シニア社員を活用するには?モチベーションアップにつながる関わり方のコツ
少子化、労働人口減少に加え、70歳まで働ける機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法の改正により、これからの企業でシニア社員の活躍は欠かせません。しかし、現状はモチベーション低下が課題に挙がっています。多くの企業のシニア活躍を支援しているリクルートマネジメントソリューションズの星野翔次さんに、モチベーションアップや人材活用のポイントを聞きました。
少子化、労働人口減少に加え、70歳まで働ける機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法の改正により、これからの企業でシニア社員の活躍は欠かせません。しかし、現状はモチベーション低下が課題に挙がっています。多くの企業のシニア活躍を支援しているリクルートマネジメントソリューションズの星野翔次さんに、モチベーションアップや人材活用のポイントを聞きました。
目次
シニア社員に明確な定義はありませんが、この記事では、55〜70歳で、管理職ではないビジネスパーソンと、管理職ですが部下がいないビジネスパーソンと定義します。
以下が年齢の下限・上限の理由です。
高年齢者雇用安定法の改正では、70歳までの就業確保が規定されています。
具体的には、次の5つのいずれかを講ずることが企業の努力義務とされました。
1,2,3は、あくまで就業先における雇用を前提とした措置で、4,5は、創業支援等措置と呼ばれているもので、就業先における雇用によらない措置になります。
高年齢者雇用安定法の改正に対応する上で、以下3つの対応が必要になります。
継続雇用を前提とした制度(1~3)にするか、創業等支援措置を前提とした制度(4~5)にするか、対応方針の決定をする必要があります。
継続雇用を前提とした制度(1~3)であれば、評価制度・等級制度・報酬制度の見直しが必要になります。
創業等支援措置を前提とした制度(4~5)であれば、労使で同意した上で、業務委託契約の検討や、計画独立支援金や準備休暇の計画等が必要になります。
上記2つ「対応方針の決定」「方針に照らした人事制度の見直し」は、直近の対応としては必要です。
ただし、最も大切なことは、若手社員の頃から、キャリア形成に対する自律性を高める機会を企業が提供をすることでしょう。企業の人事部の方と話すと、社員に対して、シニアの年齢に差し掛かる直前で、今後の人生をどのように歩むか選択することを要望する傾向にあります。
これまでの労働や仕事に関する法律・慣習・文化などを考えれば自然なことですが、これからはキャリアを自身で選択する力や自社以外でも生かせる能力が必要となります。そのため、現在のままでは要望するタイミングが遅いと言わざるを得ません。
企業の対応として、最も重要なことは、社員が人生において大切なことをみつけ、それに照らして、人生を選択して、歩むといった自律性を高める機会を若手の頃から、提供することです。
具体的な手段としては、当該社員の上司への関わり方の研修や、当該社員へのキャリア研修やコーチングなどがあります。
――リクルートマネジメントソリューションズによる役職を外れた経験(ポストオフ経験)のある50~64歳の会社員766人への調査で、ポストオフ後の仕事に対する意欲・やる気の推移を見ると、「下がったまま」と回答した人が4割前後に上り、「一度下がって上がった」は2割前後にとどまりました。こうしたシニア社員に見られるモチベーションの低下の原因は何ですか。
さきほど紹介した高年齢者雇用安定法の改正が直接影響する65~70歳だけでなく、シニア社員全体を想定してお答えしましょう。
シニア社員の意欲低下という課題は、報酬・処遇に対する不満もさることながら、周囲との関わりが原因で起きていることが、シニア社員へのインタビューのなかで分かってきました。
多くの企業は、シニア社員の意欲低下だけに焦点を当てますが、「周囲との関わり」に焦点を当ててみると、疎外感、自信喪失、周囲からの期待低下、意欲低下というBadサイクルの構造になっています。
このサイクル図は、シニア社員だけではなく、若手社員にも当てはまると思います。
ただ、シニア社員の特徴として、自己を犠牲にしてでも積み重ねてきた会社への貢献や実績といった自負がある分、敬意の感じられない視線や言動に対して、より敏感になり、疎外感を強めるものだと考えます。
これは、シニア社員の「年長者は、敬うもの」という若い頃から大切にしてきた価値観も関係しているのかもしれません。
若手・中堅社員とのジェネレーションギャップや、ポストオフで組織上の役割を外れることで、周囲との関係が希薄になり、疎外感を覚える。
周囲からの相談が減り、自身が培ってきた経験・考え方に自信がなくなる。積極的に伝えることに引け目を感じる。
シニア社員からの働き掛けがないため、上司含め周囲から、期待や要望をかけられなくなる。
仕事に取り組む姿勢が鈍くなり、その意欲や言動に対して周囲からネガティブにみられる。
――それでは、シニア社員のモチベーション低下を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。
モチベーションを上げるためには、下記3つが必要だと考えています。
シニア社員の意欲低下が起こるサイクルは先ほど紹介した通りです。つぎに、シニア社員の意欲向上が起こるGoodサイクルに共通したポイントをまとめました。
組織での役割を担い、周囲と協力して仕事を進めることで組織への参加や周囲との協働実感を得られる。
自分の経験や考え方を伝えることで、貢献感を感じ、自信を積み重ねていく。
周囲からの認知・賞賛を得られ、さらに期待・要望をかけられる。上司から相談されるようになり、周囲とのコミュニケーションが増大する。
仕事に取り組む姿勢が前向きになり、周囲からの印象・評価も向上する。貢献のためにさらなる学習や挑戦にも意欲的になる。
――それでは、こうしたサイクルを踏まえて、具体的なシニア社員との関わり方を教えてください。
1つ目として、シニア社員と上司の相互理解が挙げられます。具体的な関わり方として、上司自身の仕事観・シニア社員に対する想い・助けてほしい領域など上司から自己開示をしてみましょう。
そして、シニア社員を役割や属性ではなく、一人の人間として向き合いましょう。シニア社員の強み・持ち味・仕事上のこだわりを聞く・見つけることに加え、プライベートにも関心を向けましょう。
最後に、シニア社員の持ち味・強みが発揮でき、若手と交流できる出番を意図的につくりましょう。例えば、シニア社員の持ち味・強みが生かせる役割やプロジェクトにアサインすることが考えられます。
2つ目として、ナレッジの共有の場をつくることが挙げられます。具体的な関わり方として、仕事のナレッジと、その裏側にある、仕事への考え方、思い、こだわりについても共有しましょう。そこで、シニア社員の経験や考え方が、組織や周囲に役に立つことを、若手との交流を通じて実感してもらうことが大切です。
3つ目として、シニア社員の仕事ぶりを、結果・行動・あり方に分けた場合、あり方に焦点を当てて認知しましょう。そうすることで、シニア社員の自己肯定感が高まり、意欲が高まりやすいのです。
さらに、自己肯定感を土台に、どんなことに貢献したいかを問うて、その先の目標を一緒につくりましょう。このとき、上司からの「こうあるべき」だけではなく、シニア社員の「こうありたい」も尊重しましょう。
例 | |
---|---|
結果 | 「新規大型プロジェクトの受注、さすがですね」 |
行動 | 「10社を越える新規提案。そのアクションを素晴らしいと思いました」 |
あり方 | 「私は、○○さんのことを目標に向かってあきらめることなく、真摯に取り組む人だと、感じています。そのあり方が、周囲に良い影響を与えてますよね」 |
4つ目として、シニア社員の強み・持ち味のどの部分なら、周囲に貢献できるかを共有しつつ、期待をかけましょう。認知や頼る関わりをメインコミュニケーションとした上で、要望すべき点は、一対一で要望しましょう。
とくに下記のように期待に照らして、要望することが、重要です。
(例)「○○さんには、経験豊富なシニア社員として、ナレッジを若手・中堅社員に展開してほしいと考えています」
(例)「自身の仕事は真摯に取り組まれておりますが、そこから得たナレッジを積極的に展開することを、やや避けてしまう傾向があるように私は見えています」
(例)「まずは、自身のナレッジの言語化に取り組み、言語化したものをグループ会の場で、展開して欲しいです」
(例)「このような期待や要望を聞いて、どのように思われますか?」
――シニア社員の持ち味・強みがどうしても見つからない場合はどうすればいいですか。
正直なところ、その状況から活躍の場を提供することは、難度が高いと思います。そのため、企業の対応として、最も重要なことは、社員自身の人生において大切なことを見つけ、それに照らして、人生を選択して、必要な知識やスキルを習得するといった自律性を高める機会を若手の頃から、提供することです。
――さいごに、シニア社員と一緒に仕事をする上でのポイント・注意点を教えてください。
社内にシニア社員を集めた組織をつくろうと考えている企業があるかもしれません。しかし、慎重に検討したほうが良いでしょう。
とある企業で、シニア社員のマネジメントが難しいので、特定の組織にまとめて、マネジメント力の高い管理職を据えたことがありました。
良い面として、お互いのことが深く分かり合えるので、当該組織だけの一体感は醸成できました。しかし、悪い面として、新しい方針や戦略を提示された際に、苦手分野を扱う方針だと愚痴の言い合いになり、一向に戦略が推進されないという事態が起きました。
加えて、シニア社員は、若手・中堅に関わりたいと思っているものの、自身が関わると新しい方針や戦略に悪い影響を与えると思い、若手・中堅との関わりを遠慮し、新しいナレッジやノウハウをキャッチアップできなくなってしまいました。
以上のように、シニア社員を集めた組織は、良い面・悪い面があるので、事業戦略や影響力という観点に照らして慎重に検討することを推奨します。
リクルートマネジメントソリューションズHRDサービス開発部 パーソナルディベロップメントグループ
2013年、リクルートキャリア(現リクルート)入社。管理職として、部下がパフォーマンスを最大限発揮できるコミュニケーションを追求。その取り組みが評価され、数々の表彰を受ける。2019年より現職。現在は、コーチングサービスを提供する部門にて、1on1ミーティングやエグゼクティブコーチングの導入支援などに携わっている。キャリアコンサルタント(国家資格)。
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