目次

  1. 法人保険で節税できると言われてきた理由
  2. 法人保険の経費処理ルール【2019年(令和元年)6月改正後】
    1. 最高解約返戻率50%以下
    2. 最高解約返戻率50%超~70%以下
    3. 最高解約返戻率70%超~85%以下
    4. 最高解約返戻率85%超
  3. 法人保険に加入しても節税効果は得られない
    1. 法人保険に加入した場合
    2. 法人保険に加入しなかった場合
    3. 経費計上で赤字が発生しても税負担は変わらない
  4. 法人保険は保障機能を重視して加入する
  5. 法人におすすめの税金対策
    1. 経営セーフティ共済
    2. 役員社宅制度
    3. 小規模企業共済
  6. 法人保険は節税や課税の繰り延べを目的に加入しない

 法人保険で節税できるといわれているのは、保険料の一部または全部を損金に算入できるためです。特に「定期保険」や「第三分野保険(医療保険、がん保険)」など、掛け捨て型かつ解約返戻金のある法人保険に、節税目的で加入する方は少なくありませんでした。

 例えば、保険料の全額を損金に算入できる法人保険に加入し、年間1000万円の保険料を払ったとしましょう。法人税の税率を計算しやすいように30%とした場合、毎年300万円を節税できます。

 法人保険を解約して受け取った解約返戻金は、資産に計上されるため法人税の課税対象です。そこで、解約返戻率がもっとも高くなるタイミング解約し、役職員に退職金を支給して損金を計上する「出口戦略」をすることで、節税効果が期待できるといわれていました。

解約返戻率とは

解約返戻率とは、解約返戻金に対する払込保険料の割合。解約返戻率が100%未満の場合、保険を解約したときに戻ってくるお金が、払い込んだお金よりも少ないことを意味する。解約返戻率は、定期保険や第三分野保険の場合、契約から一定期間経過後にピークを迎え、その後低下していくのが一般的。

 定期保険や第三分野保険の経理処理ルールは、2019年(令和元年)6月に変更されました。これは、節税を目的とする法人保険の募集活動を制限するためです。

 以下、国税庁の『法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)(定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱い)』で公開されている「第1 法人税基本通達関係」の改正後の部分を元に、具体的にどのように経理処理ルールが変更されたのか、ご紹介します。

 新たな経理処理ルールでは、損金に算入できる保険料の計算方法が、解約返戻率の最高値に応じて、以下の4パターンに分けられています。

  • 最高解約返戻率50%以下
  • 最高解約返戻率50%超~70%以下
  • 最高解約返戻率70%超~85%以下
  • 最高解約返戻率85%超

それぞれの計算方法について、解説していきます。

 最高解約返戻率が50%以下である場合、支払った保険料の全額が損金に算入されます。

 最高解約返戻率50%超~70%以下である場合、被保険者1人あたりの年間保険料によって損金に算入できる保険料の計算方法が変わります。

 被保険者1人あたりの保険料が年間30万円以下の場合、支払った保険料の全額が損金算入です。一方、被保険者1人あたりの保険料が年間30万円を超えている場合、損金に算入できる保険料の割合は、以下3パターンに分かれて決められています。

  • 保険開始当初40%までの期間:60%損金算入(40%資産計上)
  • 保険開始当初から40%超75%にあたる期間:全額損金
  • 保険開始当初から75%超にあたる期間:全額損金+資産に計上していた40%分の保険料を残りの期間で均等に損金算入

 例えば、保険期間が20年であった場合、保険開始当初の40%である8年間は保険料のうち60%しか損金に算入できなくなります。

 最高解約返戻率70%超~85%以下である場合、以下3パターンに分けて損金算入できる保険料を計算します。

  • 保険開始当初40%までの期間:40%損金(60%資産計上)
  • 保険開始当初から40%超75%にあたる期間:全額損金
  • 保険開始当初から75%超にあたる期間:全額損金+資産に計上していた60%分の保険料を残りの期間で均等に損金算入

 最高解約返戻率50%超~70%以下の法人保険よりも、契約当初に損金算入できる割合は低下しています。

 最高解約返戻率85%超である場合、以下A〜Cに分けて損金算入額を計算します。

A.契約当初から10年

「年間支払保険料×最高解約返戻率×0.9」を資産に計上し、残りを損金に算入

B.11年目から返戻率が最高値を迎えるまで

「年間支払保険料×最高解約返戻率×0.7」を資産計上し、残りを損金に算入

C.解約返戻率の最高値を迎えたあと

「保険料の全額」と「それまで資産計上した金額を、解約返戻率がピークを迎えたあとから保険期間の満了まで均等に割った金額」の合計を損金に算入

 例えば、最高解約返戻率が95%、支払保険料が年間100万円であったとしましょう。

 損金に算入できる金額は契約最初の10年間が100万円-(100万円×95%×0.9)=14.5万円(14.5%)です。11年目から最高値を迎えるまでは、100万円-(100万円×95%×0.7)=33.5万円(33.5%)となります。

 一方で、最高解約返戻率100%の場合、損金に算入できる保険料は、契約最初10年間が100万円-(100万円×100%×0.9)=10万円(10.0%)、10年後からピークを迎えるまでが100万円-(100万円×100%×0.7)=30万円(30.0%)となります。

 このように経理処理ルールの変更により、解約返戻率の最高値が上がるほど、損金に算入できる保険料の割合が減る仕組みとなりました。

 経理処理ルールが改定される前から、そもそも法人保険に節税効果はなく、あくまで課税の先送り(課税の繰り延べ)でしかありませんでした。保険料の全額が損金に計上される保険に加入しても、解約返戻金は益金となり課税対象となるためです。

 例えば、以下の条件で法人保険に加入したとしましょう。

  • 法人利益:毎年2,500万円
  • 払込保険料:400万円(全額損金算入)
  • 解約返戻率:最大85%(加入から7年目)
  • 法人税の実効税率:30%
    ※計算しやすいように簡便な数値を用いています

 法人保険に加入すると、法人の利益は2500万円-400万円=2100万円まで減少するため、毎年の納税額は2100万円×30%=630万円です。契約から7年目に解約して、解約返戻金を受け取った場合、400万円×6年×85%=2040万円を受け取れます。

 解約返戻金と同額を、役職員の退職金として支給した場合、7年目の税負担は(2500万円+2040万円-2040万円)×30%=750万円です。よって納税額は、合計で630万円×6年+750万円=4530万円となります。

 法人保険に加入しなかった場合、納税額は毎年2500万円×30%=750万円です。7年後に退職金2040万円を支給した場合、7年目の法人税は(2500万円-2040万円)×30%=138万円となります。

 最終的な納税額は、750万円×6年間+138万円=4638万円です。法人保険加入時の納税額が4530万円であったため、108万円の節税効果が得られたように感じられます。

 しかし、納税額が108万円減ったのは、解約返戻金と払込保険料の差額である360万円分の法人税を支払う必要がなくなったためです。むしろ、法人保険に加入することで、企業の手持ち資金は360万円-108万円=252万円少なくなります。

 仮に解約返戻率が100%であった場合、法人保険に加入しても納税額に差は生じないため、課税が先送りされたに過ぎないといえます。

 退職金を含めた経費のほうが利益より少なく赤字が発生する場合、解約返戻金の受け取りと退職金の支給を同じ年にすると、節税メリットが得られたように思われます。

 しかし、赤字(欠損金)が発生した場合、欠損繰越金として最長で10年間は繰り越せるため、実は解約返戻金の受け取りと退職金の支給を合わせても、基本的に税負担は変わりません。

 例えば、退職金を支給して1000万円の赤字が発生したとしましょう。翌年以降の利益が1500万円であった場合、繰越欠損金の1000万円が差し引かれて、利益が500万円に減額され、税負担を軽減できます。

 退職をするのが企業の経営者であり、退職と同時に法人を精算する場合でない限り、法人保険に加入せずとも、赤字を翌年以降に繰り越して税負担を軽減できるのです。

 解約返戻率が高いほど損金に算入できる割合が減るルールに変更されたことで、節税どころか課税の繰り延べを目的として法人保険に加入するのも困難となりました。

 ルールが変更されたあとも、保険料の全額を損金に算入できる法人保険はあります。しかし、保険料を全額損金算入できる商品は、解約返戻率が低いため、課税の繰り延べ目的で加入すると払込保険料と解約返戻金の差額分だけ損をしてしまいます。

 そもそも法人保険は、基本的に企業を経営するうえでのリスクに備えたり、福利厚生を整えたりするために加入する保険です。節税や課税の繰り延べではなく、本来の加入目的に沿った活用方法を検討しましょう。

 法人保険に節税効果や税の繰り延べ効果がないとはいえ、税負担を抑えたい経営者の方もいらっしゃるでしょう。ここでは、節税する方法や課税を繰り延べる方法を合計で3点ご紹介します。

 経営セーフティ共済とは、取引先の業者が倒産してしまったときに、積立金額に応じた一定額の貸付を受けられる制度です。連鎖して自社が倒産したり、経営難に陥ってしまったりするのを防ぐのに役立ちます。

 経営セーフティ共済の掛け金は、全額を損金に算入可能です。また掛け金を40ヵ月以上納めていれば、掛金の全額が解約手当金として戻ってきます。

 ただし解約手当金は、益金に算入されるため、出口戦略を考えておきましょう。

 役員の住んでいるマンションやアパートなどの賃貸物件を、法人名義で契約している場合、企業が負担した家賃を損金に算入できます。

 また、企業が負担した金額分だけ役職員の報酬を下げると社会保険料が減るため、役員が個人の報酬から家賃を支払った場合よりも、手取り収入を増やせます。

 小規模企業共済とは、経営者や役員が退職金を積み立てるための制度です。個人が加入する制度であるため、掛金を企業の損金に算入するのではなく、小規模企業共済の掛金分だけ役員報酬を増やすことで節税効果が期待できます。

 小規模企業共済の掛金は、全額が所得控除となるため、経営者や役員の所得税や住民税の負担を軽減できます。

 ただし小規模企業共済は、常時使用する従業員数が職種によって決められた人数以下である場合しか加入できません。

 法人保険には、そもそも節税効果はなく、得られるのは課税の繰り延べ効果です。それが2019年(令和元年)6月の経理処理ルール変更によって、課税の繰り延べ効果も得るのが困難となりました。

 一方で、法人保険の保険料の一部または全部を、損金に算入できることで企業はコストを抑えて大きな保障を持てます。企業をさらに安定して経営していきたい方は、法人保険の活用を検討してみてはいかがでしょうか。