、取引先への支払遅延が生じるなど資金繰りが悪化。2019年9月には金融機関に返済猶予を要請するとともに、新たな不動産管理会社に賃料回収業務を委託したほか、2020年3月には増資を行うなど経営再建を模索していた。しかし、事態は好転せず、今回の事態となった。

 なお、営業は継続中。

東京商工リサーチ

 小林所長は「どうしても、売上代金の回収期間と仕入れ代金の支払いのズレが大きく、資金繰りの厳しい業種もあります。たとえば建設業や医業の場合、規模によっては、簡単にいかないケースがあります。そのため、手形やファクタリングでズレを解消させる提案をすることもあります」と話します。

 債務超過による資金ショートするかもしれないという心配がある場合、経営者が事前にどんなことに取り組むべきでしょうか。小林所長は優先順位をつけた上で、次のような対応をアドバイスします。

 何が原因で資金ショートが起きているのかをつかむこと。資金ショートの原因をつかまずに、その場の資金繰りのために、あらゆるところから資金調達する事だけに明け暮れるのは良くありません。

 「売れない在庫2000万円を作ったこと自体が2000万円の損失を発生させた」と認識して、自社は赤字会社であることを自覚して対処すべきです。

 既存借入金の返済期日を見直しましょう。短期借入金の長期への変更や、借り換えを利用することで実質返済期間の延長を図ります。

 資産の売却や、事業に不要な投資資産の売却を検討しましょう。これらの対策を行いながら事業改善にとりくみます。また役員報酬の減額を行い、金融機関に事業改善の意気込みと誠意を表す事も大切です。

 小林所長は「資金ショートを起こさないための経営の基本があります」と話します。

  1. 自社の固定費(給料や家賃など売上高によって変動しない経費)をつかむ
  2. 売上高から変動費(仕入・材料費・外注費などの直接原価)を差し引いた「限界利益率」をつかむ
  3. 1.の固定費を2.限界利益率でまかなえる、当社の売上高(損益分岐点売上高)をつかむ
  4. 次に目標とする営業利益や借入返済のために必要な売り上げをプラスする
  5. 経常収支比率をプラスにする会社の事業構造を構築する

 経常収支比率とは、一定期間に発生する「売上代金等による経常的に発生する回収キャッシュ収入(経常収入)」と「仕入れ代金や固定費等のように経常的に発生するキャシュ支出(経常支出)」を比べた比率です。小林所長は「収入がプラスの経常収支比率105%あればまずは安心だと思います」と話します。

 小林所長は「経営計画シミュレーションなどを積極的に取り入れ、これからの会社の資金計画や損益計画も一緒に考える『未来会計』が、経営者の意思決定に役立つでしょう」と話しています。

小林清さん

税理士、税理士法人小林会計事務所長

横浜の中小企業を中心に、事業計画から資金計画、合理的な会計の仕組みを作り、人事の問題等のノウハウをこれから展開するステージに応じて経営のパートナーとしてサポートしてきた。事務所は、2019(令和元)年に設立40周年を迎えた。