目次

  1. デジタルディスラプションとは
  2. デジタルディスラプションの国内事例
    1. AKIRA
    2. 文教堂グループホールディングス
    3. mixi
    4. グリー
  3. デジタルディスラプションが起こる理由
    1. イノベーションのジレンマ
    2. 人材不足や既存システムの壁
    3. デジタル化の目的が業務効率化
  4. 組織変革に必要なDXの進め方
    1. 組織の改革、推進体制の構築
    2. 実施を阻害する制度・慣習の改革
    3. 必要な人材の育成・確保

 ディスラプション(disruption)は英語で「崩壊」を意味します。デジタルディスラプションとは、デジタル技術がもたらす破壊的イノベーションのことを指します。

 たとえば、Amazonの台頭で小売業界が経営破綻に追い込まれたり、Netflixなどのインターネット動画配信サービスによりレンタル業界の市場が大幅に縮小したりした事例があります。

 ただし、デジタルディスラプションは、海外だけの話ではありません。令和3年(2021年)版情報通信白書には、国内企業の事例も次のように紹介されています。

 子ども服に特化したリサイクルショップ「ECO&KIDS AKIRA」を展開していたAKIRAは最盛期には全国で74店舗を展開していましたが、2018年10月に破産しました。経営悪化の原因として、白書はメルカリなど急速に台頭したフリマアプリに商材と顧客を両方とも奪われたことを挙げています。

 新規参入してきたメルカリは、スマホ完結型サービスを構築して「AI出品機能」や「写真検索機能」などの既存ビジネスと異なる付加価値を提供しており、こうしたことが大きく影響したとみられます。

 1898年に創業し、全国に161店(2018年8月時点)を展開する中規模の書店チェーン「文教堂」は2019年6月、私的整理の一種である事業再生ADRの利用を申請し、受理されたと発表しています。原因として、白書はインターネット通販やデジタルコンテンツの普及により書籍の市場規模の縮小傾向が続いていたことを挙げています。

 これに対し、インターネット通販やデジタルコンテンツ配信は、デジタルデータで課題を数値化・指標化し、「短サイクルの効果検証」を繰り返して対策を絞る、更なる改善のため業務プロセスを幅広く見直し「全体最適化」を図ることで、リアル店舗より競争力を高めようとしています。

 先発のデジタル企業が、後発のデジタル企業によるディスラプションの脅威にさらされる事象も起きています。

 2011年に月間のアクティブユーザー数(MAU)が1500万人を超える人気コミュニティサイトを運営していたmixiは、「既存ユーザーに忖度して実名制へ移行できずにいるうちに、実名制を導入しているFacebookが日本にやってきて敗北」したと白書では指摘しています。

 Facebookは、実名制を基本とした正確なデータベースによるターゲティング精度の高い広告、知り合いかもしれない人を自動で表示する機能を用いたネットワーク効果の活用によってユーザーの拡大に成功しました。

 ケータイゲームの雄として業界を牽引したグリーは、2012年以降業績が低迷。2012年6月期には1582億だった売上高は、2018年6月期は589億円に激減しました。

 スマホ向けのアプリ配信プラットフォームが台頭するなか「グリーは強みであったガラケー向け自社プラットフォームを捨てきれなかったため、結果として乗り遅れた」と白書では指摘しています。

 デジタルディスラプションが起こるのには、いくつか理由が考えられます。

 イノベーションのジレンマとは、業界のシェアをにぎる企業が顧客の意見に耳を傾け、製品サービスの改良に注力するなかで、論理的に正しい経営判断だったとしても、破壊的イノベーションへの対応が遅れ、市場のリーダーシップを失ってしまう現象のことです。経済学者クレイトン・クリステンセンが提唱しました。

 有名な事例としては、銀塩フィルム大手のコダックが、デジタルカメラの市場拡大についていけず、経営破綻に陥りました。デジカメを開発していたにもかかわらず、既存事業とカニバリズムを起こしかねず、当初は性能的に劣るデジタルカメラを軽視したためだと指摘されています。

 既存企業でDXを進める上での課題も見えてきています。日本、アメリカ、ドイツでDXを進める上での課題を尋ねたところ、日本では圧倒的に「人材不足」という回答が多く寄せられました。日本ではとくにICT人材がICT企業に偏在していると情報通信白書が指摘しています。

日米独で比較したデジタル・トランスフォーメーションを進める際の課題(令和3年版情報通信白書から引用)

 さらに既存システムもDX推進の壁になっているという回答も多く寄せられました。具体的には「既存システムの機能が制約となってビジネスプロセスを変えられない」「既存システムから必要なデータを取り出せない」「既存システムとWebサイトやスマホアプリと連携できない」といった声が多く出ています。 

 これまで破壊的イノベーションをおこしてきた企業の多くは、DXで新たな価値創造に取り組んでいました。しかし、情報通信白書によると、日本企業のDXは、社内業務の効率化など、社内で完結する「内向き」の取組である、と指摘しています。

 そのうえで次のように提言しています。

 「我が国企業が生き残っていくには、デジタル技術を単に業務効率化のためのツールとして使うのではなく、デジタルを前提とした組織、文化、働き方に変革するとともに、新しい製品やサービス、ビジネスモデルを通して新たな価値の創出につなげるデジタル・トランスフォーメーションに取り組むことが求められている」

 デジタルディスラプションに対処するには、自社でもDXにより新たな価値を生み出していく必要があります。DXの進め方について、情報通信白書が挙げたポイントの中からいくつか列挙します。

 日本は米国・ドイツと比べて経営層(社長、CIO、CDO)の関与が少ないという調査結果があります。そこで、DXを進めるには、まず経営層が深く理解したうえで、企業全体を巻き込んだ取り組みに発展させる必要があります。

 デジタル・トランスフォーメーションの実施を阻害するものとして規制・制度や文化・業界慣習の存在を挙げる企業は多いと白書は指摘しています。

 たしかに、法制度など変更に時間のかかるものもありますが、業務をデジタルで完結できない手続きや、リモートでの勤務を認めない就業規則、端末やデータの社外持ち出しを全面的に禁止するセキュリティポリシーなど社内で取り組めるところから着手するよう勧めています。

 デジタル・トランスフォーメーションの推進に必要な人材は、デジタル技術に詳しいだけでなく、ビジネスを理解し、UI/UXを意識したデジタルデザインができる人材も必要と言われています。

 これをすべて自社でまかなうのは難しいため、外部のリソースを活用しながら、長期的には社会人になってから学び直すことでより高度な知識を獲得する「リカレント教育」も見据える必要があります。